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在職老齢年金:51万円基準の支給停止計算と令和8年4月65万円改正の実務ポイント

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山田
ぼくは最近、60歳を過ぎた社員から「年金をもらいながら働き続けていいのか」「給料が上がったら年金が減るって本当か」という相談を受けた。正直なところ、在職老齢年金という制度があることは知っていたけど、具体的にどんな計算になるのかは全然わかっていなかった。木村先生に基礎から教えてもらおうと思う。

在職老齢年金ってそもそも何?

山田
先生、「在職老齢年金」って言葉をよく聞くんですけど、どんな制度ですか?
木村先生
在職老齢年金は、老齢厚生年金をもらいながら会社勤めを続けている場合に、給与と年金の合計が一定の基準を超えると、年金の一部または全額が支給停止される仕組みです。働きながらも年金が受け取れる反面、収入が多いと調整が入るという制度ですね。
山田
えっ、年金って働いていても減らされることがあるんですか。知らなかった。
木村先生
そうなんです。ただ、完全に止まるのではなく、超えた分の「半分」だけ停止される設計になっています。全部没収ではありませんよ。
山田
対象は誰ですか?パートさんにも関係しますか?
木村先生
70歳未満で厚生年金保険に加入している方が対象です。70歳以上でも厚生年金の適用事業所に勤めていると対象になりますが、70歳を過ぎると厚生年金の保険料は原則かかりません。パートタイムの方でも厚生年金に加入していれば対象になります。
山田
なるほど。で、65歳未満と65歳以上で仕組みが違うと聞いたんですが?
木村先生
以前は違いましたが、令和4年4月(2022年4月)の改正で支給停止の計算基準が65歳以上と同じ仕組みに統一されました。以前は60歳〜64歳の基準がとても厳しく、月28万円を超えると年金が減っていたんです。
山田
28万円って相当低い基準ですよね。改正でだいぶ楽になったんですね。
木村先生
そうです。改正前は「28万円と47万円」という2段階の計算が必要でしたが、今は基準額(支給停止調整額)を超えた分の半分だけ停止という、シンプルな計算に一本化されています。

在職老齢年金の仕組み(65歳未満・65歳以上の基準)

現在の支給停止基準額と計算方法

山田
現在の基準額は具体的にいくらなんですか?
木村先生
現行(令和4年4月〜令和8年3月)の支給停止調整額は月51万円です。基本月額(年金の月額)と総報酬月額相当額(給与相当の月額)の合計が51万円を超えると、超えた分の半分が停止されます。
山田
月51万円か……。それって結構余裕のある水準ですよね?
木村先生
ざっくり言うと、年収でいえば600万円超えると調整が始まるイメージです。中堅企業の部長クラス以上が対象になるケースが多いですね。ただ賞与もカウントされるので、賞与が多い年は合計額が膨らみやすい点に注意が必要です。
山田
計算式はどうなりますか?
木村先生
計算式はこうなります。
項目内容
基本月額加給年金額を除いた老齢厚生年金の月額
総報酬月額相当額その月の標準報酬月額 + 直近1年間の標準賞与額÷12
支給停止調整額(令和4年4月〜令和8年3月)月51万円
支給停止の条件基本月額+総報酬月額相当額 > 51万円
支給停止額(基本月額+総報酬月額相当額 − 51万円)÷ 2
実際の受取年金額基本月額 − 支給停止額
山田
これは……賞与の計算がちょっとわかりにくいですね。
木村先生
そうですね。賞与は「過去1年間の合計÷12」で月割り換算されます。つまり賞与を多く払った月だけ影響するのではなく、1年間通じて影響が続くんです。
山田
具体例で教えてもらえますか?
木村先生
例えば、基本月額が15万円、標準報酬月額が35万円、年間賞与が120万円(月割り10万円)という方なら、総報酬月額相当額は35万円+10万円=45万円。合計は15万円+45万円=60万円。51万円を9万円超えているので、支給停止額は9万円÷2=4.5万円。実際の受取年金は15万円−4.5万円=10.5万円になります。
山田
なるほど、なるほど。全額止まるわけじゃないんですね。
木村先生
そうです。ただ、基本月額が小さくて合計額が大きいケースだと、全額停止になることもあります。例えば基本月額3万円で合計が55万円なら、停止額は(55−51)÷2=2万円。3万円−2万円で1万円の受取になります。
支給停止額の計算ポイント
  • 基本月額: 加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
  • 総報酬月額相当額: 標準報酬月額+(直近1年の標準賞与額÷12)
  • 支給停止調整額(令和4年4月〜令和8年3月): 月51万円
  • 計算式: (基本月額+総報酬月額相当額−51万円)÷2 が停止される
  • 計算結果がマイナスの場合は停止なし(全額支給)

在職老齢年金 支給停止額の計算フロー

令和8年4月からの制度改正

山田
令和8年4月に改正があると聞きましたが、どんな内容ですか?
木村先生
令和7年(2025年)に成立した「令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)」に基づいて、令和8年4月(2026年4月)から支給停止調整額が月51万円から月65万円に引き上げられます。これは実質的に「年金が減らされる人が少なくなる」改正です。
山田
令和8年4月から65万円になるんですか!それはかなり大きな変更ですよね。
木村先生
そうです。基準が14万円上がるわけですから、現在停止されている方の多くが全額受給に切り替わる可能性があります。「もうすぐ65歳になる」という方はこの改正の影響を特に確認しておくといいですね。
山田
令和8年4月以降の計算式はどうなりますか?
木村先生
基準が65万円に変わるだけで、計算の考え方は同じです。
比較項目令和4年4月〜令和8年3月令和8年4月以降
支給停止調整額月51万円月65万円
計算式(合計−51万円)÷2(合計−65万円)÷2
影響を受ける収入水準年収換算で概ね600万円超年収換算で概ね780万円超
山田
令和8年4月以降はだいぶ緩和されるんですね。今現在停止されている方も見直しになるんですか?
木村先生
自動的に見直されます。毎年8月が「在職定時改定」のタイミングになっていて、前年9月から当年8月の1年分の保険料が計算に反映されます。令和8年4月以降は、新しい65万円基準で年金額が自動的に再計算されますよ。
⚠️ 支給停止調整額の数字には要注意
  • 支給停止調整額は毎年度、賃金変動に応じて改定される仕組みになっています
  • 本記事執筆時点(2026年6月)では令和4年4月〜令和8年3月の基準は51万円が正式な数字です
  • ネット上に古い数字(28万円など)が残っているケースがあります
  • 最新情報は必ず日本年金機構の公式サイトで確認してください

在職定時改定(年金の毎年増額)との関係

山田
在職定時改定っていう制度もありますよね?これは在職老齢年金とどう関係するんですか?
木村先生
在職定時改定は、65歳以上で働きながら厚生年金に加入している方について、毎年8月1日に年金額を増額改定する制度です。令和4年4月から導入されました。以前は退職して資格を失ったタイミングでしか増額されなかったんですが、今は毎年自動的に増えます。
山田
それはいい話ですね。働けば働くほど年金が増えるってことですか。
木村先生
そうです。ただ、増えた年金額に対して在職老齢年金の調整が入るので、定時改定で年金が増えても支給停止額も増えるというケースがあります。「年金が増えたのに手取りが変わらない」と混乱している声があるのはこのためです。
山田
えっ、それは複雑ですね。
木村先生
具体的には、定時改定で基本月額が1万円増えたとします。でも総報酬月額相当額が変わらなければ、合計も1万円増えます。停止額の計算も(合計−51万円)÷2ですから、停止額が5,000円増えて、実際の手取りは差し引き5,000円増えるだけ、ということになります。
山田
なるほど、増えた分の半分が実際の増額分になるわけか。
木村先生
その通りです。それでも何もしないよりは増えるので、働き続けることにはメリットがあります。支給停止中に積み上げた保険料も、退職後に年金額に反映されますから。
在職定時改定との関係まとめ
  • 在職定時改定: 65歳以上で在職中の場合、毎年8月1日に年金額が自動増額
  • 在職老齢年金との関係: 増額された年金額に対しても支給停止の調整が入る
  • 手取りへの影響: 定時改定で増えた分の半分程度が実際の手取り増加分
  • 退職後のメリット: 在職中に積み上げた厚生年金保険料は退職後の年金額に加算される

事業主が知っておくべき実務ポイント

山田
事業主として何か対応することはありますか?
木村先生
事業主が直接「在職老齢年金の計算」をする必要はありません。支給停止の計算は日本年金機構が行います。ただ、総報酬月額相当額の計算に使う標準報酬月額と標準賞与額は、事業主が正確に届け出ることが前提になっています。
山田
算定基礎届や月額変更届の話ですね。
木村先生
そうです。算定基礎届の提出漏れや月額変更届の遅延があると、総報酬月額相当額の計算が狂って、従業員の年金支給停止額に影響します。事業主として正確な届出が重要です。
山田
従業員が60歳で再雇用になったときはどうですか?給与が下がるケースが多いですよね。
木村先生
定年再雇用(同日得喪)では、退職して再雇用された日に新しい標準報酬月額で再加入します。給与が大幅に下がる場合は総報酬月額相当額も下がりますから、在職老齢年金の停止額も少なくなるか、停止なしになることがあります。
山田
70歳になったらどうなりますか?
木村先生
70歳到達時に厚生年金の被保険者資格を失います。資格喪失後は原則として厚生年金保険料がかかりませんが、70歳以上でも適用事業所に勤めている場合は在職老齢年金の調整対象になります。計算式は65歳以上と同じです。
⚠️ 70歳以上の在職老齢年金に注意
  • 70歳以上で厚生年金の適用事業所に勤める場合は「70歳以上被用者」として在職老齢年金の調整対象になる
  • 厚生年金保険料は原則不要だが、在職老齢年金の支給停止は継続
  • 70歳到達時の手続きとして資格喪失届の提出が必要

手続きの流れ

山田
在職老齢年金について、従業員から年金が停止されたと言われたらどうすればいいですか?
木村先生
支給停止の計算は年金機構が行うので、原則として事業主が直接手続きをすることはありません。ただ、関連する届出をしっかりやっておくことが大切です。
手順
  1. 社会保険の加入手続き(採用時):資格取得届を5日以内に提出する。標準報酬月額が在職老齢年金の計算に使われるので正確に記入する
  2. 算定基礎届(毎年7月):標準報酬月額の年次確認。報酬と月額が乖離していると年金計算に影響する
  3. 月額変更届(昇給・降給時):固定的賃金の変動で2等級以上変わったら届出が必要。在職老齢年金の停止額にも影響する
  4. 賞与支払届(賞与支払後5日以内):標準賞与額の届出。総報酬月額相当額の計算に12分の1として反映される
  5. 70歳到達届(70歳誕生月に):厚生年金資格喪失の手続きが必要。年金機構から確認通知が届く
山田
これ全部が年金計算につながっているんですね。
木村先生
そうです。届出の精度が従業員の受取年金額に直接影響すると思っておいてください。「うちは関係ない」ではなく、毎月の届出が年金に影響していると意識することが大切です。

よくある疑問

山田
在職老齢年金って、退職したら全額もらえるようになるんですか?
木村先生
そうです。退職して厚生年金の資格を喪失した月の翌月分から、停止されていた年金が再開されます。さらに在職中に積み上げた厚生年金保険料が年金額に加算されるので、退職後は受取額が増えることが多いです。
山田
ほんとに?それはモチベーション上がりますね。
木村先生
ただし、在職老齢年金で停止されていた分を「後でまとめてもらえる」わけではありません。停止された分は消えてしまいます。これは誤解しやすいポイントです。
山田
えっ、停止分は戻ってこないんですか?それはちょっとショックですね。
木村先生
そうなんです。だからこそ、繰り下げ受給が一つの選択肢として浮上するわけです。在職中は年金を繰り下げておき、退職後に増額された年金を受け取るという考え方です。
山田
在職老齢年金の停止と繰り下げって組み合わせられるんですか?
木村先生
注意が必要で、在職老齢年金で全額支給停止になっている場合は、その期間は繰り下げと同等の扱いになります。ただし一部停止の場合は繰り下げとして扱われません。この判断は年金事務所に確認してもらうのが確実です。
山田
国民年金(老齢基礎年金)は在職老齢年金の影響を受けないですよね?
木村先生
そうです。在職老齢年金の対象はあくまで老齢厚生年金(報酬比例部分)のみです。老齢基礎年金は停止されません。働いていても基礎年金は全額受け取れます。
山田
よかった。それは安心ですね。
木村先生
まとめると、在職老齢年金で注意すべきは「給与と年金の合計が51万円を超えたら半分が止まる」「賞与は12分の1で月割り計算」「令和8年4月から65万円基準になる」の3点です。ぜひ従業員への情報提供に活かしてください。

年金額を増やすための選択肢

山田
支給停止を避けるために、給料を下げるという選択肢はありますか?
木村先生
理論上はありますが、それが得策かどうかはケースによります。支給停止額は超えた分の半分ですから、給与を1万円下げても年金が増えるのは5,000円だけです。実際の手取りは給与を下げた分のほうが大きく減るケースがほとんどです。
山田
そうですよね。では年金を繰り下げたほうがいいということになりますか?
木村先生
繰り下げには2つのパターンがあります。1つは「年金受給を開始していない状態で繰り下げる」、もう1つは「在職老齢年金で全額停止になっている場合は自動的に繰り下げ扱いになる」です。
山田
違いはどこにあるんですか?
木村先生
意図的に繰り下げた場合は、65歳から1ヶ月繰り下げるごとに年金額が0.7%増額されます。最大75歳まで繰り下げると84%増になります。一方、在職老齢年金で全額停止の場合も繰り下げと同等の扱いになりますが、この場合は停止が解除されてから増額が反映されます。
山田
繰り下げる期間が長いほど増える、ということですね。
木村先生
そうです。ただ、繰り下げのリスクも考える必要があります。繰り下げ期間中に亡くなると受給できないまま終わってしまいます。損益分岐点は繰り下げ後12年程度と言われているので、健康状態や資産状況と合わせて判断することが大切です。
山田
税金への影響はどうですか?
木村先生
年金は所得税・住民税の課税対象です。在職老齢年金で年金が一部停止されると、その分の課税所得が減ります。逆に繰り下げで年金額が増えると税負担も増えることがあります。高齢になってから年金収入が大きいと、健康保険料(後期高齢者医療制度)にも影響するので、医療費や介護費用との兼ね合いも考慮が必要です。
山田
受給開始のタイミングって、どこで相談すればいいですか?
木村先生
日本年金機構の「ねんきんネット」では在職老齢年金のシミュレーションが試算できます。また、年金事務所の窓口では個別相談も無料で受け付けています。複雑なケースは社会保険労務士に相談するのもよいでしょう。
年金受給開始のタイミング選択肢
  • 65歳から受給(繰り下げなし): 在職老齢年金の調整を受けながら受給。停止された分は戻らない
  • 66歳以降に繰り下げ受給: 1ヶ月あたり0.7%増額。75歳まで繰り下げ可能(最大84%増)
  • 全額停止中は繰り下げ相当: 在職老齢年金で全額停止の場合、その期間は繰り下げと同様の扱い
  • 損益分岐点: 繰り下げ後、おおよそ12年程度で元が取れる計算になる

制度改正の背景と今後の方向性

山田
そもそも在職老齢年金って、なんでこんな制度があるんですか?
木村先生
もともとは「高収入の人に年金を全額払う必要はない」という考え方から生まれた制度です。ただ、少子高齢化の中で高齢者の就労を促進したいという政策の流れから、「働くと年金が減る」制度は見直すべきという議論が続いてきました。
山田
だから基準額が引き上げられてきたんですね。
木村先生
そうです。かつては65歳未満の基準が月28万円と非常に低く、ちょっと働くだけで年金が止まっていました。令和4年4月の改正で47万円(65歳以上と同一)に統一され、さらに令和8年4月から65万円に引き上げられます。
山田
将来的に廃止になる可能性はありますか?
木村先生
廃止の議論もありますが、財政上の観点から完全廃止は難しいという意見もあります。少なくとも当面は在職老齢年金制度は継続しつつ、基準額の緩和・引き上げで実質的な負担を減らす方向が続くとみられています。
山田
従業員に「在職老齢年金がどう変わるか」をどうやって伝えればいいですか?
木村先生
一番シンプルな伝え方は、「令和8年4月(2026年4月)から基準額が65万円になるので、それ以下の収入なら年金は全額もらえる」という点です。現在停止されている方には令和8年4月以降に年金が復活または増える可能性があると伝えると、モチベーション維持につながりますよ。

制度概要まとめ

項目内容
制度名在職老齢年金
対象老齢厚生年金の受給権者で厚生年金保険に加入中の方(70歳未満)および70歳以上被用者
管轄省庁厚生労働省
実施機関日本年金機構
支給停止調整額(現行)月51万円(令和4年4月〜令和8年3月)
支給停止調整額(改正後)月65万円(令和8年4月以降)
計算式(基本月額+総報酬月額相当額−支給停止調整額)÷2
根拠法令厚生年金保険法第46条(令和7年年金制度改正法により改正)
公式情報日本年金機構 在職老齢年金の計算方法

関連制度

関連制度概要参照ページ
定年再雇用・同日得喪60歳定年後の再雇用で標準報酬月額が下がる手続き詳細
70歳到達時の手続き厚生年金資格喪失届・在職老齢年金との関係詳細
算定基礎届毎年7月の標準報酬月額確認手続き詳細
月額変更届(随時改定)昇給・降給後の標準報酬月額改定詳細
山田
在職老齢年金って、知らないと損するケースが多いんですね。
木村先生
本当にそうです。特に令和4年4月の改正で65歳未満の基準が引き上げられたことを知らず、「どうせ年金は減る」と思って早く辞めてしまった方がいたという話も聞きます。制度を正しく理解して、従業員が働き続けることへの不安を解消するのが、事業主としての大事なサポートです。
山田
ありがとうございました!うちの会社でも60歳以上の社員に早めに伝えようと思います。
木村先生
ぜじ。定年再雇用の手続きと合わせて説明すると、従業員にとって一番わかりやすい情報提供になりますよ。

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