入社・退社
副業・兼業の労働時間通算と割増賃金|雇用保険・労災の適用先
厚生労働省公式案内 →
先月から後輩が週末にライターの仕事を掛け持ちし始めた。ぼくの担当先にも「うちの社員がフードデリバリーの配達員を副業にしている」と相談してきた会社があって、労働時間や保険の扱いがどうにも頭の中で整理できずにいる。今日は木村先生に、副業・兼業の労働時間通算と保険の適用先について、順を追って教えてもらうことにした。
副業・兼業をしている社員、労働時間はどう管理する?
山田
先生、最近「副業を認めてます」っていう会社、本当に増えましたよね。でも自社の勤務時間しか把握してなかったら、それってマズいんですか。
木村先生
マズいですね。労働者が雇用される形で副業をする場合、自社と副業先の労働時間を合算して管理する義務が発生するんです。
山田
え、他社の労働時間まで気にしなきゃいけないんですか。ちょっと想像つかないです。
木村先生
労働基準法38条1項に「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」という規定があって、この「事業場を異にする場合」には事業主が違う場合も含まれるんです。
山田
つまり、A社とB社みたいに全く別の会社で働いていても、合算しなきゃいけないってことですね。
木村先生
そのとおりです労働基準法38条1項が根拠で、この解釈は昭和23年の通達の時代から変わっていません。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に、具体的な通算のやり方が示されています。
山田
それじゃあ、まずはこの通算がどんな場面で必要になるのか、基本から教えてください。
労働時間通算の基本ルール 事業主が違っても合算する
木村先生
通算が必要になるのは、労働者が「労基法に定められた労働時間規制が適用される労働者」に該当する場合です。フリーランスや独立、業務委託、管理監督者などは対象外になります。
山田
対象になる人とならない人がいるんですね。じゃあ対象になったら、何がどう合算されるんですか。
木村先生
通算されるのは法定労働時間(1日8時間・週40時間)と、時間外労働の上限規制のうち単月100時間未満・複数月平均80時間以内の部分です。一方、36協定で延長できる時間の上限や、休憩・休日・年次有給休暇は通算されません。
| 通算される規定 | 通算されない規定 |
|---|---|
| 法定労働時間(1日8時間・週40時間) | 36協定の延長時間の限度(月45時間・年360時間など) |
| 時間外労働の上限規制(単月100時間未満・複数月平均80時間以内) | 休憩・休日・年次有給休暇 |
山田
なるほど、全部が合算対象ってわけじゃないんですね。ここまでは制度の枠組みですけど、実際にどう通算するのか、手順が気になります。
木村先生
通算は2段階に分かれています。副業を始める前にやる「所定労働時間の通算」と、始まった後にやる「所定外労働時間の通算」です。この2つ、通算の順番の考え方が違うので、ここを混同すると割増賃金の計算を間違えます。
所定労働時間の通算 契約の先後順で振り分ける
山田
まず「始める前」の通算から教えてください。
木村先生
副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と副業先の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分があるかを確認します。ここでのポイントは通算の順番が労働契約を締結した先後の順になることです。
山田
先に契約した会社から順番に積み上げていくってことですか。
木村先生
そうです。通算した結果、法定労働時間を超える部分があれば、時間的に後から労働契約を締結した使用者における超過部分が時間外労働になり、その使用者の36協定で定める範囲内で労働させることになります。
山田
具体例で教えてもらえますか。
木村先生
例えば、企業Aと先に契約して所定労働時間が1日5時間(7時から12時)、企業Bと後から契約して所定労働時間が1日4時間(14時から18時)だとします。合計すると9時間で、法定労働時間の8時間を1時間超えますよね。この場合、後から契約した企業Bに、法定時間外労働が1時間発生します。
山田
企業Aの所定労働時間はまるまる先に消化される扱いだから、後発の企業Bにしわ寄せがいくってイメージですね。
木村先生
そのとおりです。この考え方は勤務する時間帯の前後には関係なく、契約日の先後だけで決まる点に注意してください。企業Bの勤務時間帯が朝でも、契約が後なら通算順は後になります。
所定労働時間の通算のポイント
- 通算の順序: 労働契約締結の先後順(契約が先の会社から順に積み上げる)
- 超過部分の扱い: 時間的に後から契約した使用者の労働時間が時間外労働になる
- 確認するタイミング: 副業・兼業の開始前
山田
開始前の通算はわかりました。じゃあ、実際に副業が始まった後はどうなるんですか。
所定外労働時間の通算 発生した順番で見る
木村先生
ここからが本題です。副業・兼業の開始後は、自社の所定外労働時間と副業先の所定外労働時間を、当該所定外労働が行われる順に通算します。所定労働時間は契約の先後順でしたが、所定外労働時間は実際に働いた時間の発生順になるんです。
山田
ええっ、順番の考え方が変わるんですか。それ、ややこしすぎませんか。
木村先生
混同しやすいポイントなので、ここは覚えておいてください。具体例を見た方が早いです。企業A(先契約)が所定労働時間3時間(7時から10時)、当日の所定外労働2時間(10時から12時)。企業B(後契約)が所定労働時間3時間(15時から18時)、当日の所定外労働1時間(18時から19時)だとします。
山田
先に企業A、後で企業Bで働く1日ですね。
木村先生
所定労働時間の合計(企業A3時間+企業B3時間)と企業Aの所定外労働2時間を足すと8時間ちょうどで、法定労働時間に達します。すると、その後に発生する企業Bの所定外労働1時間(18時から19時)が法定時間外労働になり、企業Bがその1時間分の割増賃金を払う必要があります。
山田
今度は後契約の企業Bに時間外労働が発生するパターンですね。じゃあ、逆に企業Bを先に働いた日はどうなるんですか。
木村先生
いい質問です。企業A(先契約)が所定労働時間3時間(14時から17時)、当日の所定外労働2時間(17時から19時)。企業B(後契約)が所定労働時間3時間(7時から10時)、当日の所定外労働1時間(10時から11時)という順番で働いたとします。この日は企業Bを先に、企業Aを後に働いていますよね。
山田
契約は企業Aが先なのに、その日の勤務順は企業Bが先なんですね。
木村先生
この場合、企業Aの所定労働3時間+企業Bの所定労働3時間+企業Bの所定外労働1時間で7時間、そこに企業Aの所定外労働(17時から19時の2時間)のうち1時間を足すと8時間に達します。つまり、企業Aで行う1時間の所定外労働(18時から19時)が法定時間外労働になり、企業Aが割増賃金を支払うことになります。
山田
契約の先後じゃなくて、その日実際に働いた時間の並びで決まるってことか。じゃあ「後から契約した会社が必ず払う」わけじゃないんですね。
木村先生
そこが一番の誤解ポイントです。所定労働時間の通算は契約の先後順、所定外労働時間の通算は実際の発生順という2段構えなので、その日どちらを先に働いたかによって、割増賃金を負担する会社が変わり得ます。

山田
図で見るとイメージがつかめました。この通算の仕方、自社に所定外労働がない場合はどうなるんですか。
木村先生
自社に所定外労働がない場合は、所定外労働時間の通算そのものが不要です。自社に所定外労働があって副業先にない場合は、自社の所定外労働時間だけを通算すれば足ります。
割増賃金は誰が払う?計算の考え方
山田
割増賃金の率についても教えてください。普通の残業と同じ25パーセント以上でいいんですか。
木村先生
基本はそうです。各々の使用者は、自社の就業規則等で定められた率(2割5分以上)で割増賃金を支払います。ただし通算した結果、法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合、超えた時間のうち自ら労働させた時間については5割以上の率になります。
山田
60時間を境に割増率が上がるのは普通の残業と同じですね。
木村先生
はい、そこは通常の時間外労働の割増賃金と同じ考え方です。加えて、各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む)によって、時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件を守るよう、1か月単位で労働時間を通算管理する必要があります。
⚠️ 時間外労働の上限規制を超えないよう注意
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間・単月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間(休日労働含む)が限度とされています。通算した労働時間がこの上限を超えると、労働基準法に抵触した状態になります。
山田
毎日申告してもらわないと、この通算って管理できなくないですか。実務がすごく大変そうです。
木村先生
そこで登場するのが「管理モデル」です。労使双方の手続き負担を軽くする簡便な方法として、厚生労働省が用意しています。
管理モデル 実務負担を軽くする簡便な方法
山田
管理モデルって、さっきの原則的な通算とは別のやり方なんですか。
木村先生
別のやり方です。副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結した使用者(使用者A)と、時間的に後から労働契約を締結した使用者(使用者B)が、あらかじめ労働時間の上限を設定し合う方法です。
山田
上限をあらかじめ決めておくってことは、毎日お互いの実労働時間を確認しなくていいんですか。
木村先生
そのとおりです。使用者Aの事業場における法定外労働時間と、使用者Bの事業場における労働時間(所定労働時間+所定外労働時間)を合計した時間数が、単月100時間未満・複数月平均80時間以内となる範囲内で、それぞれの労働時間の上限を設定します。使用者Bはその範囲内で労働させる限り、使用者Aの実労働時間を把握する必要がなくなります。
手順
- 使用者Aの法定外労働時間の上限と、使用者Bの労働時間(所定+所定外)の上限の合計を、単月100時間未満・複数月平均80時間以内の範囲で決める
- 手順1の範囲内かつ、それぞれの事業場の36協定の範囲内で、各々の労働時間の上限を設定する
- 使用者Aが労働者を通じて使用者Bに管理モデルの導入を提案し、使用者Bが応じることで導入する
- 副業・兼業の開始後は、各々の使用者が設定した上限の範囲内で労働させる
- 使用者Aは自社の法定外労働時間の労働について、使用者Bは自社の労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払う
山田
上限さえ守っていれば、お互いの実労働時間を毎回聞かなくていいのは楽ですね。実際どれくらいの会社が使っているんですか。
木村先生
厚生労働省が実施した企業ヒアリングでは、11社中4社が管理モデルを導入していました。導入した企業はいずれも、副業先の労働時間の上限を1か月20時間から35時間程度とするよう、労働者を通じて副業先に求めていたそうです。
山田
なるほど、目安としては月20時間から35時間くらいなんですね。労働時間の話はここまでで、次は保険の話を聞きたいです。副業してると雇用保険ってどっちの会社に入るんですか。
雇用保険の適用先はどう決まる?
木村先生
雇用保険は、原則として1つの雇用関係でしか被保険者になれません。同時に複数の事業主に雇用されている場合、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となるというルールです。
山田
つまり、メインの収入源になっている方の会社1本ってことですね。
木村先生
そうです。そもそも雇用保険の適用要件は、1週間の所定労働時間が20時間以上、かつ継続31日以上の雇用見込みがあることです。副業先の労働時間がこの要件に届かなければ、そちらでは被保険者になりません。
山田
じゃあ、本業も副業もそれぞれ週20時間未満だったらどうなるんですか。
木村先生
原則としては、合算して適用要件を満たしても被保険者にはなれません。ただし、65歳以上の労働者に限って例外があります。
65歳以上のマルチジョブホルダー制度
山田
さっき出てきた例外、詳しく教えてください。
木村先生
2022年1月1日にスタートした「雇用保険マルチジョブホルダー制度」です。65歳以上の労働者が、複数の事業所のうち2つの事業所での勤務を合計して要件を満たす場合、本人からハローワークに申出を行うことで、申出日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になれます。
山田
事業主じゃなくて、本人が申し出るんですね。
木村先生
そうなんです。通常の雇用保険の資格取得・喪失手続きは事業主が行いますが、この制度は本人が手続きします。事業主に証明を依頼して、対象になる2社分の必要書類を揃えてハローワークに申し出る流れです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者 |
| 労働時間要件 | 1つの事業所につき週5時間以上20時間未満の事業所を2つ選び、合計して週20時間以上 |
| 雇用見込み要件 | 選んだ2つの事業所それぞれで31日以上の雇用見込み |
| 手続き | 本人からハローワークへ申出(電子申請は不可) |
| 適用開始日 | 申出を行った日から(遡っての適用は不可) |
山田
3社以上で働いている場合はどうなるんですか。
木村先生
3社以上で勤務している場合は、そのうち2社を本人が選んで申請します。一度マルチ高年齢被保険者になると、任意脱退はできませんし、要件を満たさなくなった場合を除いて加入する事業所を任意に切り替えることもできません。
山田
失業したときの給付はどうなるんですか。
木村先生
マルチ高年齢被保険者が失業した場合、一定の要件を満たせば高年齢求職者給付金が一時金で受給できます。給付額は、離職前6か月の賃金の合計を180で割った賃金日額のおよそ5割から8割となる基本手当日額の、30日分または50日分です。被保険者であった期間が1年未満なら30日分、1年以上なら50日分になります。
山田
2つの事業所のうち1つだけ辞めた場合はどうなるんですか。
木村先生
その場合でも受給できますが、離職していない事業所の賃金は給付額の計算に含めません。ただし、離職していないもう1つの事業所と新しい3つ目の事業所を合わせてマルチ高年齢被保険者の要件を満たしている場合は、被保険者期間が継続されるため受給できません。
木村先生
この制度はマルチジョブホルダー制度の詳しい加入手続きでも解説しています。副業・兼業と社会保険の関係でもう1つ押さえておきたいのが、二以上事業所勤務届による健康保険・厚生年金の手続きです。
労災保険はどう適用される?複数事業労働者の給付
山田
雇用保険の話はわかりました。次は労災保険、副業中にケガをしたらどうなるんですか。
木村先生
まず大前提として、事業主は労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働者を1人でも雇用していれば労災保険の加入手続きを行う必要があります。副業先も含めて、全ての事業所で労災保険の対象になるということです。
山田
それは安心ですね。でも給付金額の計算はどうなるんですか。
木村先生
ここが2020年9月1日の法改正で大きく変わったポイントです。改正前は、労働災害が発生した事業場の賃金額のみを基に給付基礎日額(保険給付の算定基礎となる日額)が計算されていました。副業先で仕事中にケガをしても、本業の賃金は反映されなかったんです。
山田
それだと副業してる人にとって不利じゃないですか。
木村先生
そのとおりで、それを是正したのが2020年9月1日施行の改正です。改正後は、複数事業労働者について、全ての就業先の賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定されるようになりました。ここでいう「複数事業労働者」とは、被災した時点で事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者のことです。
山田
「被災した時点」っていうのがポイントなんですね。
木村先生
はい。加えて、傷病の原因や要因となる事由が生じた時点で複数の事業場に勤務していた場合も「複数事業労働者に類する者」として対象になります。

山田
もう1つ、労災の「認定」自体も変わったんでしたっけ。
木村先生
そうです。改正前は1つの事業場だけの業務上の負荷(労働時間やストレスなど)を評価して労災認定するかどうかを判断していましたが、それだと脳・心臓疾患や精神障害のように複数の職場での負荷が積み重なって発症するケースを見逃してしまいます。
山田
それぞれの会社では認定基準に届かなくても、合わせると届くケースがあるってことですね。
木村先生
複数事業労働者について、1つの事業場のみの業務上の負荷を評価して業務災害に当たらない場合には、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるか判断するようになりました。この新しい支給事由を「複数業務要因災害」と呼び、複数事業労働者休業給付・複数事業労働者療養給付など新設の給付が支給されます。この改正は2020年9月1日以降に発生した傷病等が対象で、それより前に発生したものは従来どおりの制度で給付されます。
山田
事業場間の移動中にケガをした場合はどうなるんですか。
木村先生
自社と副業先の両方で雇用されている場合、一方の就業先から他方の就業先への移動中に起きた災害は、通勤災害として労災保険給付の対象になります。この移動は、移動の終点となる事業場で労務を提供するために行われる通勤と考えられていて、保険関係の処理は終点側の事業場で行われます。
給付基礎日額の計算例
山田
賃金を合算するって言われても、具体的にどう計算するのかイメージが湧きません。
木村先生
例を見てみましょう。A社とB社の2社で就業していて、A社では月給30万円、B社では月給15万円、直近3か月の暦日数が90日だったとします。
| 事業場 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| A社 | 30万円×3か月÷90日 | 10,000円 |
| B社 | 15万円×3か月÷90日 | 5,000円 |
| 合計(給付基礎日額) | 10,000円+5,000円 | 15,000円 |
山田
2社分を単純に足すんですね。B社だけだと平均賃金の最低保障額の方が高くなる場合はどうするんですか。
木村先生
良いところに気づきましたね。合算する場合は、各事業場の最低保障額は適用せずに計算した上で合算します。ただし、各事業場の平均賃金の最低保障額が合算後の額より高い場合は、給付基礎日額は各事業場の最低保障額のうち最も高い額になります。
山田
なるほど、単純合算が基本だけど、例外的なチェックもあるんですね。休業補償の給付率も教えてください。
木村先生
休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の80パーセント相当額(休業補償給付60パーセント+休業特別支給金20パーセント)が支給されます。給付基礎日額は事故等の日(算定事由発生日)以前3か月分の賃金を暦日数で割ったものです。
健康保険・厚生年金保険(社会保険)の適用は事業所ごと
山田
最後に社会保険、健康保険と厚生年金はどう扱われるんですか。
木村先生
雇用保険や労災保険と違って、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用要件は事業所ごとに判断します。複数の事業所で勤務していても、労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、いずれの事業所でも単独で要件を満たさなければ適用されません。
山田
逆に、2つの事業所どちらでも要件を満たしていたらどうなるんですか。
木村先生
その場合は、被保険者がいずれかの事業所の管轄の年金事務所・医療保険者を選択します。選択された年金事務所・医療保険者で各事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を算定し、保険料を決定します。各事業主は、被保険者に支払う報酬額で按分した保険料を、選択した年金事務所(健康保険の場合は選択した医療保険者)に納付します。
山田
この手続き、名前がついてるんですか。
木村先生
「二以上事業所勤務届」という届出です。手続きの流れは二以上事業所勤務届の解説記事にまとめてあるので、実際に2社で社会保険の対象になった場合はそちらも確認してください。
実務上のポイント・注意点
副業・兼業の労働時間通算で押さえておきたいこと
- 確認のタイミング: 副業・兼業を始める前に、副業先との労働契約締結日・所定労働時間・所定外労働の見込み時間数を確認しておく
- 通算の順番: 所定労働時間は契約の先後順、所定外労働時間は実際に発生した順で通算する
- 申告の頻度: 毎日でなくてよく、週末にまとめて申告する、所定外労働があった場合のみ申告するなど労基法遵守に支障がない範囲で運用できる
- 雇用保険の適用先: 原則は生計を維持する主たる賃金の事業所のみ、65歳以上はマルチジョブホルダー制度で例外あり
- 労災保険と社会保険の違い: 労災保険は全就業先の賃金を合算するが、社会保険(厚生年金・健康保険)は事業所ごとに適用要件を判断する
山田
逆にやってはいけないことってありますか。
木村先生
労働時間の申告を事業主が労働者任せにして、まったく確認しない状態は避けるべきです。特に管理モデルを使わない場合は、副業先の実労働時間を定期的に把握する仕組みを、副業・兼業の届出時にあらかじめ取り決めておくことが重要です。
⚠️ 安全配慮義務にも注意
労働契約法5条に基づき、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての使用者は安全配慮義務を負います。労働者の業務量・時間が全体として過重であることを把握しながら何の配慮もしないまま健康に支障が生じた場合、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。副業・兼業の届出時や開始後の報告を通じて、労働者の健康状態を継続的に把握することが求められます。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 労働基準法第38条第1項(労働時間の通算)、第37条第1項(割増賃金) |
| 労働時間通算の考え方 | 所定労働時間は契約締結の先後順、所定外労働時間は発生順に通算 |
| 割増賃金率 | 2割5分以上(通算した法定時間外労働が月60時間超の部分は5割以上) |
| 管理モデル導入日 | 2020年9月 (ガイドライン改定で導入) |
| 労災保険の複数事業労働者給付 | 2020年9月1日施行 |
| 雇用保険マルチジョブホルダー制度 | 2022年1月1日施行 |
| 対象規模 | 労働者を1人でも雇用していれば労災保険は適用対象(企業規模の下限なし) |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 相談窓口 | 労働基準監督署(労働時間管理・労災補償)、ハローワーク(雇用保険) |
| 公式情報 | 厚生労働省 副業・兼業 |
関連する社会保険手続き
山田
副業関係の他の手続きも整理しておきたいです。
木村先生
65歳以上の従業員が複数の事業所で働く場合は雇用保険マルチジョブホルダー制度、社会保険の適用要件を複数事業所で満たす場合は二以上事業所勤務届を確認してください。労災保険については、保険料率が労働災害の発生状況で変動する労災保険のメリット制や、実際にケガをしたときの労災保険の給付申請(療養給付・休業給付)も合わせて押さえておくと実務がスムーズです。
よくある質問
山田
最後にいくつか、よくありそうな質問をぶつけてもいいですか。
木村先生
どうぞ。
山田
副業先が業務委託(フリーランス扱い)の場合も労働時間は通算されるんですか。
木村先生
いいえ。労基法が適用されない働き方(フリーランス、独立、起業、業務委託、顧問など)は通算の対象外です。ただし、契約上は業務委託でも実態が労働契約と認められる場合は、労基法等の適用を受けます。
山田
管理モデルを導入した後、上限を変更したくなったらどうすればいいですか。
木村先生
使用者Aが労働時間の上限を変更する必要が生じた場合、あらかじめ労働者を通じて使用者Bに通知し、必要に応じて使用者Bも設定した上限を変更できます。円滑に変更できるよう、あらかじめ「変更があり得る」旨を留保しておくことが望ましいとされています。
山田
事業主を異にする3つ以上の会社で働いている場合はどうなりますか。
木村先生
労働者が事業主を異にする3以上の事業場で労働する場合も、同じ考え方で副業・兼業の確認、所定労働時間の通算、所定外労働時間の通算を行います。管理モデルの場合も、使用者A・使用者Bに加えて使用者C等の労働時間の上限をそれぞれ設定し、各々が割増賃金を支払うことで導入できます。
関連書類・お問い合わせ先
問い合わせ先
- 労働基準監督署: 副業・兼業の場合における労働時間管理、健康管理、労災補償について相談できます
- ハローワーク: 雇用保険マルチジョブホルダー制度の申出や、副業先の求人検索に利用できます
- 働き方改革推進支援センター: 労働時間管理や賃金制度の見直しについて、社会保険労務士等の専門家に相談できます
- 参考PDF: 副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説(厚生労働省)
山田
今日は労働時間の通算と、雇用保険・労災保険の適用先まで整理できました。ありがとうございました。
木村先生
副業・兼業は今後も広がっていく働き方です。自社の制度を整える際は、労働時間の通算ルールと保険の適用先をセットで確認しておくと、後からのトラブルを防げます。