ぼくは先月、部下から「育休中に賞与を払ったんですけど、社会保険料って引くんでしたっけ?」と聞かれて、思わず固まってしまった。毎月の給与にかかる保険料が育休中に免除されるのは知っていたけど、賞与には賞与だけの別ルールがあるなんて考えたこともなかったのだ。慌てて日本年金機構のサイトを調べてみたら、2022年10月の改正で賞与保険料の免除要件がガラッと変わっていたことがわかった。今日は木村先生に、このややこしいルールを一から整理してもらうことにした。
山田
先生、単刀直入に聞きます。育休中に賞与を払ったら、社会保険料って免除になるんですか?
木村先生
なりますよ。ただし月末だけ育休を取っていれば免除になる、という単純な話ではなくなったんです。2022年10月の改正で、条件がぐっと厳しくなりました。
山田
えっ、厳しくなった!? 前はゆるかったってことですか?
木村先生
そうなんです。改正前は、賞与を払った月の末日にほんの数日でも育休を取っていれば、その賞与にかかる保険料は事業主負担・本人負担ともに全額免除されていました。極端な話、月末の1日だけ育休を取って、残りは通常勤務という運用でも免除が成立してしまっていたんです。
木村先生
まさにそこが問題視されたポイントです。賞与支給月の末日だけ育休を取得して保険料負担を避ける、という運用が一部で見られたため、2022年10月の年金制度改正で賞与保険料の免除は「月末を含む連続1か月を超える育児休業等」を取得した場合に限るという形に見直されました。
山田
なるほど、1か月超えてないとダメになったんですね。ちなみに毎月の給与のほうの免除も変わったんですか?
木村先生
はい、同じタイミングで見直されています。ただし中身は別ルールなので、まずはそこを整理しましょう。
山田
そういえば2022年10月って、社会保険まわりでいろいろ制度が変わったタイミングですよね?
木村先生
よくご存じですね! 日本年金機構が公表している案内では、同じ2022年10月の改正パッケージの中に、短時間労働者への適用拡大(被保険者数101人以上の企業への拡大)や、士業の個人事務所の適用業種追加なども一緒に盛り込まれています。今日お話しする賞与保険料の免除要件見直しは、そのパッケージの中の1項目という位置づけです。総務担当としては、この時期の改正はまとめて押さえておくと理解が早いですよ。
月額保険料と賞与保険料、免除の基準はここが違う
木村先生
育休中の社会保険料免除には、実は2種類あります。毎月の給与(標準報酬月額)にかかる月額保険料の免除と、ボーナスにかかる賞与保険料の免除です。この2つ、判定基準がまったく違うので混同すると危険です。

山田
図を見ると、左と右で塗りつぶし方が違いますね。これはどういう意味ですか?
木村先生
月額保険料は、①育休開始日から終了日の翌日が属する月の前月まで免除、②それに加えて2022年10月からは同一月内で14日以上(休業中に就業予定日がある場合はその日を除く、土日等の休日は期間に含む)の育休を取得した場合も、その月の保険料が免除される、という2つの基準で判定します。
山田
14日ルールって初めて聞きました。じゃあ賞与のほうは?
木村先生
賞与保険料は、賞与を支払った月の末日を含んだ連続した1か月を超える育児休業等を取得した場合にだけ免除されます。1か月を超えるかどうかは暦日で判断するので、土日や祝日も日数に含めてカウントします。ここが月額保険料の「14日」とはまったく違う基準なんです。
山田
同じ「育休中の保険料免除」でも、月額は14日、賞与は1か月超って、ぜんぜん違う物差しなんですね。
木村先生
そうなんです。ここを混同して、月末だけ育休を取ったから賞与も免除されるはず、と誤解する総務担当の方が今でも少なくありません。賞与に関しては「1か月を超える」という、かなりハードルの高い連続休業が必須だと覚えておいてください。
施行日と改正内容の詳細
山田
この改正、いつから始まったルールなんでしたっけ?
木村先生
施行日は2022年(令和4年)10月1日です。育児・介護休業法の改正と足並みをそろえる形で、健康保険法等の一部を改正する法律にもとづいて見直されました。日本年金機構が事業主向けに出しているリーフレットにも、はっきりと「令和4年10月から」と明記されています。
| 項目 | 改正前 | 改正後(2022年10月1日〜) |
|---|
| 月額保険料の免除基準 | 月末時点で育休を取得していること | 月末時点の取得に加え、同一月内で14日以上の取得でも可 |
| 賞与保険料の免除基準 | 賞与支払月の末日に育休を取得していれば免除(日数要件なし) | 賞与支払月の末日を含む連続した1か月を超える育休取得が必要 |
| 日数の数え方(賞与) | 実質ほぼ問われず | 暦日で判断し土日等の休日も含む |
| 対象となる休業 | 育児休業等 | 育児休業等(産後パパ育休を含む) |
山田
表にするとわかりやすいです。賞与だけピンポイントで条件が重くなったんですね。
木村先生
おっしゃる通りです。月額保険料のほうはむしろ免除される月が増える方向の改正(14日ルールの追加)だったのに対して、賞与保険料のほうは免除されにくくなる方向の改正だった、という対照的な内容なんです。
山田
それは事業主にとっても従業員にとっても、賞与の保険料設計をちゃんと理解しておかないとまずいですね。額面が大きい賞与ほど、免除の有無で手取りが大きく変わりそうです。次は対象になる要件を詳しく教えてください。
対象になる育児休業等の要件
木村先生
賞与保険料の免除対象になるのは、3歳に満たない子を養育するための育児休業等です。育児休業本体に加えて、産後パパ育休(出生時育児休業)や、育児休業に準じる休業も含まれます。
賞与保険料の免除4要件
- 要件①: 賞与を支払った月の末日が、育休期間中に含まれていること
- 要件②: その育休が、末日を含めて暦日で連続1か月を超えていること
- 要件③: 就業予定日がある場合は、その日を除いた実際の休業日数で判定すること
- 要件④: 土日・祝日等の休日も、連続日数のカウントに含めること
山田
要件②の「連続1か月を超える」って、具体的にはどこからどこまで数えるんですか?
木村先生
賞与支払月の末日から起算して、その育休が始まった日までさかのぼり、暦日で数えます。たとえば10月31日を末日とする賞与を受け取った従業員が、9月20日から育休に入っていたとすると、9月20日から10月31日までは42日ですから、1か月(この場合は9月20日〜10月19日相当)を超えていることになり、免除対象です。
山田
逆に、育休が10月15日から10月31日までだったら?
木村先生
それだと17日間しかないので、1か月を超えていません。賞与保険料は免除されず、月額保険料のほうも14日以上は取得しているので月額のほうだけ免除、という結果になります。この差、実務ではかなり間違えやすいポイントです。
⚠️ 分割取得の落とし穴
育休を分割して取得している場合、直前の育休と今回の育休が就業日を挟まずに連続していると「1つの育児休業とみなす」扱いになります。たとえば12月31日と1月1日以降に分けて育休を取っていても、間に出勤日がなければ通算して1つの休業として1か月超の判定を行います。分割取得のケースは必ず個別に暦日を数え直してください。
具体例で計算してみる
山田
頭では理解したつもりなんですけど、実際に日付で計算してみないと自信が持てません! 具体的な例で教えてもらえますか?
木村先生
いいですよ。3つのパターンで確認してみましょう。
| パターン | 育休期間 | 賞与支払月の末日 | 連続日数 | 賞与保険料の免除 |
|---|
| A | 9月20日〜11月5日 | 10月31日 | 42日(1か月超) | 対象 |
| B | 10月15日〜10月31日 | 10月31日 | 17日(1か月以下) | 対象外 |
| C | 10月20日〜11月19日 | 10月31日 | 30日(ちょうど1か月) | 対象外 |
山田
え、パターンCって1か月あるのに対象外なんですか!? ちょっと待ってください、混乱してきました(笑。
木村先生
そこ、みなさん必ず引っかかるところです。「1か月を超える」なので、ちょうど1か月(30日や31日)では足りず、プラス1日以上が必要になります。10月20日開始で11月19日終了だと、ちょうど暦の1か月ぴったりなので「超えて」はいません。免除を受けるには、少なくとも11月20日以降まで育休が続いている必要があります。
山田
なるほど! ぎりぎりのラインだと本当に1日の差で結果が変わるんですね。
木村先生
はい。だからこそ、賞与計算の担当者は「だいたい1か月くらい育休を取っているから大丈夫だろう」という感覚での判断をせず、必ず暦日でカウントし直す習慣をつけてください。
1日単位の誤差が保険料額を左右する
賞与保険料の免除額は、賞与の金額によっては数万円から数十万円単位になることもあります。育休の終了日がぎりぎり1か月ラインをまたいでいるケースでは、終了日を1日勘違いしただけで免除の有無が逆転してしまいます。育休申出書に記載された開始日・終了日は、必ず原本かシステム記録で再確認してから賞与計算に反映してください。
対象外になるケース
山田
逆に、免除の対象にならないのはどんなケースですか?
木村先生
代表的なのは次の3パターンです。まず、賞与支払月の末日が育休期間に含まれていないケース。次に、末日は含まれているけれど連続した育休期間が1か月以下のケース。最後に、育休期間の途中に就業日(有給休暇の取得日を含む)があり、休業が2つに分断されて、それぞれの期間が1か月を超えていないケースです。
山田
3つ目のパターン、さっきの分割取得の話と関係してますね。
木村先生
そうです。出勤や有給休暇の取得によって育休が実質的に分断されると、分断後のそれぞれの期間で改めて「1か月を超えるか」を判定し直す必要があります。「通算すれば1か月を超えるから大丈夫」という考え方は通用しないので注意してください。
山田
つまり、賞与支給日の直前だけ育休に入っても免除は使えないし、育休の途中でちょこっと出社しても分断されちゃうってことですね。思ったよりずっと厳しいです!
木村先生
そうなんです。改正前のように「月末の数日だけ育休を取れば免除される」という発想のままだと、実務で大きく間違えることになります。賞与保険料の免除は、月額保険料よりもハードルが高い制度だと覚えておいてください。
山田
ここまでで、賞与保険料の免除がかなりシビアな条件だってことがよくわかりました。じゃあ実際に免除を受けるには、会社は何をすればいいんですか?
手続きの流れ
木村先生
賞与保険料の免除を受けるには、事業主が年金事務所(または健康保険組合)に対して所定の届出を行う必要があります。大きく分けると3つのステップです。

手順
- 育休の開始日・終了日を暦日で確認する: 従業員から提出された育児休業申出書等をもとに、育休の開始日と終了日、期間中の就業予定日の有無を確認します。
- 賞与支払月の末日を含む連続1か月を超えるかどうかを判定する: 暦日で日数を数え、土日等の休日も含めて1か月を超えているかをチェックします。超えていれば賞与保険料の免除対象です。
- 育児休業等取得者申出書を提出する: 月額保険料の免除と同じ申出書で、賞与にかかる保険料の免除も合わせて手続きできます。年金事務所または健康保険組合へ提出してください。
山田
申出書は月額と賞与で別々の書類じゃないんですね。
木村先生
はい、同じ様式の中に賞与分の記入欄が用意されています。ただし、賞与を支給するたびに要件を満たしているかを毎回確認する必要があるので、賞与支給のたびに育休期間をチェックする運用ルールを社内で決めておくことをおすすめします。
実務での確認ポイント
賞与保険料の免除判定は、月額保険料の判定とは別に毎回行う必要があります。給与計算ソフトによっては月額の免除設定だけを見て賞与も自動的に免除扱いにしてしまうケースがあるため、賞与計算のタイミングで「末日を含む連続1か月超」を手動でも確認する運用にしておくと安心です。
実務上の注意点
山田
総務担当として、他に気をつけたほうがいいことはありますか?
木村先生
いくつかあります。まず、1か月を超えるかどうかは「暦日」で判断する、という点です。営業日や勤務日ではなく、土日・祝日も含めたカレンダー上の日数で数えます。ここを勤務日ベースで数えて誤判定してしまう相談が実務では本当に多いんです。
山田
あ、それ絶対やりそうです(笑。あとは何かありますか?
木村先生
あとは、産後パパ育休(出生時育児休業)も対象に含まれるという点も忘れがちです。産後パパ育休は最大4週間という短い制度なので、賞与支払月の末日を含めて連続1か月を超えるケースは少ないかもしれませんが、他の育休と組み合わせて取得している場合は通算での判定が必要になることがあります。
⚠️ 給与免除と賞与免除を混同しない
「月額保険料が免除になっているから賞与も当然免除されるはず」という誤解は非常に多いです。月額は14日ルール、賞与は1か月超ルールとまったく別の基準で動いています。免除の可否は必ずそれぞれ独立して判定してください。
山田
先生、実務でありがちな勘違いパターンってほかにもありますか!? 社内に周知する前に全部つぶしておきたいんです。
木村先生
よくあるのは、複数の子を続けて育児休業したケースですね。第一子の育休が終わってすぐに第二子の育休に入った、いわゆる連続取得のパターンでは、就業日を挟んでいるかどうかで「1つの育休とみなすか」「別々に判定するか」が変わってきます。日数の数え方が少し複雑になるので、自己判断で処理せず、必ず年金事務所か顧問の社労士に個別確認したほうが安全です。
山田
マジですか、自己判断は危ないんですね! わかりました、迷ったら年金事務所に確認するようにします。
木村先生
それがいちばん確実です。賞与保険料の免除は金額のインパクトが大きいぶん、判定を誤ると従業員との間でトラブルになりかねません。少しでも判断に迷ったら、必ず公式窓口で確認する。これを社内ルールにしておくと安心ですよ!
山田
よくわかりました! じゃあ最後に、このルールの基本情報を一覧でまとめてもらえますか?
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|
| 制度名 | 賞与に係る社会保険料免除の要件見直し |
| 施行日 | 2022年(令和4年)10月1日 |
| 免除の基準 | 賞与支払月の末日を含む連続した1か月を超える育児休業等の取得 |
| 日数の数え方 | 暦日で判断(土日等の休日も期間に含む) |
| 対象となる休業 | 3歳に満たない子を養育するための育児休業等(産後パパ育休を含む) |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 日本年金機構(健康保険組合加入の場合は当該組合) |
| 必要な手続き | 育児休業等取得者申出書の提出(年金事務所・健康保険組合) |
| 公式情報 | 日本年金機構「令和4年10月からの…育児休業等期間中の社会保険料免除要件の見直し等について」 |
山田
これ、社内の育休対応マニュアルに貼っておきます! 賞与計算の担当者にも真っ先に共有して、判断に迷ったときすぐ見返せるようにしますね。
類似する社会保険手続きとの比較
木村先生
育休関連の社会保険手続きは他にもいくつかあるので、まとめて押さえておくと安心です。
山田
賞与のルールだけじゃなくて、周辺の制度もセットで理解しておいたほうがよさそうですね。
よくある質問
山田
最後に、よく聞かれそうな質問をいくつか確認させてください。まず、育休を分割で取得していても賞与保険料は免除されますか?
木村先生
分割取得でも、直前の育休との間に就業日(出勤や有給休暇の取得日)がなければ、2つの育休を1つの育休とみなして通算日数で判定します。逆に、間に就業日があると休業は分断され、それぞれの期間ごとに1か月超の判定をやり直す必要があります。
山田
なるほど。次に、賞与を複数回払っている会社の場合はどうなりますか?
木村先生
賞与を支払うたびに、その支払月の末日を基準として個別に判定します。ある回の賞与は免除対象でも、別の回の賞与は育休期間が短くて対象外、ということも十分あり得ます。毎回の賞与支給ごとに要件を確認するのが基本です。
山田
最後にもう1つ。産後パパ育休だけで1か月超の要件を満たすことはできますか?
木村先生
産後パパ育休は最長4週間(28日)という制度なので、単体で「1か月を超える」を満たすのは基本的に難しいです。ただし他の育児休業と続けて取得し、就業日を挟まずに通算した結果1か月を超えていれば、賞与保険料の免除対象になり得ます。
山田
なるほど、わかりました! もう1つだけいいですか。育児休業等取得者申出書を提出し忘れていた場合、あとから賞与保険料の免除を受けられますか?
木村先生
さかのぼって届け出ることで免除を受けられる場合があります。ただし提出が遅れるほど確認作業が煩雑になりますし、賞与計算のタイミングに間に合わなければ、いったん保険料を控除したうえで、あとから還付処理をすることになります。従業員に余計な手間をかけさせないためにも、賞与支給日の前に必ず育休期間をチェックしてから申出書を準備するのが安全です。
関連書類・参考リンク
木村先生
最後に、公式の参考資料もまとめておきますね。
山田
ありがとうございました! 今日でようやく、月額と賞与の免除ルールをちゃんと区別して説明できるようになった気がします。
木村先生
育休中の保険料免除は、担当者を悩ませる代表的なテーマの1つです。迷ったときは「暦日で1か月を超えているか」を必ず自分の手で数え直すのが、いちばん確実な確認方法ですよ。
山田
今日教えてもらったポイント、社内の育休対応フローに落とし込んで、賞与計算の担当者にもちゃんと共有しますね!
木村先生
それがいいと思います。月額保険料の免除と賞与保険料の免除、この2つを切り分けて考えられるようになれば、育休関連の社会保険手続きはかなり整理しやすくなりますよ。判断に迷う案件が出てきたら、そのつど日付を書き出して一緒に確認しましょう。困ったときはいつでも声をかけてください!