扶養・家族
2026年4月施行|被扶養者認定が労働契約書ベースに変わった収入判定と実務対応
なぜ2026年4月に変わったのか
山田
先生、健康保険の扶養の認定方法が2026年4月から変わったって聞いたんですけど、そもそもなんで変わったんですか?
木村先生
いい質問ですね。背景には「年収の壁問題」があります。これまでの認定方法だと、繁忙期に少し残業が増えただけで扶養から外れてしまうケースが続出していたんです。
山田
えっ、そんなことが起きてたんですか。
木村先生
ええ。たとえば時給1,200円で働いているパートさんが、12月に繁忙期でちょっと残業したら年収が130万円を超えてしまった、という話は珍しくなかったんです。その上、最低賃金が毎年引き上げられていますよね。労働時間をまったく変えていないのに、賃金上昇だけで扶養を外れる人が増えた、という問題が深刻化していました。
山田
ああ、それで働き控えをする人が増えちゃうっていうやつですね。
木村先生
まさしく。「130万円の壁」で就業調整が常態化していた。国としても社会保険の担い手を増やしたいし、一方でパートで働く方たちの手取りが上がらない問題も抱えていた。その解決策として2025年10月1日付で厚生労働省が通達(保保発1001第3号・年管管発1001第3号)を出して、2026年4月1日から新しい認定方法を適用することになったんです。
山田
通達が2025年10月で、施行が2026年4月なんですね。
木村先生
そうです。半年ほどかけて各保険者や企業が準備できるよう、施行タイミングを置いたわけですね。では次に、旧ルールと新ルールがどう違うのか、整理してみましょう。
旧ルールと新ルールの違い

山田
旧ルールって、どうやって収入を判定してたんですか?
木村先生
旧ルールでは「今後1年間の収入見込み」で判定していました。現時点の給与を年換算して、残業代や一時的な手当も含めた「実績見込みベース」です。
山田
それだと、ちょっとした収入の増加でアウトになりやすいですよね。
木村先生
そうなんです。新ルールでは、判定の軸がガラッと変わりました。「労働条件通知書(または雇用契約書)に記載された賃金から見込まれる年間収入」で判定するという仕組みになっています。
山田
労働条件通知書ってあの入社時に渡される書類ですね。
木村先生
そうです。労働基準法第15条に基づいて雇用時に交付が義務づけられている書類です。基本給・固定手当・所定労働時間・勤務日数などが明記されていますよね。その書類に書いてある賃金で計算した年間収入が130万円未満なら、原則として扶養に入れるという考え方です。
| 比較項目 | 旧ルール(2026年3月まで) | 新ルール(2026年4月以降) |
|---|---|---|
| 収入判定の基準 | 過去実績・現在収入・残業込みの見込み | 労働条件通知書に基づく契約収入 |
| 残業代の扱い | 年間収入に全額算入 | 「契約に規定なし」なら除外可 |
| 一時的な超過 | 原則として扶養取消 | 社会通念上妥当な範囲なら継続 |
| 必要書類(追加) | 収入証明書・課税証明書等 | 労働条件通知書の写し+申立書 |
| 年1回の検認 | 実施(収入証明書ベース) | 引き続き実施(書類内容が変化) |
山田
ざっくりいうと、契約書に書いてある金額で判断するから、残業が多少増えても扶養を外れにくくなったってことですか?
木村先生
その理解で正しいです。ただし、適用される条件がいくつかあって、全員が新ルールの恩恵を受けられるわけじゃないんですよ。その条件を次に確認しましょう。
新ルールが適用される条件と収入基準
山田
新ルールが使えない場合って、どんなときですか?
木村先生
まず「新ルールを使える前提条件」を整理しますね。3つのポイントがあります。1つ目は給与収入のみであることです。年金収入や事業収入が加わる場合は、従来通り収入証明書ベースの判定になります。
山田
副業でちょっと稼いでる人もダメなんですか。
木村先生
副業や事業収入があると、新ルールの適用外になります。2つ目は労働条件通知書に明確な記載があることです。シフト制で働く日が毎回変わるとか、「時給いくら・週何時間」が契約書に書かれていない場合は従来方式のままです。
山田
なるほど。3つ目は?
木村先生
契約期間が1年以上(または更新が見込まれる)であることです。「単発バイトで3か月」のような短期契約の場合、新ルールは使えません。
山田
じゃあ正社員の奥さんでパートをしている人で、ちゃんとした雇用契約書があって、給与だけで生活してる場合なら新ルールを使えると。
木村先生
まさにそのパターンが、今回の新ルールのメインターゲットですね。それと、収入基準自体は変わっていないので確認しておきましょう。
| 対象者の区分 | 年間収入基準 |
|---|---|
| 一般(原則) | 130万円未満 |
| 60歳以上または一定の障害者 | 180万円未満 |
| 19歳以上23歳未満(配偶者を除く) | 150万円未満 |
山田
130万円って変わらないんですね。
木村先生
金額の基準は据え置きで、あくまで「その130万円をどうやって計算するか」の方法が変わったわけです。ではここで、計算方法を具体的に見てみましょう。
収入計算に含まれる・含まれないもの
- 含まれる(新ルールでも算入): 基本給、固定手当、通勤手当(全額)、契約書に金額が記載された賞与
- 含まれない(新ルールで除外可): 契約書に規定がない残業代・時間外手当、契約書で金額を見込みがたい不定期賞与
- 注意点: 通勤手当は所得税では非課税でも、社会保険の被扶養者認定では全額が年間収入に算入される
山田
通勤手当が全額算入されるのは盲点ですね!遠距離通勤の人は要注意ですか。
木村先生
そうです。月の通勤手当が2万円でも、年間で24万円ですから、基本給の計算だけで「ギリギリ130万円未満」と思っていても、通勤手当を加えると超えてしまうケースがあります。ここは実務上の落とし穴です。
必要書類と会社の手続き対応
山田
会社側としては何を準備すればいいんですか?
木村先生
新ルールを使う場合、従来の書類に加えて2点が必要になりました。1点目は労働条件通知書等の写し、2点目は「給与収入のみである」旨の申立書です。
山田
申立書って、誰が書くんですか?
木村先生
被扶養者となる方、つまりパートで働いている本人が書きます。健康保険被扶養者(異動)届の「扶養に関する申立書」欄に記入する方法と、別途申立書を作成して添付する方法の2通りが想定されています。
山田
新たに扶養に入れるときだけじゃなくて、毎年の検認でも必要ですか?
木村先生
毎年必要です。年1回の被扶養者確認(検認)のタイミングでも、労働条件通知書の写しと申立書を再提出してもらいます。特に契約更新や契約内容に変更があった場合は都度提出が必須です。
手順
-
パート従業員の労働条件通知書を確認・整備 → 月給(時給)、所定労働時間、勤務日数、通勤手当、賞与の有無が明記されているか確認
-
被扶養者となる方に申立書を記入してもらう → 「給与収入のみである」旨の本人署名入り申立書を用意
-
被扶養者(異動)届と一緒に申立書・労働条件通知書の写しを提出 → 協会けんぽまたは自社の健康保険組合へ提出
-
年1回の検認(定期確認)時にも再提出 → 契約内容が変わっていなくても再提出が原則
-
契約更新・変更があったら都度提出 → 時給改定・所定労働時間の変更等があれば即時対応
山田
会社の担当者としては、まず「労働条件通知書がきちんと整備されているか」を確認するところから始める感じですね。
木村先生
まさにそこが実務のスタートです。労働基準法上、交付は義務なので、通知書がない、あるいは内容が不十分な場合は、そこから整備してもらう必要があります。次に、よくある疑問点を整理しましょう。
残業しても外れない?「社会通念上妥当な範囲」とは

山田
新ルールで「残業代は除外できる」と聞いたんですけど、どんな残業でも除外できるんですか?
木村先生
「労働条件通知書に残業代の規定がなく、契約段階ではその額を見込みがたい場合」に限られます。つまり契約書に「時間外労働あり・月◯時間程度」などと書いてあれば、その分は算入対象になります。
山田
じゃあ、残業代の記載がない契約書で働いている人が繁忙期に残業して、年間130万円を超えちゃった場合は?
木村先生
そこで登場するのが「社会通念上妥当な範囲」という概念です。その超過が一時的かつ常識的な範囲に収まるなら、扶養を取り消さなくていいことになっています。
山田
「社会通念上妥当な範囲」って、いくら以上はダメとか具体的に決まってるんですか?
木村先生
実は厚生労働省は具体的な金額を示していません。ケースバイケースで判断する、というのが現時点の方針です。
山田
それってちょっと曖昧じゃないですか…。
木村先生
おっしゃる通りで、実務上は保険者(協会けんぽや健康保険組合)に個別確認するのが確実です。ただ判断の参考として、「当初の契約収入から大幅に乖離していないか」「一時的なものか継続的なものか」という2つの視点で見ることが多いです。
⚠️ 認定取消になるケースに要注意
- 取消ケース1: 残業が常態化して、年間収入が130万円を大きく上回り続ける状態
- 取消ケース2: 労働条件通知書の賃金を意図的に低く記載していたことが判明した場合
- 取消ケース3: 給与収入以外の収入があるのに「給与収入のみ」と申立てをしていた場合
- 取消タイミング: 通常は将来に向かって扶養を外すが、認定時に問題があれば認定時点に遡って取消になることも
山田
不正に低く申告するのは絶対アウトですね。
木村先生
当然です。制度の趣旨は「実態を正確に反映した契約書を前提に、一時的な収入変動に柔軟に対応する」ことです。書類を意図的に操作すれば詐欺的な行為になりますから、絶対にやってはいけません。では、よくある誤解について整理しましょう。
よくある疑問: 複数勤務・シフト制・既に扶養中の人への影響
山田
複数のパート先を掛け持ちしている人はどうなるんですか?
木村先生
複数の事業所で就労している場合は、各事業所の労働条件通知書から年間収入を算定して合算します。ただし、どれか一つでも不明確な契約があれば、全体を従来方式(実績ベース)で判定することになります。
山田
シフト制で働いている人は?
木村先生
シフト制の方は、労働契約に具体的な労働時間・日数が明記しにくいケースがあります。そういった場合は、従来通り給与明細書や課税証明書をもとにした判定になります。新ルールが使えるかどうかは、契約書の記載内容次第です。
山田
既に今扶養に入っている家族は、すぐに新しい手続きが必要になるんですか?
木村先生
新ルールは「2026年4月1日以降の認定日」から適用されます。すでに扶養に入っている方への適用は、翌年度以降に行われる年1回の被扶養者確認(検認)のタイミングからです。多くの保険者が年末に検認を実施するので、実質的には2026年末の検認で初めて新ルールが適用されるケースが多いでしょう。
山田
じゃあ今すぐ手続きは不要なんですね。
木村先生
既に扶養中の方については、慌てて何かする必要はありません。ただ、新たに扶養に入れる場合(2026年4月1日以降の認定)には、即座に新書類が必要になります。
よくある誤解チェックリスト
- 誤解1 所得税の扶養も変わった? → 変わっていません。配偶者控除(103万円)・配偶者特別控除(123万円)は今回の改正の対象外です
- 誤解2 103万円の壁はなくなった? → なくなっていません。社会保険と所得税は別制度です
- 誤解3 全員が残業代を除外できる? → 契約書に残業の規定がある場合は除外できません
- 誤解4 申立書は1回だけ? → 毎年の検認のたびに再提出が必要です
山田
所得税の扶養と健康保険の扶養が別物だってことは、改めて整理しておく必要がありますね。
木村先生
大事なポイントです。社員の家族から「2026年4月から扶養が変わって103万円の壁がなくなった」という問い合わせが来ることがあるかもしれませんが、それは誤解です。今回の変更はあくまで健康保険の被扶養者認定の収入計算方法が変わっただけで、所得税のルールには影響しません。
会社が今すぐやるべき3つの実務対応
山田
では会社としては、具体的にどんな準備をすればいいんですか?
木村先生
優先度の高い順に3つ挙げます。まずパート・アルバイトの労働条件通知書の見直しです。時給・所定労働時間・所定勤務日数・通勤手当・賞与の有無が明記されているか確認してください。
山田
古い書式だと記載が足りない場合がありそうですね。
木村先生
ありますね。特に通勤手当の記載が抜けているケースが多いです。通勤手当は被扶養者の年収計算に全額含まれますから、正確に労働条件通知書に記載しておくことが双方のためになります。
山田
2つ目は何ですか?
木村先生
被扶養者に関する従業員への周知です。家族がパートで働いている社員に対して、「2026年4月から認定方法が変わった」ことを伝え、家族の労働条件通知書を確認してもらうよう案内しましょう。
山田
3つ目は?
木村先生
申立書の様式と提出フローの整備です。協会けんぽであれば、被扶養者(異動)届の書式が2026年4月以降に対応したものに改訂されています。健康保険組合の場合は独自の様式が用意されているところもあるので、所属する保険者に最新の書式を確認してください。
| 実務対応項目 | 対応の内容 | 期限・タイミング |
|---|---|---|
| 労働条件通知書の見直し | 時給・労働時間・通勤手当・賞与を明記 | 即時(新規採用時はもちろん、既存の契約書も確認) |
| 従業員への周知 | 扶養家族がパートの場合は新ルールを案内 | 2026年4月以降の認定から適用 |
| 申立書様式の確認 | 保険者の最新書式を入手・フロー整備 | 新規扶養追加の都度 |
| 年1回検認対応 | 書類再提出の案内フロー構築 | 各保険者の検認スケジュールに合わせて |
| 契約変更時の対応 | 時給改定・労働時間変更の都度書類更新 | 変更が発生した都度 |
山田
「事業主証明制度」って別にありましたよね?あれは今回の新ルールとどう関係するんですか?
木村先生
事業主証明制度は廃止されずに継続しています。新ルールと事業主証明は併用できます。事業主証明は「一時的な収入変動で130万円を超えたが、事業主が実態を証明できる場合」に扶養を継続できる制度で、「年収の壁・支援強化パッケージ」の一環です。2026年4月の新ルールとは独立した仕組みなので、両方をうまく活用することが大切です。
基本情報まとめと制度比較
山田
整理のために、制度全体のまとめが欲しいです。
木村先生
今回の変更をまとめると、こういう表になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 根拠通達 | 令和7年10月1日付 保保発1001第3号・年管管発1001第3号 |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 協会けんぽ・健康保険組合 |
| 収入基準(一般) | 年間130万円未満(変更なし) |
| 収入基準(60歳以上・障害者) | 年間180万円未満(変更なし) |
| 収入基準(19〜23歳) | 年間150万円未満(変更なし) |
| 収入判定の方法 | 労働条件通知書に基づく年間収入(新設) |
| 追加書類 | 労働条件通知書の写し+給与収入のみの申立書 |
| 公式情報 | 厚生労働省「年収の壁」対応ページ |
山田
今回の変更は健康保険だけで、社会保険の加入要件(106万円の壁・130万円の壁)の廃止とはまた別の話ですよね?
木村先生
はい、全く別の話です。社会保険の適用要件の変更(106万円の壁廃止)については 2026年10月施行の106万円の壁廃止 を参照してください。また、年1回の被扶養者確認(検認)の仕組みについては 健康保険の被扶養者定期確認 で詳しく解説しています。
山田
関連制度が色々あってこんがらがりそうですが、整理できてよかったです!
よくある質問
山田
最後に、現場でよく出る疑問をまとめてもらえますか?
木村先生
実際の相談で多い質問を5つ取り上げましょう。
山田
まず「時給が上がって年収130万円を超えそうになった」場合はどうなりますか?
木村先生
時給改定で労働条件通知書の記載内容が変わりますよね。その場合は変更後の時給で計算した年間収入が新しい基準になりますから、変更のたびに保険者へ書類を提出して確認が必要です。
山田
では「賞与をもらったら130万円を超えた」場合は?
木村先生
労働条件通知書に賞与の規定(金額・支給時期)が書いてあれば年間収入に含めます。書いていなくて「見込みがたい」なら除外できます。ただ実際に支給されたという事実は残りますから、翌年度の検認では注意が必要です。
山田
「家族が2か所でパートをしている」場合はどうですか?
木村先生
さっき少し触れましたが、2か所分の労働条件通知書を合算します。1か所でも契約内容が不明確なら、全体を従来の実績ベースで判定します。掛け持ちの方は特に正確な書類整備が重要です。
山田
「会社から労働条件通知書をもらっていない」人は?
木村先生
新ルールを使えず、従来の収入証明書ベースの判定になります。ただ労働基準法上、使用者は必ず交付しなければならないので、まず会社に交付を求めることが先決です。
山田
最後に「今はニートで収入がない扶養家族」は新ルールの影響はありますか?
木村先生
無収入の方は収入判定に関係しないので、新ルールの影響はありません。新ルールの影響を受けるのは給与収入がある方の被扶養者認定に限られます。
⚠️ 2026年4月以降の新規扶養認定時の注意点
- 2026年4月1日以降に新たに被扶養者とする場合、必ず労働条件通知書の写しと申立書が必要
- 書類が不足すると認定が遅れる場合があります。採用のタイミングと扶養手続きを事前に確認しましょう
- 保険者(協会けんぽ・健康保険組合)によって書式が異なるため、事前に確認を