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高額療養費の限度額見直し|2025年凍結と2026年8月施行
厚生労働省公式案内 →
先週、経理担当の後輩から「高額療養費ってニュースで見たけど、結局引き上げになったんですか、それとも中止になったんですか」と聞かれて、ぼくは答えに詰まってしまった。2025年に大きく報道されたのに、その後どうなったのか自分でもあいまいなままだったからだ。今日は木村先生に、経緯と現状を一から整理してもらう。
山田
先生、単刀直入に聞きます。高額療養費の自己負担限度額って、結局上がったんですか、それとも据え置きなんですか。
木村先生
いい質問ですね、結論から言うと「一部は凍結されたあと、内容を見直したうえで2026年8月から段階的に実施される」というのが正確なところです。単純な引き上げでも単純な見送りでもないんですよ。
山田
ややこしい(笑)。そもそも高額療養費制度って何だっけ、というところから確認させてください。
木村先生
大丈夫です、順番に説明しますね。まず制度の基本を押さえて、そのあとで2025年に何があったのかを見ていきましょう。
そもそも高額療養費制度とは何か

山田
改めてなんですが、高額療養費ってどういう制度なんですか。
木村先生
病院や薬局の窓口で払う医療費が、1か月のうちに一定額(自己負担限度額)を超えたら、超えた分があとから払い戻される制度です。年齢や所得に応じて上限額が決まっていて、大きな手術や入院をしても家計が破綻しないようにするための最後のセーフティネットなんですよ。
山田
なるほど、医療費が青天井にならないための仕組みなんですね!誰が運営しているんですか。
木村先生
制度の枠組みを決めているのは厚生労働省です。実際の払い戻し事務は、会社員なら協会けんぽや健康保険組合、自営業なら市区町村の国民健康保険が担当します。
山田
ふむふむ。うちの会社だと、従業員が入院したときに「限度額適用認定証」を持っていけば窓口の支払いがそのまま上限額で済むって聞いたことがあります。
木村先生
そうです、それも高額療養費制度の一部ですね。マイナ保険証を使えば、認定証がなくても自動的に限度額までの支払いになる場合もあります。ここまでが制度の基本、そして今回のニュースの本題は、この自己負担限度額そのものを引き上げるかどうかという議論だったんです。
山田
なるほど、土台がわかったところで、2025年に何が起きたのか教えてください。
2025年に何が起きたのか、引き上げ案から凍結までの経緯

木村先生
話は2024年末にさかのぼります。厚生労働省は、高齢化の進展や高額な薬剤の使用で医療費が増え続けていることを受けて、社会保障審議会医療保険部会という会議で高額療養費制度の見直しを議論していました。
山田
医療費が増えてるのは知ってましたけど、それが自己負担限度額の話につながるんですね。
木村先生
そうなんです。そして2024年12月27日に閣議決定された令和7年度予算政府案で、自己負担限度額を所得区分に応じて引き上げつつ、所得区分自体も細分化するという方針が示されました。当初案では、2025年8月から2027年夏にかけて3段階で引き上げる計画だったんです。
山田
3段階で、しかも結構な引き上げ幅だったとか。
木村先生
ええ、平均的な所得層で引き上げ率が約10%というかなり大きな内容でした。ここから患者団体を中心に反対の声が一気に広がっていきます。
山田
え、10%も上がるんですか!それは反対の声も大きくなりますよね。じゃあ、最終的にはどうなったんですか。
木村先生
2025年3月7日、当時の石破茂首相が記者会見で、2025年8月に予定していた見直し全体の実施を見合わせると表明しました。首相はこのとき「私は本年8月に予定されております定率改定を含めて、見直し全体について、その実施を見合わせるという決断をいたしました」と述べ、本年秋までに改めて方針を検討し直す考えを示しました。
山田
えっ、8月の直前になって全面ストップだったんですか!かなりギリギリのタイミングですね。
木村先生
そうです。しかも一度で決まったわけじゃなく、2月末にはいったん「8月分は予定通り実施」という修正方針を示していたのに、わずか1週間ほどでそれも撤回して全面凍結に転じました。かなり異例の展開でしたね。
山田
二転三転してたんですね。そのあとはどうなったんですか。
木村先生
凍結を表明したあと、医療保険部会の下に設置された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」で、患者団体からのヒアリングも含めて再検討が続きました。そして2025年12月25日に、医療保険部会と専門委員会の合同会議で最終的な見直し内容が取りまとめられ、翌26日に閣議決定された令和8年度予算案に反映されたんです。
山田
約9か月かけてじっくり議論しなおしたってことですね。じゃあ、なんで最初の案はそんなに反対されたのか、次はそこを聞かせてください。
患者団体はなぜ反対したのか
木村先生
大きく2つの理由がありました。1つ目は、単純に引き上げ幅が大きすぎたこと。平均的な所得層で約10%という上げ幅は、長期通院中の患者さんにとって重い負担増になります。
山田
10%って地味に見えて、実際は結構な金額になりますもんね!家計にはじわじわ効いてきそうです。
木村先生
そうなんです。2つ目の理由がより深刻で、「多数回該当」という長期療養者向けの軽減措置が事実上骨抜きになるという指摘でした。2025年2月14日に厚労省が示した修正案では、直近12か月に3回以上高額療養費に該当した場合に4回目から限度額が下がる「多数回該当」の金額だけは据え置くとしていたんですが、そもそも多数回該当に当てはまる人は全体の2割程度しかいません。
山田
つまり、大多数の患者さんにとっては据え置きの恩恵がなかったってことですか。
木村先生
その通りです。むしろ限度額そのものが上がることで、これまで多数回該当の条件を満たしていた人が条件から外れてしまうケースも出てくると指摘されていました。がんや難病の患者団体である全国がん患者団体連合会や日本難病・疾病団体協議会が、署名活動や国会での意見陳述を通じて見直しの撤回を強く求め続けたんです。
山田
与党の中からも異論が出てたとニュースで見た気がします!政府内でも一枚岩じゃなかったんですね。
木村先生
ええ、2025年3月4日に修正した予算案が衆議院を通過したあとも、参議院審議の中で与党内から異論が相次ぎ、患者団体の訴えと合わせて政府を押し戻す形になりました。世論の高まりが政策を動かした事例として、社会保障分野ではかなり大きな出来事でしたね。
山田
ここまでが「なぜ揉めたか」ですね。じゃあ今、実際の限度額っていくらなんですか。
現在の自己負担限度額(所得区分別)
木村先生
見直しが凍結されたことで、2015年1月から続く現行水準が2026年7月分の診療まではそのまま維持されています。70歳未満の方の区分は次の5段階です。
| 所得区分 | 年収の目安 | 標準報酬月額 | 自己負担限度額(3回目まで) | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|---|---|
| ア | 約1,160万円以上 | 83万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| イ | 約770万~約1,160万円 | 53万~79万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| ウ | 約370万~約770万円 | 28万~50万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| エ | 約370万円未満 | 26万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| オ | 住民税非課税世帯 | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
山田
所得区分は「ア」から「オ」までの5段階なんですね。これが2026年7月まで変わらないってことですね。
木村先生
そうです。だからこそ、いま従業員から「高額療養費が上がったんですか」と聞かれても、2026年7月診療分までは今の限度額のままだと答えて問題ありません。ここを勘違いして早とちりの説明をしてしまう総務担当者が意外と多いので、注意してください。
⚠️ よくある勘違い
2025年のニュースで「引き上げ」という言葉だけが記憶に残り、すでに限度額が上がっていると思い込んでいる従業員は少なくありません。実際に上限額が変わるのは2026年8月診療分からです。それまでは上記の現行区分がそのまま適用されます。
山田
なるほど、時期を混同しないことが大事なんですね。じゃあ次は、実際に2026年8月からどう変わるのか教えてください。
令和8年8月・令和9年8月から何が変わるのか
木村先生
最終的にまとまった見直しは、2段階に分かれています。まず2026年8月からは月額の自己負担限度額が引き上げられるとともに、新たに「年間上限」という仕組みが導入されます。そして2027年8月からは、所得区分そのものがより細かく分かれます。
山田
段階を分けたのは、最初の反対を踏まえてってことですか。
木村先生
まさにそうです。当初案では平均的な所得層で約10%の引き上げでしたが、最終決定では約7.1%の引き上げ率まで圧縮されました。低所得の方については、引き上げ率を過去2年間の年金改定率の範囲内に抑えるという配慮もされています。
| 実施時期 | 主な変更内容 |
|---|---|
| 2026年8月~ | 月額の自己負担限度額を引き上げ(平均的な所得層で約7.1%)、年間上限(8月~翌7月)を新設 |
| 2027年8月~ | 所得区分をより細かく細分化、年収200万円未満の課税世帯は多数回該当の金額を25%引き下げ |
山田
「年間上限」って初めて聞く言葉です!どういう仕組みなんですか。
木村先生
次の見出しでじっくり説明しますね。ざっくり言うと、月ごとの上限に達しなくても、1年間の合計が一定額を超えたらそれ以上は負担しなくていいという新しい安全弁です。
山田
楽しみです。ちなみに外来だけの高齢者向けの特例も変わるんでしたっけ。
木村先生
はい、70歳以上の方に設けられている外来特例も同時に見直されます。ただし、住民税非課税世帯については、年間の外来自己負担額が現行水準より増えないよう年間上限を設けて配慮する方針です。
山田
低所得の方への配慮はちゃんと入ってるんですね。じゃあ、その「多数回該当」と「年間上限」の関係をもう少し詳しく教えてください。
多数回該当と年間上限のしくみ
多数回該当とは
直近12か月の間に高額療養費の支給を3回以上受けた場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに下がる仕組みです。今回の見直しでは、長期にわたり治療を続けている方の負担を増やさないよう、多数回該当の金額そのものは据え置かれています。
山田
多数回該当の金額は据え置きなんですね、ここは今までと変わらないと。
木村先生
その通りです。厚生労働省も「多数回該当の金額を維持したうえで、新たに年間上限を設けるとともに、年収200万円未満の方の多数回該当の金額を引き下げるなど、長期療養者や低所得者へのセーフティネット機能を強化している」と説明しています。長期療養中の方への配慮を前面に出した設計なんですよ。
山田
「年間上限」の中身も教えてください。
年間上限とは(2026年8月~)
月ごとの自己負担額を積み上げていき、1年間(8月から翌年7月まで)の合計が「多数回該当限度額×12か月相当」に達した場合、それ以降の医療費については保険者から還付を受けられる仕組みです。月単位の上限に届かない年でも、通院が多い年はこちらで救済されます。
山田
つまり、月単位で上限に達しなくても、通院が続いて1年間の合計が膨らんだ人を助ける仕組みってことですね。
木村先生
まさにそうです。特に、多数回該当の3回目に届かないけれど毎月それなりに医療費がかかる、という長期療養の方にとって心強い制度になります。ちなみに年間上限にもとづく高額療養費の申請書は、2027年8月から受付が始まる予定です。
山田
制度としては去年より手厚くなった部分もあるんですね。じゃあ、うちの会社の総務としては、従業員にどう説明すればいいですか。
総務担当者が従業員に説明するときの注意点
木村先生
いくつか気をつけてほしいポイントがあります。まず1つ目、「高額療養費はもう上がった」という誤解を解くことです。2025年の報道が強烈だったぶん、すでに実施されたと思い込んでいる従業員が多いんですよ。
山田
たしかに、うちの部署でもそう思ってた人がいました(笑)。
木村先生
2つ目は、実施時期を正確に伝えることです。2026年8月からの引き上げと2027年8月からの所得区分細分化は別のタイミングなので、混ぜて説明すると従業員が混乱します。
⚠️ 説明時に避けたい言い方
「もうすぐ上がります」「来月から変わります」といった相対的な言い方は避けてください。半年後、1年後に読み返す資料や社内掲示では意味がずれてしまいます。必ず「2026年8月診療分から」「2027年8月診療分から」と具体的な年月で伝えましょう。
山田
3つ目のポイントはありますか。
木村先生
はい、今後も国会審議によって内容が変わる可能性があるということです。令和8年度予算案は閣議決定された段階であり、国会での審議によって修正が入る可能性は残っています。従業員への説明では「現時点で決定している内容」であることを明示しておくと、後々の食い違いを防げます。
山田
なるほど、断定しすぎないことも大事なんですね。じゃあ実務として、限度額適用認定証の手続きについても確認させてください。
限度額適用認定証の手続きの流れ
木村先生
入院や高額な治療が事前にわかっている場合、窓口での支払いをそもそも自己負担限度額までに抑えられる「限度額適用認定証」の手続きがあります。流れを見てみましょう。
手順
- 従業員が加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険)に申請書を提出する
- 保険者が所得区分を確認し、限度額適用認定証を発行する
- 従業員が医療機関の窓口で認定証(またはマイナ保険証)を提示する
- 窓口での支払いが、その月の自己負担限度額までに抑えられる
山田
マイナ保険証を使えば、この手続き自体が省略できるんでしたっけ。
木村先生
そうです、マイナ保険証の利用登録が済んでいれば、医療機関側がオンラインで所得区分を確認できるので、事前に認定証を用意しなくても窓口での支払いが自動的に限度額までになります。ただし、資格確認書で受診する場合は、これまで通り認定証の提示が必要です。
山田
マイナ保険証の便利さがここでも効いてくるんですね!関連して、高額療養費とよく混同される制度もありますよね。
高額介護合算療養費制度との違い
木村先生
いい着眼点ですね。似た名前の制度に高額介護合算療養費制度があります。これは、同じ世帯で医療費と介護費用の両方がかさんだ場合に、年間の合算額が限度額を超えた分を払い戻す制度です。高額療養費が「医療費だけ」を対象にするのに対して、こちらは介護保険との合算という点が違います。
山田
医療だけじゃなく介護も絡んでくる場合はこっちを見るってことですね。ちなみに実際の申請方法についてはどこかにまとまってますか。
木村先生
高額療養費制度の申請方法の記事で、限度額適用認定証の入手方法や払い戻しまでの流れを詳しく解説していますので、そちらも合わせて確認してもらうといいですよ。
山田
あとで見ておきます。最後に、この制度の基本情報を一覧でまとめてもらえますか。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 高額療養費制度(自己負担限度額の見直し) |
| 見直し凍結の表明日 | 2025年3月7日 |
| 最終方針の決定日 | 2025年12月25日(合同会合とりまとめ)、12月26日(令和8年度予算案閣議決定) |
| 施行時期(第1段階) | 2026年8月診療分から(月額限度額の引き上げ、年間上限の新設) |
| 施行時期(第2段階) | 2027年8月診療分から(所得区分の細分化) |
| 対象者 | 公的医療保険(協会けんぽ・健康保険組合・国民健康保険等)の全被保険者・被扶養者 |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 協会けんぽ・健康保険組合・市区町村国民健康保険等 |
| 公式ページ | https://www.mhlw.go.jp/ |
山田
これは総務のマニュアルにそのまま貼っておきたいですね(笑)!最後によくある質問も聞いていいですか。
よくある質問
山田
まず1つ目、「見直しは完全に撤回されたわけじゃないんですよね」。
木村先生
その通りです。2025年3月の凍結は「実施の見合わせ」であって「撤回」ではありません。約9か月の再検討を経て、内容を圧縮したうえで2026年8月からの実施が決まっています。
山田
2つ目、「うちの会社の従業員には、いつから新しい説明資料を使えばいいですか」。
木村先生
2026年7月までは現行の5区分(ア〜オ)のままなので、今の資料で問題ありません。2026年8月分の給与明細や医療費が発生するタイミングに合わせて、新しい限度額の資料に切り替えるのがおすすめです。
山田
3つ目、「限度額が上がるのは全員ですか」。
木村先生
いいえ、低所得者への配慮があります。住民税非課税世帯を含む低所得層は引き上げ率が過去2年間の年金改定率の範囲内に抑えられていますし、2027年8月からは年収200万円未満の課税世帯について多数回該当の金額がむしろ25%引き下げられます。
山田
4つ目、「多数回該当に該当している従業員への影響は」。
木村先生
多数回該当の金額自体は据え置かれるので、長期療養中で既に多数回該当に該当している方への負担増はありません。むしろ2026年8月からの年間上限の新設で、月単位では多数回該当に届かない方にも新しいセーフティネットが加わります。
山田
最後に5つ目、「70歳以上の従業員にも同じ話が当てはまりますか」。
木村先生
基本的な考え方は同じですが、70歳以上の方には外来診療だけに適用される「外来特例」という別枠の上限があります。今回の見直しでは、この外来特例についても自己負担限度額が引き上げられる一方、住民税非課税世帯は年間の外来自己負担額が現行水準より増えないよう年間上限で配慮される設計になっています。総務としては、70歳以上の再雇用従業員がいる場合、外来特例の存在も合わせて案内しておくと親切ですね。
山田
ありがとうございます、これでようやく後輩にも自信を持って説明できます!すっきりしました!
木村先生
制度が二転三転した分、時期と内容を整理して伝えることが何より大切ですね。総務として、決定事項と検討中の事項を分けて説明する姿勢を忘れないようにしましょう。