「うちはパートだから関係ない」と思っていた社長が、ある日突然加入義務を指摘された話
山田は先日、飲食店を経営する顧問先の社長から「うちはパートしかいないから社会保険は関係ない」と言われた。しかしその言葉が引っかかり、スタッフの勤務状況を確認してみると、思わぬ事実が浮かび上がってきた。
山田: 「木村先生、顧問先の飲食店の社長に『うちはパートだから社会保険は関係ない』と言われたんですが、本当にそうなんでしょうか。週25時間働いているスタッフが5人いると聞いて、少し気になっています。」
木村先生: 「その社長の判断は間違っている可能性が高いです。社会保険の加入義務は『正社員かパートか』という雇用形態では決まりません。条件を満たしていれば、パートでも加入義務が生じます。」
山田: 「その条件というのは具体的にどんなものですか?」
木村先生: 「4つあります。週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上、雇用期間が2か月を超える見込みがあること、学生でないこと。この4つをすべて満たすと加入対象です。ただしもう一つ、会社の規模という条件も加わります。」
山田: 「会社の規模というのは?」
木村先生: 「現在は従業員51人以上の会社が対象です。ただしこの『51人』は、社会保険にすでに加入している従業員、つまり正社員や4分の3以上の時間で働くスタッフの数を指します。全従業員数ではありません。だから正社員が少なくても、条件に達する会社は思ったより多い。」
山田: 「週25時間のパートが5人いるということは、もし他にも正社員やフルタイムに近いパートが46人以上いれば、その5人全員に加入義務が出る、ということですね。」
木村先生: 「そうです。そしてもう一つ重要な変更が迫っています。2027年10月からは対象が従業員36人以上に広がります。さらに2029年、2032年、2035年と段階的に拡大が続き、最終的にはすべての会社が対象になります。」
山田: 「顧問先の社長は従業員20人ほどの会社だと言っていましたが、今すぐは関係なくても、あと数年で対象になる可能性があるわけですね。」
木村先生: 「はい。だから今から準備しておく価値はあります。週20時間以上・月8.8万円以上のスタッフが何人いるかを把握しておくだけで、加入が必要になったときにスムーズに対応できます。」
山田: 「月8.8万円の判断でよく間違えやすいポイントはありますか?」
木村先生: 「よく聞かれます。この8.8万円は所定内賃金、つまり基本給と固定手当だけで計算します。残業代・通勤手当・賞与は含めません。なので実際の受取額が8.8万円を超えていても、所定内の金額が8.8万円未満であれば対象外になることがあります。逆も然りで、残業が少ない月でも固定給が高ければ対象になります。」
山田: 「その基準も、2026年10月以降は変わると聞きましたが。」
木村先生: 「そうです。2026年10月に月8.8万円という賃金要件が撤廃されます。その後は、最低賃金以上で週20時間以上働けばほぼ自動的に加入対象になる。つまり、『給料が少ないから関係ない』という判断も2026年以降は通用しなくなります。」
山田: 「今回の社長に何から確認してもらえばいいでしょう?」
木村先生: 「まずスタッフ全員の週の所定労働時間を確認する。週20時間を超えている人がいれば、次に月の所定内賃金が8.8万円以上かどうかを見る。それだけで大半は判断できます。不明な点があれば年金事務所への相談が確実です。」
「パートだから関係ない」という思い込みは、最も多いタイプのミスだ。雇用形態ではなく、週の労働時間と給料の金額で判断する。その原則さえ知っておけば、突然の指摘に慌てることはない。