産前産後休業終了時報酬月額変更届とは

山田
先生、そもそも「産前産後休業終了時報酬月額変更届」ってどんな届出なんですか。名前が長くて覚えられません(笑
木村先生
ざっくり言うと、産休から復帰した従業員の給料が下がったときに、通常の随時改定を待たずに社会保険料の基準を早めに見直せる届出です。産休明けは時短勤務や所定外労働の免除で、休業前より報酬が下がるケースが多いですからね。
木村先生
そうなんです。随時改定は2等級以上の変動が必要ですが、この届出なら1等級以上の差でも改定できます。産休明けの給与変動をきめ細かく反映させるための特例なんですよ。
山田
なるほど!産休で下がった給料に社会保険料が追いつかない問題を解消する仕組みってことですね。根拠になる法律とかあるんですか。
木村先生
健康保険法第43条の3、厚生年金保険法第23条の3が根拠条文です。健保組合の事務担当者向けページでもこの条文番号を明記して案内していますよ。制度自体は平成26年、つまり2014年4月1日以降に産前産後休業が終了した被保険者から対象になっています。
山田
結構前からある制度なんですね。てっきり最近できた新しい仕組みかと思っていました(笑
木村先生
いえいえ、10年以上前からある制度なんです。ただ知名度が低くて、総務担当でも知らない方が結構いらっしゃいますよ。
山田
恥ずかしながら、ぼくもさっきまで知りませんでした(笑。じゃあ具体的に、随時改定とはどう違うのか気になります。
随時改定・育休版との違い(要件比較)

| 項目 | 随時改定 | 産前産後休業終了時改定 | 育児休業等終了時改定 |
|---|
| きっかけ | 昇給・降給などの固定的賃金変動 | 産前産後休業の終了 | 育児休業等の終了 |
| 等級要件 | 2等級以上の差 | 1等級以上の差 | 1等級以上の差 |
| 支払基礎日数 | 変動月から3か月連続で17日以上 | 3か月のうち1か月でも17日以上(短時間労働者は11日以上) | 3か月のうち1か月でも17日以上(短時間労働者は11日以上) |
| 対象となる子の年齢 | 関係なし | 産休に係る子(年齢要件なし) | 3歳未満の子を養育中 |
| 改定タイミング | 変動月から4か月目 | 産休終了日の翌日が属する月から4か月目 | 育休終了日の翌日が属する月から4か月目 |
山田
ほんとに!等級要件が半分近くまで緩くなるんですね。マジですか、それはかなり違いますね!
木村先生
そうなんです。1等級の差でも改定できるので、産休明けの緩やかな給与変動でも社会保険料に反映しやすくなります。支払基礎日数も、随時改定は3か月とも17日以上必要なのに対して、産休終了時改定は3か月のうち1か月だけ17日以上あれば足りるので、時短勤務が多い産休明けの実態に合わせた設計と言えますね。
山田
育休版との違いは対象になる子の年齢だけですか。
木村先生
実務上の一番の違いはそこですね。産前産後休業終了時改定は「その産休に係る子」を養育していれば年齢を問いませんが、
育児休業等終了時月額変更届は3歳未満の子が対象という条件が付きます。ただ、多くの場合は産休の直後に育休へ入るので、実際には育休版を使うケースのほうが多いんですよ。
山田
あれ、じゃあこの産休版を単独で使う場面ってどんなときなんですか。
木村先生
いい質問です。産休が終わった後、育休を取らずにそのまま職場復帰した場合ですね。次のセクションで対象になる人・ならない人を詳しく整理しましょう。
対象になる人・ならない人
木村先生
対象になるのは、産前産後休業終了日にその産休に係る子を養育している被保険者、それと70歳以上被用者です。産休が終わって復帰したあと、次の2つの条件を両方満たす必要があります。
木村先生
1つ目はこれまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること。2つ目は産前産後休業終了日の翌日が属する月以後3カ月のうち、少なくとも1カ月における支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上であることです。この2つを満たして初めて申出できます。
⚠️ 産休終了日の翌日に育休を開始している場合は申出不可
日本年金機構の案内では「産前産後休業終了日の翌日に育児休業を開始している場合は、申出できません」と明記されています。産休のあとすぐ育休に入る従業員については、この産休版ではなく育児休業等終了時月額変更届を使うことになります。総務担当は「産休明けにそのまま復帰したのか、育休に入ったのか」を必ず確認してから、どちらの届出を使うか判断してください。
山田
なるほど、産休のあと即復帰した人だけが対象になるってことですね!これは総務内でチェックリスト化しておかないと危なそうです。
木村先生
そういうことです。あともう1つ、短時間就労者(パート・アルバイト)の場合、3か月とも支払基礎日数が17日未満だったときは、そのうち15日以上17日未満の月の報酬月額の平均で算定するという例外規定もあります。時短でパートに近い働き方をしている人でも、条件次第で改定の対象になり得るということですね。
山田
細かいところまで配慮されているんですね。じゃあ実際に手続きするときの流れを教えてもらえますか。
手続きの流れ
木村先生
ここからは実際の手続きの流れです。誰が何をするのか、順番に見ていきましょう。
手順
-
本人が要件を確認する
産休終了日の翌日が属する月以後3か月の報酬を確認し、1等級以上の差が出そうか、支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日)以上の月があるかを確認します。
-
本人が事業主へ申出書を提出する
産前産後休業終了時に、その産休に係る子を養育している被保険者から事業主へ申出書を提出します。
-
事業主が届書を作成する
事業主が「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業終了時報酬月額変更届」(70歳以上被用者は相当額変更届)を作成します。
-
事業主が日本年金機構へ提出する
提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所です。提出方法は電子申請、郵送、窓口持参のいずれかを選べます。
-
標準報酬月額が改定される
産休終了日の翌日が属する月から数えて4か月目の標準報酬月額から改定されます。添付書類は原則不要ですが、本人以外が電子申請する場合は電子署名または委任状が必要です。
山田
提出時期に期限とかあるんですか。うっかり忘れそうで心配です!
木村先生
公式の案内では「速やかに」提出するとされています。厳密な日数の期限は明記されていませんが、改定が遅れるとその分だけ標準報酬月額と実際の報酬のズレが長引くので、産休明け3か月間の給与が確定したらできるだけ早く手続きするのが実務上の基本です。
山田
添付書類はいらないんですね、それは助かります。
木村先生
原則不要です。ただし申請者本人以外が電子申請を行う場合は、原則として申請者と代理人双方の電子署名が必要になります。委任状を画像ファイルで添付するか、電子申請様式の「届出意思の確認」欄にチェックを入れれば、申請者本人の電子署名を省略できます。ここは総務担当がよく引っかかるポイントなので、次のセクションで注意点として整理しておきますね。
実務上の注意点
山田
お願いします。総務として気をつけることを教えてください。
改定後の標準報酬月額はいつまで適用される?
決定された標準報酬月額は、1〜6月に改定された場合はその年の8月まで、7〜12月に改定された場合は翌年の8月まで適用されます。これは標準報酬月額の仕組みで説明している定時決定と同じ「その年の8月まで」というルールに合わせた設計です。産休終了時改定を使った後に、さらに固定的賃金の変動があれば随時改定の要件を満たした時点で再度改定されることもあります。
山田
じゃあ改定して終わりじゃなくて、その後また変わることもあるんですね。
木村先生
そうです。産休終了時改定はあくまで「産休明けの給与実態に早めに合わせる」ための一度きりの調整であって、その後の昇給・降給まで自動的に反映してくれるわけではありません。
⚠️ 育休を挟む場合は届出の選択を間違えない
産休の直後に育休を取得する従業員については、産前産後休業終了時報酬月額変更届は使えません。育休が明けたタイミングで育児休業等終了時月額変更届を検討することになります。逆に、産休中や育休中は産前産後・育児休業中の社会保険料免除という別の制度で保険料そのものが免除されるので、「免除」と「改定」を混同しないよう総務内で用語を整理しておくと従業員説明がスムーズです。
山田
免除と改定、たしかにごっちゃになりそうです。時短勤務が長引く場合の対応も気になります。
木村先生
育児のために時短勤務を続ける場合は、
育児時短勤務中の標準報酬月額特例という、将来の年金額に不利にならないようにする仕組みもあります。産休終了時改定で標準報酬月額を実態に合わせつつ、年金額への影響が心配な従業員にはこちらも案内してあげるとよいでしょう。あと、2等級以内のわずかな変動でも見直せる
随時改定の特例改定という別の仕組みもあるので、産休明け以外のケースで給与が下がった相談を受けたときは、そちらも合わせて確認してみてください。
山田
いろいろ関連する制度があるんですね、頭が整理できてきました。最後に基本情報をまとめてもらえますか。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|
| 制度名 | 産前産後休業終了時報酬月額変更届 |
| 根拠法 | 健康保険法第43条の3、厚生年金保険法第23条の3 |
| 対象となる被保険者 | 産前産後休業終了日にその産休に係る子を養育している被保険者、70歳以上被用者 |
| 適用開始 | 産前産後休業終了日が2014年4月1日以降の被保険者から対象 |
| 等級要件 | 1等級以上の差 |
| 支払基礎日数要件 | 3か月のうち1か月でも17日以上(特定適用事業所の短時間労働者は11日以上) |
| 改定タイミング | 産休終了日の翌日が属する月から4か月目 |
| 適用期間 | 1〜6月改定はその年の8月まで、7〜12月改定は翌年の8月まで |
| 提出時期 | 速やかに |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
| 提出方法 | 電子申請、郵送、窓口持参 |
| 添付書類 | 原則不要(本人以外の電子申請は電子署名または委任状が必要) |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 日本年金機構 |
| 公式ページ | https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/sankyu-menjo/20140327-01.html |
山田
これはありがたいです、印刷して手元に置いておきます!
具体的な計算例で確認する
山田
先生、頭では分かったんですけど、実際の数字で見ないとまだピンときません(笑。簡単な例で教えてもらえますか。
木村先生
いいですよ。健保組合の解説でも「3月1日に産前産後休業が終了する場合」という例が紹介されていましたね。それをもとに、仮の数字で流れを追ってみましょう。
計算の流れをイメージでつかむ
産休終了日が3月1日だったと仮定します。改定の対象になるのは、産休終了日の翌日が属する月、つまり3月・4月・5月の3か月間の報酬です。この3か月間のうち支払基礎日数が17日以上の月の報酬を平均し、休業前の標準報酬月額と比べて1等級以上の差があれば、6月分(産休終了日の翌日が属する月から数えて4か月目)から標準報酬月額が改定されます。
山田
3月に産休が終わったら、6月分の保険料から変わるってことですね。
木村先生
そうです。3・4・5月の報酬を平均して、6月分から新しい標準報酬月額が適用される、という流れですね。もし6月分から改定されたのなら、その年の8月まで適用が続きます。もし7〜12月の間に改定タイミングが来た場合は、翌年の8月まで適用される点も忘れないでください。
山田
あ、さっきの基本情報まとめの表にあった「1〜6月改定はその年の8月まで」って、こういうことだったんですね!
木村先生
そういうことです。定時決定と同じ「毎年8月まで」というサイクルに合わせているので、
標準報酬月額の仕組みを先に理解しておくと、このタイミングの感覚がつかみやすいと思いますよ。
類似する社会保険トピックとの比較
木村先生
産休・育休まわりの標準報酬月額の見直しは、似た制度がいくつも並んでいて混乱しやすいところです。まとめて見ておきましょう。
山田
こう並べると、産休・育休のライフイベントごとに使う制度が変わっていくのがよくわかりますね!最初は全部同じ制度だと勘違いしていました(笑
木村先生
よくある勘違いですね。似た名前の届出が多いので、社労士でも一瞬迷うことがあります。ポイントは「報酬が下がった実態を保険料に反映させる改定系」と「そもそも保険料自体をゼロにする免除系」を分けて考えることです。産休中・育休中は免除、産休明け・育休明けの給与変動には改定、という時系列で覚えると整理しやすいですよ。
山田
免除は休んでいる最中、改定は復帰したあと、ってことですね!これで完全に頭の中が整理できました。
木村先生
そうなんです。「免除」なのか「改定」なのか、そして対象が「産休の子」なのか「3歳未満の子」なのかを整理して覚えておくと、実務で迷いにくくなります。それでは最後に、よくある質問をいくつか見ていきましょう。
よくある質問
山田
先生、これだけは聞いておきたいことがあります。育休を取らずにすぐ元の勤務時間に戻った場合はどうなるんですか。
木村先生
その場合でも、産休終了日の翌日が属する月以後3か月間の報酬が休業前より下がっていれば、産前産後休業終了時報酬月額変更届の対象になり得ます。時短勤務でなくても、所定外労働(残業)が減ったことで報酬が下がるケースもあるので、育休を取らないから対象外、というわけではありません。
木村先生
使えます。産前産後休業終了時報酬月額変更届は下がったときだけでなく、1等級以上の差が生じれば上がった場合にも申出できます。実務では復職後に手当が加わって報酬が上がるケースもあるので、下がった場合専用の制度ではない点を覚えておいてください。
山田
申出書は従業員が自分で年金機構に出すんですか、それとも会社が出すんですか。
木村先生
被保険者本人から事業主へ申出書を提出し、その申出を受けた事業主が「産前産後休業終了時報酬月額変更届」を日本年金機構へ提出する流れです。年金機構への提出者はあくまで事業主になります。
山田
70歳以上の従業員がいる会社でも関係ある制度なんですか。
木村先生
はい、70歳以上被用者も対象に含まれます。この場合は健康保険の標準報酬月額と合わせて、厚生年金保険料の対象とはならない「70歳以上被用者産前産後休業終了時報酬月額相当額変更届」という届書を使います。名称が長いので、様式を選ぶときは対象者の年齢を必ず確認してください。
山田
えっ、そんな長い名前の届書もあるんですね(笑。パートタイムで働いている従業員でも対象になりますか。
木村先生
対象になります。特定適用事業所に勤務する短時間労働者であれば、支払基礎日数の要件が17日ではなく11日以上に緩和されますし、3か月ともその日数に届かない場合は15日以上17日未満の月の平均で算定する例外もあります。パートだから対象外、と決めつけずに一度確認してみてください。
山田
産前産後休業終了時報酬月額変更届を出し忘れたら、あとから遡って改定してもらうことはできますか。
木村先生
明確な提出期限は「速やかに」としか案内されていませんが、実務上は3か月分の報酬が確定した時点でできるだけ早く手続きするのが原則です。遡及改定の可否は個別事情によるので、提出が遅れそうな場合は早めに管轄の年金事務所または事務センターに相談することをおすすめします。
関連書類・リンク
木村先生
最後に公式の参照先をまとめておきます。届書のダウンロードや記入例は必ず最新版を年金機構のページで確認してください。
山田
ありがとうございます、これで産休明けの給与変動があったときも迷わず対応できそうです!
木村先生
産休・育休関連の届出は種類が多いですが、1つずつ「誰の何がきっかけか」を押さえれば整理できます。困ったときはまた聞いてくださいね。