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出向者の社会保険手続き|給与負担形態別の資格得喪判断

厚生労働省公式案内 →

ぼくの会社でも、グループ会社への出向者が増えてきました。総務としてありがたいのは、出向のたびに「今回は社会保険どうなるんですか」と聞かれること……ではなく、正直かなり悩みます。給与を出向元が払うのか、出向先が払うのか、それとも折半なのかで手続きがまるで変わると聞いて、木村先生に整理してもらうことにしました。

山田
先生、うちの会社からA社に出向する社員が出るんですけど、社会保険の手続きってそもそも何を確認すればいいんですか?
木村先生
まず大前提として、出向には大きく分けて「在籍出向」と「転籍(移籍出向)」の2種類があります。今回話すのは出向元との雇用契約を残したまま出向先でも働く「在籍出向」のケースです。転籍については別の記事で詳しく扱っているので、あとでリンクを紹介しますね。
山田
在籍出向って、つまり2つの会社と同時に雇用契約があるってことですか?
木村先生
そのとおりです。厚生労働省の「在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック」でも、在籍型出向とは出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、出向先企業に一定期間継続して勤務することと説明されています。震災やコロナ禍で雇用維持のために活用が広がった経緯があって、今では中小企業でも珍しくありません。
山田
なるほど! 雇用契約が2本立てになるから、社会保険の適用先も1つに決まらないってことなんですね。
木村先生
鋭いですね。そしてこの適用先を決める一番のカギが、実は給与を誰がどう負担するかなんです。ここを整理せずに手続きを進めると、あとで年金事務所やハローワークから指摘を受けることになりかねません。

給与を誰が払うかで社会保険の扱いが変わる仕組み

木村先生
このセクションでは、給与負担のパターンごとに社会保険(健康保険・厚生年金)の適用先がどう変わるかを見ていきましょう。まず、給与の支払い方法には大きく分けて2通りあります。出向先企業が出向労働者に直接支給するパターンと、出向先企業が出向元企業に給与負担金を支払い、出向元企業が出向労働者に支給するパターンです。
山田
支払いのルートが違うだけで、社会保険の扱いまで変わるんですか?
木村先生
はい。厚生労働省のハンドブックには出向労働者は、出向元企業か出向先企業のうち、使用関係があり報酬が支払われている企業(一方または双方)で厚生年金保険・健康保険の適用を受けると明記されています。つまり「報酬を払っている会社=社会保険に入る会社」が原則なんです。

出向者の社会保険は給与負担パターンで3通りに分かれる図解

山田
図で見ると分かりやすいですね。パターン1は出向元が全額負担、パターン2は出向先が全額負担、パターン3はお互いに分担、ということですね。
木村先生
そうです。実務でよく相談されるのはこの3パターンなので、まず早見表で全体像をつかんでから、それぞれ順番に見ていきましょう。
パターン給与負担社会保険の適用先追加の手続き
パターン1出向元企業が全額負担出向元企業のまま不要
パターン2出向先企業が全額負担出向先企業に切り替え資格喪失届・資格取得届
パターン3出向元・出向先で分担選択した主たる事業所に統合二以上事業所勤務届

パターン別の資格得喪の判断基準

木村先生
まずパターン1、出向元企業が給与を全額負担するケースです。この場合は出向元企業が引き続き社会保険の適用事業所になるので、資格の得喪自体が発生しません。
パターン1:出向元が全額負担する場合
  • 適用先: 出向元企業のまま変更なし
  • 手続き: 資格取得届・喪失届のいずれも不要
  • 根拠: 給与(報酬)の大部分を出向元企業が支払っている場合、または給与の支払い割合に関わらず出向元企業が出向期間中の社会保険料を継続して負担すると労使間で明確に定めている場合は、引き続き出向元企業が適用事業所となる
山田
手続きがいらないのは助かります! じゃあパターン2の「出向先が全額負担」だとどうなるんですか?
木村先生
この場合は逆に、出向先企業から支払われる給与が主たる報酬になるので、出向先企業が適用事業所に切り替わります。出向先での労働時間や責任が増えて出向先からの給与が上回った結果、出向先企業が主たる事業所と判断されたケースがこれにあたります。
パターン2:出向先が全額負担する場合
  • 適用先: 出向元企業で資格喪失、出向先企業で資格取得
  • 手続き: 出向元企業が「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」、出向先企業が「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」をそれぞれ提出
  • 注意点: 出向元・出向先どちらが届出をするか事前に取り決めておかないと提出漏れが起きやすい
山田
ほんとに? 会社が変わっただけなのに、社会保険上は転職したのと同じ扱いになるんですね。
木村先生
感覚としてはそれに近いです。そして一番相談が多いのが、パターン3の出向元と出向先の双方から給与を受け取るケースです。この場合、双方の会社との使用関係と報酬支払いが同時に成立するので、どちらか一方だけの適用にはできません。
山田
じゃあ2つの会社両方で社会保険に入るってことですか? それって二重加入にならないんですか?
木村先生
いい質問です。二重加入にはならず、「二以上事業所勤務届」という届出で1つの適用関係に統合する仕組みが用意されています。厚生労働省のハンドブックにも、出向元企業と出向先企業の双方で被保険者となる場合は、当該出向労働者が選択した事業所を主たる事業所として、二以上事業所勤務届の届出を、主たる事業所を管轄する年金事務所・健康保険組合に届け出る必要があると書かれています。
山田
分担のパターンだけ、独自の届出が必要になるんですね。次はその手続きを詳しく教えてください!

二以上事業所勤務届の提出方法と期限

木村先生
二以上事業所勤務届は、正式名称を「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」といいます。まず押さえておきたいのが提出期限です。
⚠️ 提出期限は事実発生から10日以内

日本年金機構の案内では、事実発生から10日以内に被保険者本人が二以上事業所勤務届を日本年金機構へ提出する必要があるとされています。出向開始のタイミングで慌てないよう、出向契約を締結した段階から社内で準備を進めておきましょう。

山田
えっ、10日はけっこう短いですね……! 提出先はどこになるんですか?
木村先生
選択した事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所です。電子申請・郵送・窓口持参のいずれの方法でも提出できます。もし選択した事業所が健康保険組合に加入している場合は、その健康保険組合にも別途手続きが必要になるので忘れないでくださいね。

二以上事業所勤務届の提出から標準報酬月額決定までの4ステップ

手順
  1. 出向契約を締結し、出向元・出向先それぞれの給与負担割合を書面で合意する
  2. 給与の分担が発生した事実発生日から10日以内に、主たる事業所を選択して二以上事業所勤務届を提出する(資格取得届の提出が前提)
  3. それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した金額をもとに、標準報酬月額が1つに決定される
  4. 決定された標準報酬月額と保険料額が、選択した事業所を管轄する事務センターからそれぞれの事業所へ通知される
山田
なるほど! 保険料ってどうやって2社に分けるんですか?
木村先生
それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により標準報酬月額を決定し、その保険料額をそれぞれの事業所で受ける報酬月額に基づいて按分するんです。たとえば出向元から15万円、出向先から10万円の給与を受けている場合、合計25万円に対応する標準報酬月額をベースに、15万円分と10万円分の比率で保険料を分けて、それぞれの会社が負担する形になります。
山田
会社側からすると、按分計算まで自分でやるのは大変そうですね(笑)
木村先生
そこは事務センターが計算した結果を通知してくれるので、事業主が独自に計算し直す必要はありません。ただし按分の基礎になる報酬月額を事業所側が正しく届け出ることは必須です。報酬月額の申告に誤りがあると、あとから保険料の追徴や還付が発生するので、出向契約書に定めた給与負担金額と実際の届出内容を必ず一致させておきましょう。

雇用保険はどちらの会社で入り直すのか

木村先生
社会保険(健康保険・厚生年金)の整理ができたところで、次は雇用保険です。実はここ、社会保険と考え方がちょっと違うので注意が必要です。
山田
社会保険は分担なら二以上事業所勤務届でしたけど、雇用保険も同じように分けられるんですか?
木村先生
いいえ、そこが大きな違いです。雇用保険には二以上事業所勤務届のような分割の仕組みがなく、出向労働者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ、雇用保険の被保険者となると定められています。つまりどちらか一方だけでの加入になります。
雇用保険の加入先の決め方
  • 出向元からの賃金が多い場合: 引き続き出向元企業で雇用保険に加入
  • 出向先からの賃金が多い場合: 出向先企業で雇用保険に加入し直し、出向元企業での資格を喪失する
  • 判断基準: 生計を維持するのに必要な「主たる賃金」を、どちらの会社から受けているか
山田
マジですか、雇用保険は片方の会社にしか入れないんですね。手続きは誰がやるんですか?
木村先生
出向労働者が出向先企業で新たに雇用保険の被保険者となる場合は、出向元企業での資格喪失手続きと出向先企業での資格取得手続きが必要です。資格取得届は入社手続きと同じ書式を使うので、詳しい書き方は雇用保険の資格取得・喪失の記事も参考にしてください。
山田
もし出向中に会社が倒産したりして失業給付をもらうことになったら、給付額はどっちの給与で計算されるんですか?
木村先生
良いところに気づきましたね。失業等給付の基本手当の算定は、雇用保険の被保険者となっている企業から支払われた賃金のみが基礎になります。両社の賃金を合算して計算されるわけではないので、出向先だけで雇用保険に入っている人は出向先の賃金だけが給付額の計算対象です。だからこそ、賃金支払関係をどちらか一方の企業に集約して処理することが望ましいとされています。
木村先生
もう1つ実務担当者が知っておくと安心なのが、資格喪失届の記入方法です。在籍出向で出向先の被保険者になる場合、雇用保険被保険者資格喪失届の「喪失原因」欄は「1(離職以外の理由)」を記入します。被保険者の死亡や出向元への復帰と同じ区分ですね。
山田
それって転籍のときも同じ番号を書くんですか?
木村先生
いいえ、そこは区別されています。移籍出向(転籍)の場合の喪失原因は「2」に分類され、任意退職や契約期間満了などと同じグループになります。在籍出向と転籍では雇用契約そのものの扱いが違うので、書類上もはっきり区別されているんです。転籍時の具体的な手続きフローは別記事「転籍時の社会保険・雇用保険の切り替え手続き」でまとめる予定なので、公開されたらあわせて確認してみてください。

労災保険は出向先が適用になる

山田
社会保険と雇用保険はよく分かりました。労災保険はどうなるんですか?
木村先生
労災保険は考え方がシンプルで、実際に指揮命令を受けて働いている会社が適用になります。出向労働者は出向先の指揮命令下で業務に従事するので、原則として出向先企業の労災保険が適用されます。
⚠️ 労災保険の給与合算ルールを見落とさない

出向労働者が出向先企業の組織に組み入れられ、出向先事業主の指揮監督を受けて働く場合は、出向元企業で支払われている賃金も出向先企業で支払われている賃金に含めて計算し、出向先企業で労働者災害補償保険を適用する必要があります。出向元がまだ給与の一部を負担しているからといって、その分を労災保険料の計算から除外してはいけません。

山田
出向元がまだ給料の一部を払っていても、労災保険の対象になる賃金には出向元の分も含めて計算するんですね。
木村先生
そうです。労災保険については新たな手続きは特に不要ですが、万が一労災が発生した場合は、出向先企業が労働者災害補償保険の申請手続きを行うことになります。手続きの主体がはっきりしている分、社会保険・雇用保険よりは判断に迷いにくい分野ですね。

出向と転籍はどう違うのか

山田
ここまで聞いてきて、「出向」と「転籍」って何が根本的に違うんでしたっけ?
木村先生
一番の違いは出向元企業との雇用契約が残るかどうかです。在籍出向は出向元・出向先の両方と雇用契約がある状態ですが、転籍(移籍出向)は出向元企業との雇用契約を終了させて、出向先企業とだけ新たに雇用契約を結び直します。
比較項目在籍出向転籍(移籍出向)
出向元との雇用契約継続する終了する
社会保険の資格喪失原因分担がなければ変更なし、出向先全額負担なら「1」区分出向元で資格喪失、原則として離職と同様の扱い
雇用保険の喪失原因コード「1(離職以外の理由)」「2(「3」以外の離職)」
出向先での社会保険手続き給与負担形態に応じて要否が変わる原則として資格取得届の提出が必要
労働条件の設定主体出向元・出向先・労働者の三者間の取り決め出向先企業(転籍先)が単独で設定
山田
表にしてもらうとすっきりしますね! 雇用保険の喪失原因コードまで違うのは知りませんでした。
木村先生
実務担当者が混同しやすいポイントなので、迷ったら「雇用契約が出向元に残っているかどうか」を最初に確認する癖をつけてください。転籍の詳しい手続きフローは別記事「転籍時の社会保険・雇用保険の切り替え手続き」で解説する予定なので、実際に転籍のケースが出てきたら公開状況を確認してみてくださいね。

実務でつまずきやすいポイント

木村先生
ここからは実務担当者から実際によく相談される、つまずきやすいポイントを整理しておきましょう。
出向契約書に必ず盛り込みたい項目
  • 給与負担割合: 出向元・出向先どちらがいくら負担するか、金額または割合で明記する
  • 社会保険料の負担者: 給与負担割合と社会保険料の負担割合が一致しない契約もあるため、別項目として明記する
  • 手続きの担当窓口: 資格取得届・喪失届・二以上事業所勤務届のどちらの会社が提出手続きを行うか
山田
給与の負担割合と社会保険料の負担割合が違うこともあるんですか?
木村先生
実はあります。出向労働者の給与に関する税務や社会保険・労働保険における取り扱いは、個別の出向契約の内容によって異なるとされていて、法律で一律に決まっているわけではありません。トラブルを防ぐためにも、出向契約のたびにどのような取り扱いになるか、出向元・出向先・労働者の三者で確認しておくことが大切です。
⚠️ 出向期間中の労働条件は三者間の取り決めが必須

出向労働者の出向先企業での労働条件、出向元企業での身分等の取り扱いは、出向元企業・出向先企業および出向労働者の三者間の取り決めによって定められます。賃金の決定・計算・支払方法や退職に関することなど、労働基準法で明示が義務づけられている項目は、出向先企業が労働者に明示することになりますが、出向元企業が代わって明示しても問題ありません。

山田
契約書をきちんと作っておかないと、あとで「どっちが手続きするんだっけ」ってなりそうですね(笑) うちも出向契約のひな形を見直しておきます。
木村先生
それが一番の予防策です。あとは出向開始日と給与負担形態が変わるタイミングを人事・総務・経理の3部門で共有しておくことも忘れないでください。二以上事業所勤務届の10日以内という期限は、給与担当者だけが知っていても間に合わないことが多いんです。
山田
ほんとにそうですね(笑) うちも情報共有の仕組みから見直します。基本情報を最後にまとめてもらえますか?

基本情報まとめ

項目内容
制度名出向者(在籍出向)の社会保険・雇用保険手続き
分岐の基準給与負担形態(出向元全額・出向先全額・分担)
主な届出健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/喪失届、健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届、雇用保険被保険者資格取得届/喪失届
二以上事業所勤務届の提出期限事実発生から10日以内
二以上事業所勤務届の提出先選択した事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所
雇用保険の加入先主たる賃金を受けている一方の会社のみ(二重加入不可)
労災保険の適用先原則として出向先企業(出向元の賃金も合算して保険料を計算)
管轄省庁厚生労働省
実施機関日本年金機構、公共職業安定所(ハローワーク)
公式情報源日本年金機構

よくある質問

山田
最後にいくつか気になったことをQ&A形式で聞いてもいいですか?
木村先生
もちろんです。どうぞ!
山田
出向元と出向先、両方の給与明細を本人が受け取る場合、社会保険料はどこから天引きされるんですか?
木村先生
二以上事業所勤務届を提出したあとは、按分された保険料額がそれぞれの事業所に通知されるので、各社が自社から支払う給与の範囲で天引きします。本人が二重に保険料を負担することはありません。
山田
出向期間の途中で給与負担割合が変わったら、また手続きが必要ですか?
木村先生
はい。給与負担割合が変わって主たる事業所が変わる、あるいは新たに分担が発生するといった場合は、そのつど資格の取得・喪失や二以上事業所勤務届の届出が必要になります。出向契約を更新するタイミングで、社会保険の適用先も一緒に見直す習慣をつけておきましょう。
山田
出向先で役員に就任した場合はどうなるんですか?
木村先生
出向先で役員に就任するなど、通常の従業員と異なる報酬形態になった場合も、双方から報酬を受け取る形になれば二以上事業所勤務届の対象になり得ます。役員就任のケースは個別の判断が必要になることが多いので、管轄の年金事務所や社会保険労務士に事前相談することをおすすめします。
問い合わせ先
  • 二以上事業所勤務届・資格得喪の相談: 事業所を管轄する年金事務所(日本年金機構
  • 雇用保険の資格得喪の相談: 事業所を管轄するハローワーク(公共職業安定所)

関連書類・参考リンク

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山田
よく分かりました! 先生、今日はありがとうございました! 出向者が出るたびに給与負担形態から確認する、というのを社内ルールにしておきます。
木村先生
それが一番の近道です。出向契約を結ぶ最初の段階で、給与負担・社会保険・雇用保険・労災保険の4点セットを確認しておけば、あとで慌てることはありませんよ!

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