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未払賃金立替払制度|倒産時に未払い賃金の8割を国が立替え

厚生労働省公式案内 →

先週、取引先の会社が民事再生の手続きに入ったというニュースを聞いた。ぼくの担当先ではなかったけれど、そこに勤めていた知人から「給料が3ヶ月分も未払いのまま辞めることになった」と相談された。会社が倒産したらもう給料はあきらめるしかないのか、ぼくは気になって木村先生に聞いてみることにした。

山田
先生、取引先が倒産して、そこの社員さんが給料をもらえないまま辞めることになったらしいんです。こういうとき、労働者ってもう泣き寝入りするしかないんですか?
木村先生
いえ、そんなことはありませんよ。未払賃金立替払制度という国の制度があって、独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)が未払賃金の8割を立て替えてくれるんです。
山田
え、8割も! それは知らなかったです。
木村先生
意外と知られていないんですよね。まずは制度全体の流れを見てみましょうか。

未払賃金立替払制度とはどんな制度か

未払賃金立替払制度のしくみ

山田
そもそもどういう仕組みなんですか?
木村先生
会社が倒産して賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、国(JOHAS)が事業主に代わって未払賃金の一部を立て替えて支払う制度です。会社に賃金を支払う力が無くなってしまったときのセーフティネットですね。図で見ると、流れがイメージしやすいと思います。
山田
なるほど、倒産した会社の代わりに国が立て替えて、あとから労働者に払ってくれるんですね。
木村先生
そうです。ただし立て替えるだけなので、JOHASは後で倒産した会社(の管財人など)に対して、立て替えた分を請求します。これを求償といいます。
山田
なるほど。会社が払わなくて済むわけじゃないんですね!
木村先生
その通りです。機構は民法第499条の規定により、立替払を受けた労働者の賃金請求権を代位取得して事業主等に求償します。会社が倒産したからといって賃金支払義務が消えるわけではないんですよ。
山田
制度の全体像はわかりました。じゃあ、実際に誰が対象になるんですか?

立替払を受けられる人の3つの要件

木村先生
立替払を受けられる人には、大きく3つの要件があります。
山田
3つも! 聞かせてください。
木村先生
1つ目は、労災保険の適用事業で1年以上事業活動を行っていた事業主に雇用され、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者であることです。法人でも個人事業主でも構いません。
山田
パートやアルバイトの人も対象になりますか?
木村先生
はい、なります。労働の対価として賃金の支払いを受けていた人が対象で、パート・アルバイト等も含まれます。ただし同居の親族や、代表権を持つ会社役員は対象外です。
山田
役員さんは自分で会社を経営していた立場だから、ということですね。
木村先生
そういうことです。2つ目の要件は、裁判所への破産手続開始等の申立日、または労働基準監督署長への事実上の倒産の認定申請日の6か月前の日から2年の間に退職していることです。
山田
退職のタイミングにも条件があるんですね。
木村先生
ええ。退職後6か月以内に破産の申立てや認定申請がされなかった場合は、対象外になってしまうので注意が必要です。そして3つ目は、未払賃金額について破産管財人等の証明、または労働基準監督署長の確認を受けていることです。
山田
3つとも大事な条件ですね。ところで、さっきから「法律上の倒産」と「事実上の倒産」って言葉が出てきますけど、これはどう違うんですか?

「倒産」として認められるのはどんな場合か

木村先生
いい質問ですね。ここを理解しておかないと、そもそも制度の入口に立てません。
山田
お願いします!
木村先生
まず「法律上の倒産」は、破産法に基づく破産手続開始の決定、会社法の特別清算手続開始の命令、民事再生法の再生手続の開始の決定、会社更生法の更生手続開始の決定のいずれかがあった場合を指します。
山田
裁判所が関わる、かたい手続きってことですね。
木村先生
そうです。もう一つが「事実上の倒産」で、こちらは中小企業の事業主だけが対象になります。事業活動が停止していて、再開する見込みがなく、かつ賃金の支払能力がない状態だと労働基準監督署長が認定した場合です。
山田
中小企業だけなんですか?
木村先生
はい。大企業は基本的に法律上の倒産手続を取ることが前提とされているんです。「事業活動停止」は事業場が閉鎖されて労働者全員が解雇されているような状態、「再開の見込みなし」は事業主が事業再開の意図を放棄した状態、「賃金支払能力なし」は借入れをしても賃金を払える見込みがない状態を指します。負債が資産を上回る、いわゆる債務超過というだけでは該当しません。
山田
なるほど、単純に「赤字だから」ではダメなんですね。取引先の会社は法律上の倒産らしいので、まずはその要件で考えればよさそうです。じゃあ次は、みんな気になるところだと思うんですけど、実際いくらもらえるんですか?

いくら受け取れるのか(8割と年齢別の上限額)

退職日の年齢別 立替払の上限額

木村先生
ここが一番の関心事ですよね(笑)。立替払される金額は、未払賃金総額の100分の80、つまり8割です。
山田
単純に8割ってことは、100万円未払いなら80万円もらえるんですか?
木村先生
基本的にはその通りなんですが、1つ落とし穴があります。退職日の年齢によって未払賃金総額そのものに限度額が設定されていて、その限度額を超える部分は立替払の対象にならないんです。
山田
限度額! それは知らないと痛い目にあいそうですね。
木村先生
具体的な数字を表で見てみましょう。
退職日における年齢未払賃金総額の限度額立替払の上限額(限度額×0.8)
45歳以上370万円296万円
30歳以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円
山田
けっこう年齢で差があるんですね!
木村先生
そうなんです。具体例で見るとイメージしやすいですよ。退職日の年齢が32歳で未払賃金総額が170万円(定期賃金50万円、退職手当120万円)の場合、170万円は30歳以上45歳未満の限度額220万円を超えていないので、立替払額は170万円×0.8で136万円になります。
山田
限度額の範囲内だから、そのまま8割で計算できるんですね。
木村先生
そうです。一方で退職日の年齢が48歳、未払賃金総額470万円(定期賃金150万円、退職手当320万円)の場合は、470万円が45歳以上の限度額370万円を超えているので、立替払額は上限の296万円になります。
山田
あー、超えた分は切り捨てられちゃうんですね。ちょっと厳しい……。
木村先生
上限があること自体は事前に知っておくと、気持ちの準備にもなると思います(笑)。ちなみに立替払された金額は退職所得として扱われて、他の所得とは分離して課税されます。退職所得控除も受けられますよ。
山田
給料そのままの金額じゃなくて、退職所得としての扱いになるんですね。
木村先生
そうです。立替払金は定期賃金分・退職手当分のいずれも、租税特別措置法第29条の4の規定により退職所得として取り扱われ、他の所得と分離して課税されます。請求書の下欄にある「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に記入しておくと、退職所得控除が受けられるので忘れずに書いておきたいところです。
山田
課税上の扱いまであるんですね。ところで、未払いだった給料なら何でも対象になるんですか?

対象になる賃金・ならない賃金

木村先生
いいえ、そこにもルールがあります。立替払の対象となる未払賃金は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までの間に支払期日が到来している「定期賃金」及び「退職手当」です。
山田
定期賃金っていうのは、毎月もらう給料のことですか?
木村先生
はい。基本給・家族手当・通勤手当・時間外手当など、毎月1回以上定期的に支払われる賃金のことです。所得税や住民税、社会保険料といった法定控除をする前の額が基準になります。退職手当は、労働協約や就業規則(退職金規程)に基づいて支給される退職金です。
山田
逆に対象にならないものは?
木村先生
賞与その他臨時的に支払われる賃金、解雇予告手当、賃金の延滞利息、慰労金・祝金名目の給付、実費弁償としての旅費・用品代などは立替払の対象になりません。ボーナスは対象外というのは意外と知られていないポイントですね。
山田
ボーナスは入らないんですね、それは覚えておかないと。
木村先生
そしてもう一つ大事な下限があります。未払賃金総額が2万円未満のときは、そもそも対象外になります。少額すぎると制度の対象にならないということですね。
⚠️ 対象外になりやすいポイント
  • ボーナス(賞与)は定期賃金でも退職手当でもないため対象外
  • 解雇予告手当や旅費などの実費弁償も対象外
  • 未払賃金総額が2万円未満のときは制度そのものの対象外
  • 代表権を持つ会社役員や同居の親族は労働者として扱われず対象外
山田
対象外のパターンをまとめてもらえると助かります! じゃあ、この請求っていつまでにやればいいんですか?

請求できる期間には期限がある

木村先生
ここは本当に厳格なので、しっかり押さえておきたいところです。立替払の請求ができる期間は、法律上の倒産の場合は裁判所の破産手続開始等の決定日又は命令日の翌日から起算して2年以内、事実上の倒産の場合は労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内です。
山田
2年か……。長いようで、忘れていたらあっという間ですね。
木村先生
そうなんです。この期間内に未払賃金の立替払請求書を機構に提出しなければならず、期間を過ぎると立替払を受けられなくなります。退職のタイミングだけでなく、この請求期限も別に管理しておく必要があります。
倒産の種類請求期限の起算日請求期限
法律上の倒産破産手続開始等の決定日又は命令日の翌日2年以内
事実上の倒産労働基準監督署長による倒産認定日の翌日2年以内
山田
退職した日からじゃなくて、決定日とか認定日からのカウントなんですね。
木村先生
そこを勘違いする方が多いので、ぜひ覚えておいてください。それでは実際の請求の流れを見ていきましょうか。

請求の流れ

木村先生
法律上の倒産と事実上の倒産で手続きが少し違うので、それぞれ整理しますね。
手順
  1. 証明・確認を受ける: 法律上の倒産なら裁判所や破産管財人等の証明者に、事実上の倒産なら労働基準監督署長に対して、未払賃金額等について証明または確認の申請を行う
  2. 証明書・確認通知書を受け取る: 破産管財人等から証明書が交付される、または労働基準監督署長から確認通知書が交付される
  3. 請求書を作成する: 「立替払請求書」及び「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入する
  4. 機構へ送付する: 証明書または確認通知書と切り離さずに、労働者健康安全機構(JOHAS)へ送付する(電子請求も可能)
  5. 審査・支払: 機構が請求内容を審査し、支払が決定すると、指定した本人名義の口座に立替払金が振り込まれる
山田
事実上の倒産のときは、証明の前に労働基準監督署長への認定申請から始まるんですね。
木村先生
そうです。事実上の倒産の場合、認定の申請は退職労働者のうち1人が受ければ足りて、その効果は他の退職労働者にも及びます。全員がバラバラに申請しなくていいのは助かるポイントですね。
山田
それは一人にとってはありがたいですね(笑)。船員の場合はどうなるんですか?
木村先生
船員法上の船員は提出先が地方運輸局になるので、そこだけ注意してください。基本的な流れは同じです。
山田
流れはわかりました。実務でつまずきやすいポイントってありますか?

実務上の注意点

木村先生
いくつかありますよ。まず、証明が一部しか得られなかった場合です。証明を裁判所や破産管財人等から得られなかった事項については、労働基準監督署長に対して確認申請ができます。証明が全部揃わないからといって諦める必要はありません。
山田
それは知らないと途中で止まってしまいそうです。
木村先生
もう一つ気をつけたいのが不正受給です。偽りその他不正の行為により立替払金を得た場合には、詐欺罪として刑事告発の対象になります。
山田
え、刑事罰まであるんですか!
木村先生
はい。さらに不正に加担した事業主も含めて、立替払された金額の返還と、それに相当する金額の納付、いわゆる倍返しが命じられます。証明内容は正確に記載する必要がありますね。
⚠️ 不正受給に関する注意
  • 偽りその他不正の行為で立替払金を得ると詐欺罪として刑事告発の対象になる
  • 不正に加担した事業主も返還と倍返しの納付を命じられる
  • 証明書・確認通知書の内容と実際の未払賃金額は必ず一致させる
山田
証明書の内容は絶対に盛らないようにしないとですね。ところで、月の途中で退職した場合の計算ってどうなるんですか?
木村先生
いいところに気づきましたね。月給制で退職日が賃金計算期間の途中の日である場合は、退職日以前の労働に対応する部分を日割計算した額になります。
山田
日割りの計算方法は決まっているんですか?
木村先生
就業規則等で具体的な計算方法が定められていればそれに従いますが、定められていない場合は、月給及び役職手当・家族手当・通勤手当などの月決めの各種手当に、実労働日数を掛けて所定労働日数で割る方法で計算します。所定労働日数が月によって異なる場合は、年間の所定労働日数を12か月で割った平均所定労働日数を使います。
山田
単純な日数按分じゃなくて、就業規則の定めが優先されるんですね。電子で請求する方法もあるんでしたっけ?
木村先生
はい。紙の請求書だけでなく、未払賃金立替払制度における電子請求の手引きに沿ってオンラインで請求することもできます。証明者や労働基準監督署長から交付された証明書・確認通知書の情報とあわせて、機構の案内に従って手続きを進めてください。
請求前に確認しておきたいこと
  • 退職日が月の途中の場合、未払賃金は日割計算した額になる(就業規則の定めが優先)
  • 請求は紙の書類だけでなく、電子請求の手引きに沿ったオンライン提出も可能
  • 未払賃金のうち社宅料や貸付金の返済分などがすでに給与天引きされている場合は、その分を差し引いた額が対象になる
困ったときの相談先
  • 未払賃金立替払制度は、全国の労働基準監督署及び労働者健康安全機構(JOHAS)で実施している
  • 制度の詳細や手続きについては、最寄りの労働基準監督署又は労働者健康安全機構の未払賃金立替払相談コーナーに相談する
  • 疎明資料や証明者から交付された証明書等を持参して相談すると話がスムーズに進む
山田
迷ったら労基署かJOHASに相談すればいいんですね。安心しました。
木村先生
そうですね。それでは、ここまでの内容を表でまとめておきましょう。

基本情報まとめ

項目内容
制度名未払賃金立替払制度
実施機関独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)
管轄厚生労働省(全国の労働基準監督署及びJOHASで実施)
対象者労災保険の適用事業で1年以上事業活動していた事業主に雇用され、倒産により賃金未払いのまま退職した労働者
対象となる倒産法律上の倒産(破産・特別清算・再生・更生手続)/事実上の倒産(中小企業事業主のみ、労基署長の認定)
対象賃金退職日の6か月前から請求日前日までに支払期日到来の定期賃金・退職手当(賞与は対象外)
下限未払賃金総額2万円未満は対象外
立替払の額未払賃金総額の8割(年齢別の限度額あり)
上限額の目安45歳以上296万円/30歳以上45歳未満176万円/30歳未満88万円
請求期限破産手続開始等の決定日又は認定日の翌日から2年以内
公式ページJOHAS 未払賃金の立替払制度の概要
山田
これを見ればひととおり整理できますね。知人にもこの表を見せてあげたいです。

他の社会保険手続きとの関係

山田
そういえば、会社が倒産して退職するときって、この立替払以外にも手続きがありますよね?
木村先生
いいところに気づきましたね。倒産を理由に退職した場合は、雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者の判定で、自己都合退職よりも手厚い条件で失業給付を受けられる扱いになります。
山田
未払賃金の立替払と失業給付は、別々にもらえるんですか?
木村先生
はい、別の制度なので両方の要件を満たせば両方受けられます。失業給付を受けるには、まず会社から雇用保険被保険者資格喪失届と離職票を発行してもらう必要がありますが、倒産のケースでは会社側の手続きが滞ることも多いので、労働基準監督署やハローワークに早めに相談するのがおすすめです。
山田
なるほど、会社任せにできないケースもあるんですね。
木村先生
そうなんです。ちなみに未払賃金の立替払制度は労災保険の適用事業であることが前提になっているので、労災保険の給付申請(療養給付・休業給付)の仕組みと合わせて理解しておくと、労災保険という制度全体のイメージがつかみやすいと思います。
山田
労災保険って業務中のケガだけの制度だと思っていたんですけど、こういうところにもつながっているんですね。

よくある質問

山田
最後にいくつか気になったことを質問してもいいですか?
木村先生
もちろんです、どうぞ!
山田
パートやアルバイトの人でも本当に対象になるんですよね?
木村先生
はい。労働基準法第9条の労働者に該当すれば、パート・アルバイトも含めて対象になります。雇用形態そのものは要件になっていません。
山田
未払賃金の証明が一部しか取れなかった場合はどうなりますか?
木村先生
証明が得られなかった事項については、労働基準監督署長に確認申請ができます。全部揃わないからといって請求自体を諦める必要はありません。
山田
立替払を受けたお金は、会社にあとで返さないといけないんですか?
木村先生
いいえ、労働者本人が返す必要はありません。JOHASが労働者の賃金請求権を代位取得して、倒産した会社側(管財人等)に求償する仕組みなので、労働者が立て替えられた分を返済することはありません。
山田
それを聞いて安心しました。今日は本当にありがとうございました! 知人にもさっそく伝えてあげます。
木村先生
ぜひ伝えてあげてください。2年という請求期限だけは忘れないように念押ししてあげるといいと思いますよ!

関連書類・お問い合わせ先

木村先生
最後に、参照できる公式情報をまとめておきますね。
資料名提供元リンク
未払賃金の立替払制度の概要JOHAShttps://www.johas.go.jp/financial/unpaid-wage-payment/unpaid-wage-overview/
未払賃金立替払制度の概要と要件(FAQ)厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei03.html
未払賃金立替払制度の概要と実績厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shinsai_rousaihoshouseido/tatekae/index.html
山田
これで知人にも自信を持って説明できそうです。ありがとうございました!
木村先生
どういたしまして。困ったときはまず最寄りの労働基準監督署に相談する、というのを覚えておいてもらえればと思います!

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