育休復帰後に給与が下がったらどうなる?
山田
木村先生、うちのスタッフが育休から時短勤務で復帰したんですけど、給与がかなり下がったんです。でも社会保険料は以前のままで……これって手続きが必要ですよね?
木村先生
そうです、見落とされやすいんですが、必要な手続きがあります。「育児休業等終了時報酬月額変更届」というもので、育休明けに給与が下がった場合に、標準報酬月額を改定できる特例的な届出です。
山田
「特例」ってことは、通常の月額変更届とは違うんですか?
木村先生
はい、大きく違います。通常の随時改定(月額変更届)だと、「固定的賃金の変動があること」「2等級以上の差があること」「3か月すべての基礎日数が17日以上」という3つの要件が全部そろわないといけないんです。ところが、時短勤務に切り替えた場合は、固定的賃金の変動要件を満たせなかったり、2等級以上の差がなかったりして、随時改定に引っかからないケースが意外と多いんです。
山田
えっ、給与がちゃんと下がっているのに保険料が変わらないことがある、ということですか?
木村先生
そうなんです。だからこそ、育休明け専用の特例手続きが用意されているわけです。この届出を使えば、固定的賃金の変動がなくても、1等級以上の差があれば改定できます。随時改定の「2等級以上」より緩やかな要件なので、対象になりやすいですよ。
山田
なるほど。じゃあ、どういう条件の人が対象になるんでしょう?
木村先生
3つの要件を確認しましょう。次のセクションで詳しく見ていきます。
届出の対象者と3つの要件

木村先生
まず前提として、育休終了日に3歳未満の子を養育していることが必要です。3歳を超えていると対象外になります。
山田
3歳未満、ですね。そこからさらに要件があるんですか?
木村先生
あと2つあります。1つ目は、従前の標準報酬月額と育休終了後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること。2つ目は、育休終了日の翌日が属する月以後3か月のうち、少なくとも1か月で支払基礎日数が17日以上あることです。
木村先生
月給制の社員なら暦日数、日給制なら実際の出勤日数のことです。月給の社員であれば、基本的に1か月で17日以上ある月が1か月でもあればOKなので、そこはクリアしやすいですよ。
木村先生
特定適用事業所(社会保険の適用拡大対象事業所)に勤める短時間労働者は、支払基礎日数が「11日以上」でOKになります。またパートタイム労働者で3か月すべて17日未満の場合は、15日以上の月の平均で計算するという特例もあります。
山田
細かく分けられているんですね。まとめるとこういう感じですか?
| 要件 | 内容 |
|---|
| 前提 | 育休終了日に3歳未満の子を養育していること |
| 等級差 | 従前と改定後の標準報酬月額に1等級以上の差があること |
| 基礎日数(月給制・一般) | 3か月のうち1か月以上で17日以上 |
| 基礎日数(短時間労働者) | 特定適用事業所の短時間労働者は11日以上 |
| 基礎日数(パート) | 3か月すべて17日未満の場合は15日以上の月の平均で算定 |
木村先生
そのとおりです。ここで注意してほしいのは、この届出は従業員本人の申し出が前提という点です。随時改定とは違い、要件を満たしていても自動的に手続きされるわけではありません。
山田
えっ、従業員が言ってこなければ、会社は何もしなくていいんですか?
木村先生
制度上はそうなのですが、それでは従業員が損をしてしまう。だから実務では、育休復帰時に会社からこの制度を説明して、希望を確認するのがベストプラクティスです。従業員が知らずに申し出をしそびれるのを防ぐために、ひと声かけてあげてください。
山田
確かに、知らなかったら損しっぱなしですよね。わかりました。
⚠️ 要注意:申し出がなければ手続きできません
育児休業等終了時月額変更届は、被保険者(従業員)本人の申し出があって初めて事業主が提出できる「任意の届出」です。随時改定のように要件を満たせば自動的に改定されるわけではありません。育休復帰時に会社側から制度の説明をして、希望確認を行うことを強くお勧めします。
標準報酬月額の改定タイミングと適用期間
山田
要件を満たしていれば、保険料はいつ変わるんですか?
木村先生
育休終了日の翌日が属する月の翌月から3か月分の報酬を平均して、4か月目から標準報酬月額が改定されます。
山田
例えば4月に育休が終わった場合、どうなりますか?
木村先生
育休終了日の翌日が4月に属するとします。その場合、5月・6月・7月の3か月分の報酬を平均して、8月から標準報酬月額が変わります。4か月目の8月から改定、ということですね。
山田
ということは、復帰してから4か月は以前の保険料を払い続けるわけですか?
木村先生
そうです。そこはやむを得ない部分です。3か月分の平均を計算するので、どうしても時間がかかります。ただ、届出は速やかに提出することが求められていますので、3か月が経過したらすぐに手続きするのがポイントです。
山田
改定された標準報酬月額は、いつまで使われるんですか?
| 改定時期 | 適用期間 |
|---|
| 1月〜6月に改定 | 当年8月まで |
| 7月〜12月に改定 | 翌年8月まで |
木村先生
次の定時決定(算定基礎届)で新しい標準報酬月額が決まるまでの間、適用されるわけです。
山田
なるほど、定時決定のリズムと合わせて考えているんですね。手続きの流れについても教えてください。
届出の手続きの流れ

手順
STEP 1:従業員から申し出を受ける
育休復帰後に時短勤務等で給与が下がった従業員から、月額変更の申し出を受けます。会社側から積極的に声をかけるのが実務上のベストプラクティスです。
STEP 2:3か月分の報酬を集計する
育休終了日の翌日が属する月以後3か月分の報酬を集計します。17日未満の月は除外し、対象月の合計を対象月数で割って平均額を算出します。
STEP 3:等級差を確認する
算出した平均額から、新しい標準報酬月額の等級を確認します。従前の等級と1等級以上の差があれば届出対象です。
STEP 4:届出書を記入する
「健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届」を記入します。従業員が届書に自筆で意思確認のチェックを入れるか、電子申請で「届出意思の確認」欄にチェックを入れます。
STEP 5:日本年金機構へ提出する
電子申請(e-Gov等)、郵送、または窓口持参で、事務センターまたは管轄の年金事務所に提出します。
木村先生
電子申請の場合は、被保険者本人の電子署名が必要になるケースがあります。ただし、事業主が代理する旨の委任状を画像ファイルで添付するか、届書内の「届出意思の確認」欄にチェックを入れれば、本人の電子署名を省略することが可能です。
木村先生
原則、添付書類は不要です。これはわりと楽な手続きです。紙で提出する場合は届書だけでOKです。ただし電子申請で代理提出する場合は、委任状か意思確認チェックが必要という点だけ覚えておいてください。
届出に必要なもの(原則)
- 届書: 「健康保険・厚生年金保険育児休業等終了時報酬月額変更届」(日本年金機構ウェブサイトからダウンロード可)
- 添付書類: 原則不要
- 提出先: 事務センターまたは管轄の年金事務所
- 提出期限: 3か月の報酬算定期間終了後、速やかに
- 提出方法: 電子申請(e-Gov等)、郵送、窓口持参
通常の随時改定との違いを整理する
山田
ところで、通常の「月額変更届(随時改定)」とこの届出は、どう使い分ければいいんですか?
木村先生
育休明けの時短勤務で給与が下がった場合、まず随時改定の要件を確認します。要件を満たすなら随時改定で、満たさないときにこの届出を使う、というのが基本的な流れです。
山田
随時改定の要件を満たさないケースって、具体的にどういう状況ですか?
木村先生
時短勤務は「固定的賃金」の変動ではなく「労働時間」の変動ですから、随時改定の「固定的賃金の変動」要件を満たさない場合があるんです。また等級差も「2等級以上」ではなく「1等級以上」でいいので、小さな給与減少でも対応できます。
| 比較項目 | 随時改定(月額変更届) | 育休等終了時月額変更届 |
|---|
| 固定的賃金の変動 | 必須 | 不要 |
| 等級差の要件 | 2等級以上 | 1等級以上 |
| 基礎日数 | 3か月すべて17日以上 | 1か月以上で17日以上 |
| 任意/義務 | 義務(要件を満たせば) | 任意(本人の申し出が必要) |
| 対象 | 全被保険者 | 育休終了日に3歳未満の子を養育する被保険者 |
山田
こうやって比較するとわかりやすい。育休明けの時短の場合は、こっちの届出が使いやすいケースが多そうですね。
木村先生
そうです。ただし、随時改定の要件も同時に確認して、どちらに該当するかを判断するようにしてください。場合によっては随時改定のほうが早く反映されることもありますので。
どちらの届出を使うか?判断フロー
育休明けに給与が下がった場合:
- まず随時改定の要件(固定的賃金変動・2等級以上・3か月全て17日以上)をチェック
- すべて満たす → 月額変更届(随時改定)を提出
- 満たさない + 3歳未満の子を養育 + 1等級以上の差がある → 育休等終了時月額変更届を提出
- どちらにも該当する場合は、より早く反映される方を事業主が選択(通常は随時改定が先)
年金額への影響と養育期間みなし措置
山田
標準報酬月額が下がると、将来もらえる年金額も減りますよね?
木村先生
そこが心配される点ですね。厚生年金の将来受取額は標準報酬月額を基に計算されますから、確かに標準報酬月額が下がれば、その期間については年金額の計算に影響します。
山田
じゃあ、この届出を出すのは損なんじゃないですか?
木村先生
それを補う制度が「養育期間標準報酬月額特例(みなし措置)」です。これを申し出ると、3歳未満の子を養育している期間中は、標準報酬月額が下がっていても、下がる前の額で年金が計算されます。
山田
えっ、そんな制度があるんですか!それは知らなかった。
木村先生
育休等終了時月額変更届を提出するなら、この「養育期間標準報酬月額特例申出書」もあわせて提出するのが基本セットです。月々の社会保険料負担は下がりつつ、将来の年金額は守られる。いいとこ取りができるんですよ。
木村先生
ただし、みなし措置は「申し出に基づいて」適用されます。遡及申請も可能で、申出日の前月までの2年間は遡って適用されます。早めに手続きするに越したことはないですが、過去2年分はカバーできます。
山田
2年間は遡れるんですね。でも早いほうがいい、と。
育休等終了時月額変更届と一緒に提出すること
**養育期間標準報酬月額特例申出書(厚生年金保険)**を同時に提出してください。
この申出をすることで、3歳未満の子を養育している期間中は、標準報酬月額が低下しても「低下前の標準報酬月額」で年金額が計算されます。
- 対象:3歳未満の子を養育している被保険者
- 適用期間:3歳誕生日のある月の前月まで
- 遡及:申出日の前月までの2年間まで遡及適用可
- 提出先:事務センターまたは管轄の年金事務所(事業主経由)
- 添付書類:戸籍謄本等または住民票の写し(一定の条件で省略可)
詳細は日本年金機構・養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置を参照してください。
届出が必要ないケース(注意点)
山田
ここまで聞くと、育休明けで給与が下がれば全員この届出を出せばいいような気がするんですが、出せないケースはありますか?
木村先生
あります。一番大事なのは、育休終了日の翌日に引き続いて産前産後休業を開始している場合は対象外という点です。
木村先生
たとえば、1人目の育休を終えた直後から2人目の産休に入ったケースです。産前産後休業中は保険料が免除されていますから、月額変更届を提出する場面ではありません。この場合は産休終了後に別途手続きを検討することになります。
山田
なるほど、連続して休業する場合は別の話なんですね。
木村先生
また、1等級以上の差が生じない場合も対象外です。時短にはなったけど、実は等級の境界をまたがない場合は届出しても改定されません。届出の前に等級表で確認するのを忘れずに。
⚠️ 届出できないケース
以下の場合は、育児休業等終了時月額変更届を提出しても改定されません。
- 産前産後休業に引き続いて育休終了した直後から再度産前産後休業を開始する場合(保険料免除が継続されるため)
- 従前と改定後の標準報酬月額の差が1等級未満の場合
- 対象3か月のすべての月で支払基礎日数が15日未満の場合(パートの場合)
山田
等級表の確認は必須ですね。次に、よくある疑問をまとめてもらえますか?
よくある質問
山田
本人が申し出をしてくれなかった場合、後から遡って保険料を戻してもらうことはできますか?
木村先生
この届出については、遡及して改定することはできません。提出後の4か月目から改定されるのが原則です。ただし養育期間みなし措置のほうは、前述のとおり2年間の遡及申請が可能です。
木村先生
基本的に届書1枚でOKです。ただし70歳以上被用者(厚生年金保険の被保険者ではないが雇用されている方)が対象の場合は、「70歳以上被用者育児休業等終了時報酬月額相当額変更届」も一緒に記入します。
山田
健康保険と厚生年金保険、両方まとめて1枚の届書ですか?
木村先生
そうです、1枚の届書で健康保険と厚生年金保険の両方を処理できます。これは楽ですよね。
木村先生
養育期間みなし措置は2年以内なら遡及できますが、月額変更届本体については遡及改定はできません。でも、今からでも届出を出すことで、今後の保険料は改定できます。気づいたら速やかに対応するのが大事です。
木村先生
日本年金機構のウェブサイトからダウンロードできます。電子申請ならe-Govを使うか、健康保険組合に加入している場合は組合のシステムを確認してください。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|
| 届出名 | 育児休業等終了時報酬月額変更届(健康保険・厚生年金保険) |
| 提出義務 | 任意(被保険者の申し出に基づく) |
| 対象 | 育休終了日に3歳未満の子を養育する被保険者 |
| 主な要件 | 1等級以上の差 + 1か月以上で支払基礎日数17日以上 |
| 提出時期 | 速やかに(3か月経過後) |
| 提出先 | 事務センターまたは管轄の年金事務所 |
| 提出方法 | 電子申請・郵送・窓口持参 |
| 改定適用 | 4か月目の標準報酬月額から |
| 添付書類 | 原則不要 |
| 管轄 | 厚生労働省 / 日本年金機構 |
| 公式ページ | 日本年金機構 育児休業等終了時報酬月額変更届の提出 |
関連する手続き
木村先生
この届出を理解するうえで、周辺制度も把握しておくと実務がスムーズになります。
木村先生
まず、育休中の保険料免除手続きは
産前産後・育児休業中の社会保険料免除です。育休中は申出書1枚で保険料がゼロになります。育休から復帰した後に保険料が発生するタイミングと、今回の月額変更届のタイミングをセットで押さえておいてください。
木村先生
はい、随時改定の詳細手順はそちらで確認できます。今回の育休等終了時届との要件の違いを比較しながら読むと理解が深まります。
木村先生
そうです。2025年4月に新設された制度で、時短勤務中に賃金の10%が支給される雇用保険の給付です。今回の社会保険料の月額変更届とは別の制度ですが、時短復帰した社員を支援するという観点では関連しています。
木村先生
そうですね。等級の概念や保険料の計算方法は、月額変更届を正確に運用するための前提知識です。1〜50等級の表と、それぞれに対応する保険料額を確認しておくといいですよ。
まとめ:育休復帰後の保険料改定を確実に
山田
ということは、育休明けで時短勤務になった社員の給与が下がった場合は、随時改定の要件を確認して、外れたら育休等終了時月額変更届を使う。ついでに養育期間みなし措置の申出書も一緒に出す。この2点が大事なんですね。
木村先生
そのとおりです。もう少し大きな視点で言うと、この届出は従業員の手取りを守るための手続きです。会社側がきちんと制度を説明して、従業員が損をしないように対応することが、会社への信頼にもつながります。
山田
育休明けの復帰面談のときに、この話も一緒にするのがいいですね。
木村先生
そうですね。「給与が変わることで保険料も見直せますよ」「年金への影響を防ぐ申出書もありますよ」と伝えてあげると、従業員も安心して復帰できます。復帰支援の一環として捉えてみてください。
山田
ありがとうございました。早速、復帰予定のスタッフに説明してみます!
⚠️ 実務チェックリスト:育休復帰時の社会保険手続き
育休復帰が決まったら以下を確認してください。
- 育休中の保険料免除終了確認: 育休終了月の処理を確認する(社会保険料免除参照)
- 給与変更の等級確認: 復帰後の給与見込み額で標準報酬月額の等級を確認する
- 従業員への制度説明: 育休等終了時月額変更届と養育期間みなし措置の両方を説明し、希望を確認する
- 3か月経過後の届出: 育休終了翌日の属する月から3か月分の報酬を集計し、速やかに届出を提出する
- 養育期間みなし措置の申出書: 月額変更届と同時に提出する(添付書類の用意が必要)
- 随時改定との重複確認: 固定的賃金変動があれば随時改定の要件も確認する(月額変更届参照)