先日、うちの会社で新しいスタッフを採用することになった。正社員だけじゃなく、パートのスタッフも数人。そのとき総務の担当者から「雇用保険の手続き、いつまでにやればいいですか?」と聞かれて、ぼくはすぐに答えられなかった。採用のたびに発生する「雇用保険被保険者資格取得届」。翌月10日という期限があるのに、意外と担当者がうろ覚えのまま対応してしまいがちな手続きだ。木村先生に聞いて、改めて整理した。
雇用保険とは何か、なぜ届け出が必要か
山田
木村先生、そもそも雇用保険って、採用したらすぐに会社が動かないといけないんですか?
木村先生
そうなんです。雇用保険は政府が管掌する強制保険制度でして、労働者を雇用する事業所には原則として強制的に適用されます。つまり「任意で加入する」ものじゃなくて、対象となる従業員を採用した時点で、事業主に届け出の義務が生じます。
山田
じゃあ、採用したら自動的に手続きが必要になるってことですね。
木村先生
まさに。届け出の窓口はハローワーク(公共職業安定所)です。「雇用保険被保険者資格取得届」という様式を使って、採用した従業員の加入手続きを行います。これを忘れると、後から従業員が失業給付や育児休業給付を受けようとしたときに「資格がない」ということになってしまうんですよ。
山田
そっか、届け出を出していないと、いざというときに保険が使えないんですね。それは困りますね。
木村先生
はい。雇用保険は「失業した際の生活保障」だけじゃなくて、育児休業給付金や介護休業給付金、教育訓練給付金なども含む広い制度です。採用した人全員が適切に加入できているかどうか、事業主の責任で管理する必要があります。
雇用保険の主な給付内容
- 失業等給付(基本手当): 離職後、再就職活動中の生活保障
- 育児休業給付金: 育休中の賃金補填(最大で休業開始前賃金の67%)
- 介護休業給付金: 介護休業中の賃金補填(休業開始前賃金の67%)
- 教育訓練給付金: 指定講座受講費用の一部還付
- 高年齢雇用継続給付: 60歳以降も働く際の補助給付
山田
失業給付だけじゃなくて、育休のお金も雇用保険からなんですね。それなら確かに、ちゃんと加入しておかないとまずいですね。
誰が雇用保険に入らないといけないか
山田
じゃあ具体的に、誰が加入対象になるんですか?正社員だけですか?
木村先生
いいえ、正社員かどうかは関係ないんです。週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある従業員であれば、パートでもアルバイトでも有期契約社員でも、雇用保険の被保険者になります。
木村先生
そうなんです。ここが抜けてしまっている会社が意外と多くて。要件をきちんと整理しますね。
雇用保険の加入要件(パート・アルバイト含む)
- 週所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること(以下のいずれかに該当する場合)
加入判断の基準(雇用期間):
- 期間の定めなく雇用される場合
- 雇用期間が31日以上の場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇い止め明示がない場合
- 同様の契約で過去に31日以上雇用された実績がある場合
木村先生
週3日×6時間で週18時間ですよね。この場合は週20時間未満なので雇用保険の対象外になります。でも「週3日、1日7時間」なら週21時間になるので対象です。
山田
微妙なラインですね。採用するときに時間数をちゃんと確認しないと。
木村先生
そうです。雇用契約書に記載された所定労働時間が基準になります。週によって変動する場合は、月平均で1週間あたり20時間以上かどうかで判断します。不明な場合は管轄のハローワークに確認するのが確実です。
山田
逆に、対象にならないケースってどんな人ですか?
⚠️ 雇用保険に加入できないケース(適用除外)
- 週所定労働時間が20時間未満の短時間労働者
- 31日未満の雇用見込みしかない日雇い的な労働者
- 学生(昼間学生): 在学中の学生は原則対象外(ただし卒業後に引き続き雇用される場合は例外)
- 季節的に雇用され、4か月以内の短期雇用特例被保険者の要件に該当する者
山田
「昼間の学生はNG」なんですね。夜間学校の学生は大丈夫なんですか?
木村先生
夜間・通信制の学生は原則として雇用保険に加入できます。昼間の大学・専門学校等に通っている方は除外されるケースが多いです。ただ卒業後に引き続き雇用する場合などは加入義務が生じます。
山田
なるほど。採用のたびにこういった確認が必要なんですね。じゃあ次は、実際の届け出の期限について聞かせてください。
提出期限はいつまでか
山田
タイトルにも「翌月10日まで」と書いてありましたけど、正確にはいつが期限なんですか?
木村先生
資格取得の年月日が属する月の翌月10日までです。たとえば5月15日に採用した人の場合は、5月が「資格取得の月」なので、翌月の6月10日が提出期限になります。
木村先生
意外と短いんですよ(笑)。5月末に採用して、6月に入ってから「あ、手続きしなきゃ」と気づいても、10日までに出せれば問題ない。でも6月11日以降になると遅延になります。
| 採用日 | 資格取得月 | 提出期限 |
|---|
| 4月1日 | 4月 | 5月10日 |
| 5月15日 | 5月 | 6月10日 |
| 6月30日 | 6月 | 7月10日 |
| 12月25日 | 12月 | 翌年1月10日 |
木村先生
その場合は翌営業日が期限になります。ただし「10日まで大丈夫だから」とギリギリを狙うより、採用後1〜2週間以内には出す習慣にしておくのがトラブルを防ぐコツです。
山田
万が一、期限を過ぎてしまったらどうなるんですか?
木村先生
遅延提出になってしまいますが、ハローワークから指導を受けることになります。また、過去にさかのぼって加入させるケースもありますが、手続きが複雑になります。従業員が失業給付を受けようとしたときに問題が発覚することもあるので、早めの提出が絶対です。
山田
「遅れたから損するのは従業員」という話になりかねないんですね。それは困る。じゃあ、手続きの期限は確認できました。次は実際の手続きの流れを教えてもらえますか?
手続きの流れ
木村先生
まずは様式を用意するところから始まります。手順を整理しますね。
手順
-
雇用保険被保険者資格取得届の用意: ハローワークの窓口でもらうか、ハローワークインターネットサービスからダウンロードして印刷する
-
必要事項の記入: 事業所番号、被保険者の氏名(フリガナ)・生年月日・住所、資格取得年月日(採用日)、雇用形態(正社員/パート/有期など)、1週間の所定労働時間、賃金月額などを記入。マイナンバーの記載も必要
-
添付書類の準備: 確認書類として賃金台帳・労働者名簿・出勤簿・雇用契約書などを用意(窓口で求められる場合がある)
-
ハローワークへ提出: 事業所の所在地を管轄するハローワークへ持参するか、電子申請(e-Gov)で提出
-
雇用保険被保険者証の受け取り: 手続き完了後、ハローワークから「雇用保険被保険者証」が発行される。入社手続きで本人へ渡す
山田
意外とシンプルですね。でも書類はいろいろ必要なんですね。
木村先生
書類は「確認のために持参してください」というスタンスで、必ず全部必要というわけじゃないケースもあります。ただ、雇用契約書は基本的に準備しておく方が安心です。パートさんを採用した場合は特に、週の所定労働時間が20時間以上であることを書面で確認できるようにしておくことが重要です。
山田
電子申請もできるんですね!窓口に行かなくてもいいんですか?
木村先生
e-Gov(電子政府の総合窓口)経由で電子申請が可能です。複数の従業員をまとめて届け出る「連記式」という形式もあります。ただし電子申請の場合も、利用者IDの取得など事前準備が必要なので、初回は余裕をもって対応してください。

山田
ありがとうございます。様式の記入で気をつけるポイントはありますか?
木村先生
いくつかあります。特に間違えやすいのが「3欄:取得区分」と「12欄:雇用形態」です。
| 欄 | 内容 | よくある間違い |
|---|
| 3欄:取得区分 | 新規(過去に被保険者なし or 7年以上経過)/ 再取得(それ以外) | 「新規」か「再取得」かを誤記 |
| 9欄:取得原因 | 採用区分(一般採用・新卒採用・転勤等) | 新卒者の区分を誤る |
| 10欄:賃金月額 | 臨時の賃金・超過勤務手当を除いた月額(千円未満四捨五入) | 交通費や残業代を含めてしまう |
| 12欄:雇用形態 | 正社員=1、派遣=2、パートタイム=3、有期=4 | パートと有期の区分を誤る |
| 15欄:週所定労働時間 | 採用時点での1週間の契約上の労働時間 | 実際の労働時間と混同 |
山田
賃金月額は残業代を除くんですね。それは知らなかった!
木村先生
「月例賃金」がベースです。臨時の賃金や1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、超過勤務手当は含みません。基本給と固定の諸手当が目安です。
山田
なるほど。じゃあ実務上のポイントも教えてもらいたいです。
実務でよくある落とし穴とポイント
山田
実際に担当してみて、よく間違えやすいことってありますか?
⚠️ よくある落とし穴 3つ
-
パートさんを対象外と思い込む: 週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあれば、正社員と同様に届け出が必要。「パートだから雇用保険は関係ない」は誤り
-
試用期間中の扱い: 試用期間・研修期間も含めた雇入れの初日が資格取得年月日。「本採用になったら手続きする」は遅延になる
-
マイナンバーの記載漏れ: 提出様式の1欄にはマイナンバーを必ず記載。記載がないと受理されない場合がある
山田
試用期間の人も初日から手続きが必要なんですか!それは知らなかった!
木村先生
ええ、採用した瞬間から雇用関係が始まっているので、試用期間の初日が資格取得年月日になります。3ヶ月の試用期間を経て本採用になるとしても、届け出はその初日(入社日)の翌月10日までに出す必要があります。
山田
本採用後に届け出したら、2〜3ヶ月ずれますよね。
木村先生
そうなるとかなり遅延してしまいます。採用した当日か翌週には届け出の準備を始めるくらいの感覚がちょうどいいと思います。
山田
あとは「前の会社でも雇用保険に入っていた」人の場合、何か違いがありますか?
木村先生
前の会社での被保険者番号が引き継がれます。様式の3欄で「1:新規」か「2:再取得」かを選ぶのですが、前に雇用保険に入っていて7年以内に離職した人は「再取得」になります。以前の被保険者証があれば番号を確認して記載します。
木村先生
雇用保険の被保険者番号は基本的にライフタイムで同じ番号が使われます。転職のたびに新しくなることはないんです。従業員から以前の被保険者証を受け取って確認する作業が大切です。
前職での雇用保険加入歴がある人の確認事項
- 以前の「雇用保険被保険者証」を入社手続き時に持参してもらう
- 様式3欄は「2:再取得」を選択し、被保険者番号を転記する
- 最後に被保険者でなくなった日から7年以上経過している場合は「1:新規」でOK

山田
こうやって見ると頭の中がすっきりしました。実際の届け出の提出先はどこですか?
木村先生
事業所の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)です。複数の都道府県に事業所がある場合、それぞれの事業所の所在地を管轄するハローワークに届け出を出します。本社でまとめることはできません。
山田
事業所ごとに管轄のハローワークが違うんですね。じゃあ次は、外国人を採用した場合についても聞かせてください。
外国人を採用した場合の特別な記載事項
山田
最近、外国人スタッフを採用する会社も多いと思うんですけど、外国人の場合は何か違いがありますか?
木村先生
外国人の場合は、様式に追加の記載が必要です。「外交」や「公用」の在留資格の方と特別永住者を除く外国人労働者については、17欄〜23欄に追加情報を記載します。
外国人を採用した場合の追加記載事項(17〜23欄)
- ローマ字氏名: パスポートと同じ表記
- 在留カードの番号: 英字2桁-数字8桁-英字2桁の形式
- 在留期間の満了日
- 国籍・地域
- 在留資格: 「就労可能な在留資格」であることを確認
- 資格外活動許可の有無: 「家族滞在」等で就労する場合に記載
木村先生
これは雇用保険の届け出と同時に、労働施策総合推進法(外国人雇用状況届出制度)の届け出も兼ねる仕組みになっています。外国人を採用した場合、ハローワークへの届け出でその両方を一括して行えるわけです。
山田
一石二鳥なんですね!外国人を採用したときは特に記載漏れがないか気をつけないといけませんね。
木村先生
そうです。在留資格によっては就労できないケースもありますから、採用前に在留カードの種類と有効期限を確認する習慣もセットで持っておくといいと思います。
基本情報と関連手続きのまとめ
山田
ここまで詳しく教えてもらいましたが、要点をまとめてもらえますか?
木村先生
雇用保険被保険者資格取得届の基本情報をまとめますね。
| 項目 | 内容 |
|---|
| 提出期限 | 資格取得の属する月の翌月10日まで |
| 提出先 | 事業所の所在地を管轄するハローワーク |
| 電子申請 | e-Gov経由で可能(連記式も対応) |
| 加入要件(週時間) | 週20時間以上(所定労働時間) |
| 加入要件(雇用期間) | 31日以上の雇用見込み |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | ハローワーク(公共職業安定所) |
| 様式 | 雇用保険被保険者資格取得届(OCR様式) |
木村先生
そうですね、入社・退社に関連する手続きはセットで覚えておくといいです。退職時には「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職票」の作成が必要になります。これは退職日の翌日から10日以内という、また別の期限がある手続きです。
山田
退職のときは「資格喪失届」があるんですね。入社が「取得届」で退職が「喪失届」か、セットで覚えておきます。
入社・退社関連の雇用保険手続き 比較
| 手続き | タイミング | 期限 | 提出先 |
|---|
| 雇用保険被保険者資格取得届 | 採用時 | 翌月10日まで | ハローワーク |
| 雇用保険被保険者資格喪失届 | 退職時 | 退職日翌日から10日以内 | ハローワーク |
| 離職票の発行依頼 | 退職時 | 資格喪失届と同時 | ハローワーク |
山田
セットで確認しておきます。採用・退職のたびにどちらの手続きが必要か確認しておきます。
よくある質問
山田
最後に、担当者から実際によく出てくる質問をいくつか教えてもらえますか?
山田
「週19時間のパートさんを20時間に増やしたら、途中から雇用保険に入るんですか?」という質問がよく来ます。
木村先生
これは「雇用契約の変更日から加入義務が生じる」ケースになります。途中で週20時間以上になった場合、その変更日(労働条件が変わった日)が資格取得年月日になります。変更日の属する月の翌月10日までに届け出が必要です!
山田
じゃあ「試用期間中に退職した場合でも、一回取得届を出したほうがいいですか?」という質問は?
木村先生
出した後に退職になっても、後から「資格喪失届」を提出すれば問題ありません。取得届を出さずにいた場合の方が、後の手続きや記録が複雑になります。採用したら届け出を出す、退職したら喪失届を出す、というシンプルなルールを徹底してください。
山田
「以前の会社で雇用保険に入っていたかどうかわからない社員の場合はどうすればいい?」という質問もよくあります。
木村先生
その場合は、ハローワークの窓口で「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を提出して照会できます。被保険者番号がわからなくても氏名・生年月日などで確認できるケースがあります。
山田
詳しくありがとうございました。採用した翌月10日までに届け出、加入要件は週20時間以上・31日以上の雇用見込み、パートも対象、試用期間の初日から計算する、というのが大事なポイントですね。
木村先生
まとめてもらってありがとうございます。公式の案内や様式はハローワークインターネットサービスから確認・ダウンロードできますので、担当者は
ハローワークインターネットサービスの帳票一覧をブックマークしておくといいですよ。
山田
定期的に採用がある会社なら、手続きのチェックリストを作っておくと漏れが防げそうですね。木村先生、今日もありがとうございました!