給付・手当
2025年4月改正|高年齢雇用継続給付金:60歳以降の賃金低下で最大10%支給
高年齢雇用継続給付金とは
山田
木村先生、うちの会社で今年60歳になった田中さんが、「賃金が下がったから給付金をもらえるって聞いた」と言っていたんですよ。高年齢雇用継続給付金ってどんな制度なんですか?
木村先生
高年齢雇用継続給付金は、60歳以降も雇用保険に加入しながら働いている方が、賃金が60歳時点の75%未満に下がってしまった場合に支給される給付金です。定年後に同じ会社で働き続けているケースや、別の会社に再就職したケースでも使える制度ですよ。
山田
賃金が75%未満か……定年後に給料が下がることって、よくあるんですか?
木村先生
多いですよ。定年再雇用で嘱託やパートとして働き直す場合、役職がなくなったり、正社員から有期雇用に変わったりして、給料が半分近くになるケースも珍しくありません。そういう方々の収入を補うために設けられた制度が、この給付金です。
山田
なるほど、生活の安定を守るための制度なんですね。2種類あるって聞いたんですが?
木村先生
そうなんです。「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があります。失業給付(基本手当)を受け取らずに継続雇用された方が基本給付金、失業給付を受けてから再就職した方が再就職給付金の対象です。
| 種類 | 対象者 | 支給期間 |
|---|---|---|
| 高年齢雇用継続基本給付金 | 失業給付を受けずに60歳以降も継続雇用された方 | 60歳〜65歳(最大5年間) |
| 高年齢再就職給付金 | 失業給付を受給後に再就職した方 | 失業給付残日数が200日以上→最大2年、100日以上200日未満→最大1年 |
山田
じゃあ田中さんは、定年後もそのまま同じ会社で嘱託で働き続けているので、基本給付金のほうが対象になりそうですね。
木村先生
その通りです。まずは支給要件を詳しく見ていきましょう。
支給要件を確認しよう

山田
どういう条件を満たせばもらえるんですか?
木村先生
基本給付金を受け取るには、3つの要件をすべて満たす必要があります。まず、60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者であること。次に、雇用保険の被保険者期間が通算で5年以上あること。そして、支給対象月の賃金が60歳到達時点の賃金月額の75%未満に低下していることです。
山田
雇用保険の被保険者期間が5年以上!これって、60歳のときまでに5年以上加入していればいい?
木村先生
厳密には、「60歳到達等の時点」における被保険者期間が5年以上あることが条件です。複数の会社で働いた期間を合算してカウントするので、転職経験がある方でも合算で5年以上あれば問題ありません。
山田
65歳以上になってしまうと、対象外になるんですよね?
木村先生
そうです。あくまでも60歳〜65歳未満の期間が支給対象です。65歳の誕生日が属する月まで受け取れます。田中さんが現在62歳なら、あと3年弱、65歳の誕生日の月まで受給できる計算になりますね。
山田
「支給限度額」というのも聞いたことがあるんですが、それは何ですか?
木村先生
支給対象月の賃金が支給限度額を超えてしまうと、その月は支給されません。2025年8月1日から2026年7月31日までの支給限度額は38万6,922円です。この額は毎年8月1日に改定されます。
| 支給要件 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 60歳以上65歳未満の雇用保険一般被保険者 |
| 被保険者期間 | 通算5年以上 |
| 賃金の低下 | 60歳時点の賃金月額の75%未満に低下 |
| 支給限度額 | 38万6,922円以下(2025年8月〜2026年7月) |
| 失業給付との関係 | 基本給付金は失業給付を受けていないこと |
山田
要件は整理できました。次は実際にいくらもらえるのか気になります!
支給額の計算方法
山田
賃金がどれだけ下がったかで、もらえる金額が変わるんですよね?
木村先生
そうです。「低下率」という概念を使います。低下率は「支給対象月の賃金 ÷ 60歳到達時の賃金月額 × 100」で計算します。この低下率が低いほど、つまり賃金がたくさん下がっているほど、支給率が高くなる仕組みです。
山田
えっ、2025年4月から支給率が変わったんでしたよね?
木村先生
そうなんですよ。2025年4月1日以降に60歳を迎えた方については、支給率の上限が15%から10%に引き下げられました。それ以前から対象だった方は、引き続き最大15%が適用されます。
山田
具体的な計算方法を教えてもらえますか?
木村先生
2025年4月1日以降に60歳を迎えた方の場合、低下率が64%以下であれば支給率は一律10%です。64%超〜75%未満の場合はスライド式になって、低下率が高くなるにつれて支給率が0%に近づいていきます。
支給率の計算式(2025年4月以降に60歳になった方)
- 低下率64%以下の場合:支給率=一律10%
- 低下率64%超〜75%未満の場合:支給率=(-64×低下率+4,800)÷ 110 × 100 ÷ 低下率
- 低下率75%以上の場合:支給なし(0%)
山田
ちょっと計算式が複雑ですね……具体例で教えてもらえますか?
木村先生
もちろんです。たとえば60歳時点の月給が30万円だった方が、定年再雇用後に18万円になった場合を考えましょう。低下率は60%(18万円÷30万円×100)になりますよね。64%以下なので支給率は10%、支給額は1万8,000円/月です。
山田
1万8,000円か、年間だと21万6,000円になりますね。それなりの金額だ。
木村先生
もう一つ例を挙げます。同じく60歳時点の月給30万円で、再雇用後に21万円になったケースです。低下率は70%(21万円÷30万円×100)。64%超なのでスライド式の計算になって、支給率はおよそ4.54%、支給額は9,534円/月になります。
| 計算例(2025年4月以降に60歳になった方の場合) | 低下率 | 支給率 | 支給額 |
|---|---|---|---|
| 60歳時30万円 → 再雇用後18万円 | 60% | 10%(上限) | 1万8,000円/月 |
| 60歳時30万円 → 再雇用後21万円 | 70% | 約4.54% | 約9,534円/月 |
| 60歳時30万円 → 再雇用後23万円 | 約77% | 0%(対象外) | 支給なし |
山田
なるほど!賃金がどのくらい下がったかによって大きく変わるんですね。ちなみに2025年4月より前に60歳を迎えた方はどうなりますか?
木村先生
60歳到達日が2025年3月31日以前の方は、最大15%の旧基準が適用されます。この場合は低下率が61%以下のとき支給率が15%になります。田中さんが今年60歳になったのであれば、新基準の最大10%が適用されます。
⚠️ 2025年4月改正の経過措置に注意
- 旧基準(最大15%):2025年3月31日以前に60歳を迎えた方(61%以下の低下率で支給率15%)
- 新基準(最大10%):2025年4月1日以降に60歳を迎えた方(64%以下の低下率で支給率10%)
- 適用される基準は「60歳到達日」で確定。後から変更はできません
山田
改正前後で金額がかなり変わりますね。計算方法はわかりました。次は申請の仕方を教えてください!
申請手続きの流れ

山田
申請はどこに行けばいいんですか?会社がやってくれるんですか?
木村先生
ハローワーク(公共職業安定所)への申請が必要です。原則として事業主(会社)が代わりに申請します。ただし被保険者本人が自分で申請することも可能ですよ。
山田
事業主が申請する場合、何か書類が必要ですよね?
木村先生
初回の申請には複数の書類が要ります。順を追って説明しますね。
手順
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60歳到達時に賃金証明書を作成・提出 60歳になった月または翌月に、「雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書」をハローワークに提出します。これが支給計算のベースになる大切な書類です
-
初回申請書類を準備する 「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」「賃金台帳や出勤簿」「本人の年齢確認書類(運転免許証または住民票の写し)」を揃えます
-
初回申請をハローワークに提出 初回申請の期限は最初の支給対象月の初日から4か月以内です。この期限を過ぎると受給できなくなる可能性があるので注意してください
-
2か月ごとの定期申請を繰り返す 初回申請後は、ハローワークから指定された申請月中に「高年齢雇用継続給付支給申請書」を2か月ごとに提出します。指定通知書に記載された期日を守ることが大切です
-
65歳到達まで継続して申請 支給期間中は2か月ごとの申請を続けます。65歳の誕生日の月が最後の支給対象月となります
山田
初回の申請期限が「最初の支給対象月の初日から4か月以内」……これって、60歳になった月から4か月ということですか?
木村先生
少し細かい話ですが、賃金が60歳時点の75%未満に低下した月が「最初の支給対象月」になります。60歳になった直後からすぐに賃金が下がった場合は、そこから4か月以内に初回申請が必要です。定年退職して翌月から再雇用の場合は、再雇用が始まった月が最初の支給対象月になることが多いですね。
山田
なるほど、意外に早く申請しないといけないですね。会社の担当者に早めに確認するのが大事そうです。
木村先生
そうです。事業主側でも「6十歳到達時等賃金証明書」の提出タイミングを逃さないように注意しましょう。
申請期限の整理
- 初回申請期限:最初の支給対象月の初日から4か月以内
- 2回目以降の申請:ハローワーク指定の申請月中(指定通知書に記載)
- 期限を過ぎると給付が止まる。指定通知書は必ず保管しておく
山田
手続きの流れはよくわかりました。ところで、この給付金をもらいながら年金ももらえるんですか?
在職老齢年金との関係と注意点
山田
60歳以降って、年金ももらえる方もいますよね。給付金と年金を両方もらえるんですか?
木村先生
実は、高年齢雇用継続給付金を受け取っていると、「特別支給の老齢厚生年金」の一部が支給停止されるんです。これを「在職老齢年金との調整」と呼びます。
山田
えっ、年金が減るんですか?それは困りますね……どのくらい減るんですか?
木村先生
2025年4月1日以降に60歳を迎えた方(新基準適用)は、標準報酬月額の最大4%が在職による支給停止に加えて追加で停止されます。旧基準(2025年3月31日以前に60歳到達)の方は最大6%の追加停止です。
山田
つまり、給付金で10%もらっても、年金から最大4%分引かれるということ?
木村先生
そういうことです。ただし、標準報酬月額の4%と給付金の10%では金額の計算基準が違うので、一概にトータルでどちらが得かは断言できません。給付金の金額のほうが大きくなるケースが多いですが、年金と給付金の両方をシミュレーションして確認することをおすすめします。
⚠️ 年金と給付金の調整に注意
- 特別支給の老齢厚生年金を受けている方は、高年齢雇用継続給付を受けることで在職による支給停止とは別に年金の一部が追加停止される
- 新基準(2025年4月以降に60歳到達):最大4%の追加停止
- 旧基準(2025年3月以前に60歳到達):最大6%の追加停止
- 在職老齢年金の詳細は在職老齢年金(働きながら年金)を参照
山田
この給付金って、税金はかかりますか?
木村先生
高年齢雇用継続給付金は非課税です。所得税の課税対象にはなりません。ただし、社会保険料の計算上は賃金として扱われないので、保険料への影響はほぼありません。
山田
非課税なんですね、それは助かります!注意点はほかにもありますか?
木村先生
いくつかあります。失業給付(基本手当)との併給はできません。また、高年齢雇用継続基本給付金と再就職手当は同時に受け取れないので注意してください。
山田
この制度、将来もずっと続くんですか?
木村先生
実は段階的に縮小される方向で検討されています。2025年4月に最大15%から10%に引き下げられましたが、今後さらに引き下げや廃止も議論されています。廃止の具体的な時期は2026年7月時点では正式に確定していませんが、長期的には縮小・廃止の方向性が示されています。受給できる方は早めに申請を進めておくことをおすすめします。
実務でよく出る疑問
山田
実務担当者として疑問に思うことがいくつかあって……田中さんが60歳になった月に、会社がすぐに手続きをしなかった場合はどうなりますか?
木村先生
初回申請には4か月以内という期限があります。ただし、「六十歳到達時等賃金証明書」については、60歳になった日の翌日から10日以内に提出するのが原則です。これを提出しないと、後の支給申請にも影響が出てくるので、60歳到達のタイミングを把握して動くことが大切です。
山田
あと、田中さんが途中で賃金が上がって75%以上に回復した場合は?
木村先生
その月は支給対象外になります。ただし賃金がまた75%未満に下がれば、再び支給対象になります。毎月の賃金が支給要件を満たすかどうかを都度確認しながら申請を続ける形ですね。
山田
なるほど、月ごとに判断するんですね。もし会社側が申請を忘れていたら、従業員が自分で申請できますか?
木村先生
可能です。従業員本人がハローワークに直接申請することもできます。ただし、「六十歳到達時等賃金証明書」は事業主が提出するものなので、まず会社に連絡して提出してもらう必要があります。
山田
定年再雇用の手続き(同日得喪)とも関連しますよね?
木村先生
その通りです。定年後の再雇用と同時に社会保険の定年再雇用・同日得喪の手続きを行うことが多いですし、雇用保険の手続きも関連します。60歳定年後の手続きは複数の届出が連動しているので、まとめて確認することをおすすめします。
山田
今後この制度がなくなった場合、代わりになる支援はあるんですか?
木村先生
厚生労働省は高年齢雇用継続給付の縮小と並行して、「高年齢労働者処遇改善促進助成金」を新設しました。これは60歳以降の賃金低下を抑制する取り組みを行う事業主を支援するための助成金で、企業が高年齢者の処遇改善に取り組む際に活用できます。給付金の代替として従業員への説明を行う際、この助成金の存在も社内で共有しておくとよいでしょう。
山田
会社側も対応が必要なんですね。高年齢者の雇用継続って、今後ますます重要になってきますね。
木村先生
そうなんです。65歳までの雇用確保は法律上の義務ですし、70歳までの就業機会確保も努力義務になっています。高年齢雇用継続給付金は、60〜65歳の従業員のモチベーション維持にも役立つ制度です。制度の縮小が進む前に、しっかり活用しておくことが大切ですよ。
山田
雇用保険の被保険者期間5年という要件ですが、途中で一度退職して再就職した場合はどうカウントするんですか?
木村先生
雇用保険の被保険者期間は、複数の事業所での期間を通算できます。ただし、前の離職から1年以内に再就職した場合のみ通算可能です。1年を超えて間が空いてしまうと、前の被保険者期間はリセットされてしまいます。転職経験のある方は、自分の被保険者期間がどのくらい積み上がっているかをハローワークで確認してみてください。
山田
それは要注意ですね。1年以上ブランクがあると、5年の要件を満たせないこともあるんですね。
木村先生
そうです。特に育児や介護でキャリアに中断がある方は注意が必要です。60歳を迎える前に被保険者期間を確認しておくと安心ですよ。雇用保険の適用拡大(2028年10月)によって、2028年以降は加入対象が週10時間以上に拡大されますが、現在の高年齢雇用継続給付は一般被保険者の期間だけがカウントされます。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 高年齢雇用継続給付金(高年齢雇用継続基本給付金 / 高年齢再就職給付金) |
| 管轄省庁・実施機関 | 厚生労働省 / ハローワーク(公共職業安定所) |
| 対象者 | 60歳以上65歳未満の雇用保険一般被保険者(被保険者期間5年以上) |
| 支給要件 | 60歳時点の賃金月額の75%未満に低下 |
| 最大支給率 | 2025年4月1日以降に60歳到達→10%、2025年3月31日以前→15% |
| 支給期間 | 60歳到達月〜65歳到達月(基本給付金の場合) |
| 支給限度額 | 38万6,922円/月(2025年8月〜2026年7月) |
| 初回申請期限 | 最初の支給対象月の初日から4か月以内 |
| 申請先 | 事業所を管轄するハローワーク |
| 施行日(改正) | 2025年4月1日(給付率変更) |
| 公式ページ | 厚生労働省 高年齢雇用継続給付 |
関連制度
山田
木村先生、この制度に関連して押さえておくべき制度って他にもありますか?
木村先生
いくつかセットで理解しておくといいですよ。まず定年再雇用・同日得喪の手続きは、60歳定年後に再雇用される際の社会保険・雇用保険の手続きで、今回の給付金と同じタイミングで発生します。
山田
ほかにはありますか?
木村先生
在職老齢年金(働きながら年金)も関連が深いです。65歳未満で働きながら年金をもらっている方は、今回の給付金と年金の調整の仕組みをセットで理解する必要があります。それから、雇用保険被保険者資格喪失届と離職票は、定年退職する際に会社が行う手続きで、高年齢雇用継続給付との出発点になります。
山田
60歳前後の手続きって、雇用保険と年金と社会保険が複雑に絡み合うんですね。
木村先生
まさにそうです。60歳以降の雇用に関わる制度は複数の窓口・法律が関係しているので、ハローワークと年金事務所の両方に確認しながら進めると安心ですよ。
60歳以降の手続きチェックポイント
- 60歳定年時:雇用保険資格喪失届・離職票の提出(退職の場合)、同日得喪の手続き(再雇用の場合)
- 再雇用後速やかに:六十歳到達時等賃金証明書の提出(ハローワーク)
- 初回支給対象月から4か月以内:高年齢雇用継続給付の初回申請
- 以降2か月ごと:定期申請(65歳到達月まで)
- 年金との調整確認:特別支給の老齢厚生年金を受けている場合は年金事務所にも確認
山田
田中さんに早速確認してみます。木村先生、今日はありがとうございました!
木村先生
お役に立てて良かったです。60歳以降の賃金が下がって不安になっている方は多いですが、きちんと申請すれば給付金で収入の一部を補えます。申請期限を逃さないよう、事業主側もしっかりサポートしてあげてください。