入社・退社
70歳到達時の社会保険手続き:厚生年金資格喪失と在職老齢年金
厚生労働省公式案内 →
70歳になると厚生年金の資格が自動的に消える
山田
木村先生、うちの社員が来月70歳になるんですが、何か手続きが必要ですか?
木村先生
はい、70歳になると厚生年金保険の被保険者資格が自動的に喪失します。在職中であっても例外はありません。これは健康保険とはちがうところで、健康保険は70歳になっても引き続き加入し続けます。
山田
えっ、自動的にですか。何も出さなくていいんですか?
木村先生
実は、2019年4月(平成31年4月)から手続きが変わりました。同じ事業所に継続勤務で、かつ給与(標準報酬月額)が変わらない場合は届出が省略できます。日本年金機構が自動的に資格喪失処理と70歳以上被用者該当処理を行ってくれます。
山田
じゃあ、何もしなくていいケースもあるんですね。
木村先生
ただし、70歳到達日前後で給与の金額が変わる場合は届出が必要です。5日以内に「厚生年金保険被保険者資格喪失届/70歳以上被用者該当届」を提出しなければいけません。
山田
5日以内って短い!いつが起算点ですか?
木村先生
70歳の誕生日の前日が資格喪失日です。法律上「誕生日の前日」に資格を喪失するので、たとえば10月15日が誕生日の方なら10月14日が喪失日で、そこから5日以内という計算になります。

届出省略と届出必須の分かれ目
山田
「給与が変わらない場合は省略可」っていうのは、具体的にどう判断するんですか?
木村先生
70歳到達日時点の標準報酬月額相当額が、70歳到達日の前日の標準報酬月額と同額かどうかで判断します。ざっくり言うと、「70歳前と70歳後で同じ給与で同じ職場」なら自動処理されると覚えておいてください。
山田
でも、定年再雇用で給与が変わっている場合は?
木村先生
再雇用で給与が下がるケースは多いので、そういう場合は届出が必要です。70歳到達時に処遇が変わる場合、5日以内を逃すと行政指導の対象になることもあります。
⚠️ 届出が必要なパターン(5日以内)
- 70歳到達時に標準報酬月額が変わる場合
- 部門異動や職種変更などで報酬が変動する場合
- 雇用形態が変わる場合(正社員からパートタイムへの切り替えなど)
山田
「70歳以上被用者該当届」って、70歳以上被用者になることの届出ですか?
木村先生
そうです。70歳以上で適用事業所に使用され続ける場合に、「70歳以上被用者」として登録されます。この登録があることで、在職老齢年金の支給停止計算に使うデータが年金機構に伝わります。登録されていないと、年金の計算に影響が出ることがあります。
| 届出の要否 | 条件 | 手続き |
|---|---|---|
| 届出省略(自動処理) | 同一事業所継続勤務 かつ 標準報酬月額変更なし | 不要(機構が自動処理) |
| 届出必須(5日以内) | 標準報酬月額が変わる場合 | 資格喪失届・70歳以上被用者該当届を提出 |
| 引き続き勤務なし | 70歳到達と同時に退職 | 通常の資格喪失届のみ |
山田
届出省略の場合、機構が自動処理してくれたかどうかはどうやって確認するんですか?
木村先生
年金機構から「70歳到達者一覧」の通知書類が事業所に届きます。その書類で標準報酬月額相当額が正しく記載されているか確認してください。もし誤りがあれば、その後で70歳到達届を提出して訂正できます。
資格喪失後も「70歳以上被用者」として継続勤務
山田
70歳で厚生年金の資格が消えた後も働き続ける場合、どういう扱いになるんですか?
木村先生
70歳を過ぎても適用事業所で働く方は、「70歳以上被用者」という区分に入ります。厚生年金保険の被保険者ではないので、保険料の負担はなくなります。でも、収入に応じて在職老齢年金の支給額に影響が出るので、完全に無関係というわけではありません。
山田
保険料はなくなるんですね。それは給与計算が変わるってことですか?
木村先生
厚生年金保険料は控除しなくなります。ただし、健康保険料は引き続き控除が必要です。あと、75歳になると健康保険も後期高齢者医療制度に移行しますので、75歳が次のターニングポイントです。
| 年齢 | 厚生年金保険 | 健康保険 |
|---|---|---|
| 〜69歳 | 被保険者(保険料あり) | 被保険者(保険料あり) |
| 70〜74歳 | 70歳以上被用者(保険料なし) | 被保険者(保険料あり) |
| 75歳〜 | 70歳以上被用者(保険料なし) | 後期高齢者医療制度(資格喪失) |
山田
70歳になったら保険料の控除ルールが変わるんですね。給与計算ソフトも設定変更が必要だな。
木村先生
そうですね。誕生日の前日から保険料控除を停止するのを忘れないようにしてください。翌月の給与計算が変わりますから、担当者への周知も早めにしておくといいです。
70歳到達後の給与計算チェックポイント
- 厚生年金保険料の控除を停止する(誕生日の前日から)
- 健康保険料は引き続き控除を継続する
- 70歳以上被用者として登録されているか年金機構の記録を確認する
- 次の区切りは75歳(後期高齢者医療への移行)
在職老齢年金との関係:70歳以上でも支給停止がある
山田
70歳以上になって年金をもらいながら働く場合、年金が減らされるって聞いたんですが?
木村先生
それが在職老齢年金の仕組みです。収入と年金の合計が一定額を超えると、年金の一部が支給停止になります。70歳以上の場合も同じルールが適用されます。
山田
基準額はいくらですか?
木村先生
令和8年4月(2026年4月)から基準額が月65万円に引き上げられました。令和7年年金制度改正による変更で、それ以前は月51万円だったのが大幅に緩和されています。基本月額(老齢厚生年金の報酬比例部分の月額)と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えた場合に、超えた分の2分の1が年金から支給停止されます。
山田
65万円ってかなり高い水準ですよね。ほとんどの人は止まらないのでは?
木村先生
多くの方は全額もらえるようになりました。ただし、高い報酬をもらいながら高い年金も受け取っている方は影響が残ります。計算式を見ておきましょう。
支給停止月額 =(基本月額 + 総報酬月額相当額 - 65万円)÷ 2
毎月の年金受給額 = 基本月額 - 支給停止月額
山田
総報酬月額相当額って何ですか?
木村先生
その月の標準報酬月額相当額 + 過去1年間の標準賞与額の合計 ÷ 12 で計算します。70歳以上の場合は「標準報酬月額相当額」「標準賞与額に相当する額」という言い方になります。被保険者ではないので「相当額」という表現が使われています。
山田
70歳以上は被保険者じゃないのに、なぜ年金が止まるんですか?
木村先生
法律上、適用事業所に使用されている70歳以上の方は在職老齢年金の対象とされています。被保険者かどうかに関わらず、勤務実態があれば支給停止が適用されます。これが70歳以上被用者の届出が重要な理由でもあります。届出がないと機構が収入状況を把握できません。

高齢任意加入制度:年金受給資格が足りない場合
山田
70歳を過ぎてもまだ年金の受給資格を満たしていない人って、どうなるんですか?
木村先生
そういった方のために高齢任意加入制度があります。70歳以上でも受給資格(原則10年以上の加入期間)を満たしていない場合、本人が希望すれば厚生年金保険への任意加入が認められます。
山田
えっ、70歳を過ぎても加入できるんですか?
木村先生
できます。ただし条件があって、老齢年金の受給資格を満たすまでの間だけです。受給資格を取得した時点で資格を失います。なお、国民年金の任意加入は60歳未満が基本で、特例として65歳未満まで可能ですが、高齢任意加入はそれとは別の制度です。
山田
申請はどうするんですか?
木村先生
適用事業所で働いている場合は「高齢任意加入被保険者資格取得申出書」を管轄の年金事務所に提出します。非適用事業所の場合は「申請書」になり、事業主の同意と厚生労働大臣の認可が必要です。
| 勤務先の種類 | 書類 | 事業主同意 | 保険料負担 |
|---|---|---|---|
| 適用事業所(事業主同意あり) | 資格取得申出書 | 必要 | 折半(事業主が納付義務者) |
| 適用事業所(事業主同意なし) | 資格取得申出書 | 不要 | 全額本人負担 |
| 非適用事業所 | 資格取得申請書 | 必要 | 折半(事業主が納付義務者) |
山田
保険料を全額自分で払うケースもあるんですね。
木村先生
そうです。事業主が同意しない場合、従業員が全額負担することになります。通常の折半と比べると負担が大きいので、加入を検討する場合は事業主との話し合いが先です。
⚠️ 高齢任意加入は受給資格を得るための制度
- 老齢年金の受給資格がある方は対象外
- 受給資格(原則10年)を満たした時点で自動的に資格を失う
- 申請先は管轄の年金事務所(本人が直接申請)
- 70歳以上75歳未満が対象
実務手順:70歳到達が近づいたらやること
山田
じゃあ実際に70歳が近い社員がいたら、総務は何をすればいいですか?流れを教えてください。
木村先生
大まかな流れはこうです。
手順
-
誕生日の確認と事前チェック 誕生日の少なくとも1ヶ月前に確認。70歳到達日の前後で給与(標準報酬月額)が変わるかどうかを確認する。
-
届出要否の判断 同一事業所継続勤務かつ標準報酬月額変更なし → 届出省略(機構が自動処理)。それ以外 → 5日以内に届出が必要。
-
届出が必要な場合:書類を準備して提出 「厚生年金保険被保険者資格喪失届/70歳以上被用者該当届」を作成。70歳到達日から5日以内に管轄の事務センターまたは年金事務所に提出。
-
年金機構からの通知書確認 自動処理の場合も、機構から届く通知書で標準報酬月額相当額に誤りがないか確認する。誤りがあれば届出を提出して訂正。
-
給与計算の設定変更 誕生日の前日以降、厚生年金保険料の控除を停止。健康保険料は継続。
-
在職老齢年金への影響を本人に説明 年金の支給状況や収入との合算額について、本人に周知する(必要に応じて社労士や年金機構に相談を促す)。
山田
ステップ4で「誤りがあれば届出で訂正」っていうのは、省略した場合でも後から届出を出せるんですね。
木村先生
そうです。自動処理の結果が正しければ何もしなくていいですが、誤りがあれば訂正の届出を出せます。通知書はかならず確認するようにしてください。
70歳到達手続きのポイントまとめ
- 70歳到達日の前日が資格喪失日(誕生日の前日)
- 届出省略:同一事業所継続かつ標準報酬月額変更なし
- 届出必須:標準報酬月額が変わる場合、期限は5日以内
- 健康保険は継続(75歳まで)、厚生年金保険料の控除は停止
- 在職老齢年金:令和8年4月から基準額65万円に緩和(月額)
よくある質問
山田
最後に、よくある疑問をいくつか確認していいですか。
木村先生
どうぞ。
山田
「届出省略の場合、機構が誤った処理をしたらどうなりますか?」
木村先生
通知書で誤りが判明した場合は、70歳到達届を提出して訂正できます。放置すると在職老齢年金の計算に狂いが出ることがあるので、通知書が届いたら必ず内容を確認するクセをつけてください。
山田
「70歳で退職するとき、在職老齢年金はどうなりますか?」
木村先生
退職すると「70歳以上被用者」でなくなるので、在職老齢年金の支給停止が解除されます。翌月から全額支給になります。ただし年金を受け取っていない場合(繰下げ受給中)は別の話ですし、在職老齢年金の詳しい計算も参照してみてください。
山田
「高齢任意加入で加入しながら年金を受け取れますか?」
木村先生
高齢任意加入は受給資格を満たすための制度なので、受給資格取得後は自動的に脱退します。加入中は在職老齢年金の支給停止が適用されることがあります。
山田
「65歳到達時の手続きと70歳到達時の違いは何ですか?」
木村先生
65歳では介護保険第1号被保険者への切り替えや老齢年金の受給開始手続きがありますが、厚生年金保険の被保険者資格は継続します。70歳で初めて厚生年金の資格が喪失します。65歳到達時の手続きはこちらで詳しく解説しています。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 資格喪失日 | 70歳の誕生日の前日 |
| 届出期限(変更あり) | 70歳到達日から5日以内 |
| 届出省略の条件 | 同一事業所継続 かつ 標準報酬月額変更なし |
| 提出書類 | 厚生年金保険被保険者資格喪失届/70歳以上被用者該当届 |
| 提出先 | 管轄の事務センターまたは年金事務所 |
| 在職老齢年金基準額 | 月65万円(令和8年4月から) |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 日本年金機構 |
| 公式情報 | 日本年金機構 従業員が70歳になったとき |
山田
これでだいぶ整理できました。70歳の手続きって、届出省略があって最初はわかりにくかったけど、「給与が変わるかどうか」が分岐点になるんですね。
木村先生
そうです。同一事業所継続で給与も変わらなければ機構が自動処理してくれます。でも通知書の確認は必ずやってください。自動処理だからと放置して、在職老齢年金の計算が狂ったままになるケースもあります。
山田
定年後の再雇用で給与が変わっている場合は5日以内に届出、ということも覚えておきます。定年再雇用のタイミングでやることも合わせて確認しておかないとですね。
木村先生
そのとおりです。高年齢雇用継続給付も60歳以降の処遇変更に関わってきますから、60代後半〜70歳前後は複数の制度が絡み合います。全体像を整理して対応してください。