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65歳到達時の社会保険手続き|介護保険切り替えと年金請求の実務
厚生労働省公式案内 →
介護保険「第2号」から「第1号」へ — 何が変わるのか
山田
木村先生、まず確認なんですが、65歳になったら介護保険の扱いがガラッと変わるって聞いたんですが、どういうことなんですか?
木村先生
そうなんですよ、山田さん。介護保険には40歳から64歳の「第2号被保険者」と、65歳以上の「第1号被保険者」という2つの区分があります。65歳の誕生日の前日をもって、自動的に第2号から第1号に切り替わるんです。
山田
「誕生日の前日」ってちょっと変な感じがするんですが、なんでですか?
木村先生
法律上、年齢は誕生日の前日に満了するという考え方があって、社会保険でもこのルールに従っているんです。例えば、9月2日生まれの方は「9月1日」に65歳に達したとみなします。ちょっとピンとこないかもしれないですが、この「前日ルール」は給与計算で非常に重要になってきます。
山田
区分が変わるとどんなことが変わるんですか?
木村先生
大きく2つです。ひとつは保険料の徴収先が「会社(給与天引き)」から「市区町村(年金天引きか納付書)」に変わること。もうひとつは、65歳以上になると要介護・要支援の認定を受ければ特定疾病(16種類)に限らず、どんな原因によっても介護保険サービスを利用できるようになることです。第2号の間は特定疾病が原因の場合しかサービスを受けられなかったので、これは大きな違いです。
山田
えっ、会社が徴収しなくてよくなるんですか! それは会社にとってはラクになりますね!
木村先生
そうなんですが、タイミングを間違えると二重徴収になるので油断は禁物です(笑)! 40歳から65歳の間は会社が健康保険料の一部として介護保険料を給与から天引きして納めていましたが、65歳以降は市区町村が直接本人から徴収します。
山田
二重徴収ってどういう状況で起きるんですか?
木村先生
会社が給与天引きを止め忘れた月に、市区町村からも納付書が届いてしまった場合です。従業員から「両方払ったんですが」という問い合わせが来て、会社側は返金手続きが必要になります。次のセクションで給与計算の実務を見ていきましょう。
給与計算担当者が必ずやること — 控除停止のタイミング
山田
では、給与計算担当者として何をいつまでにやればいいのか教えてください。
木村先生
まず覚えてほしいのは「誕生日の前日が属する月から、給与天引きを停止する」というルールです。
| 誕生日 | 誕生日の前日 | 介護保険料控除の停止月 |
|---|---|---|
| 9月2日 | 9月1日 | 9月分の給与から停止 |
| 9月15日 | 9月14日 | 9月分の給与から停止 |
| 9月1日(月初め) | 8月31日 | 8月分の給与から停止(1ヶ月早い) |
| 10月1日(月初め) | 9月30日 | 9月分の給与から停止(1ヶ月早い) |
山田
月の初日(1日)生まれの方は1ヶ月早くなるんですね。これ知らないと過剰徴収になりますよね!
木村先生
まさにそこが一番多い間違いです。毎月、翌月に65歳になる従業員リストを確認して「1日生まれの方は今月から停止」と意識することが大切です。給与システムに自動計算機能があっても、生年月日の入力ミスで誤徴収が起こることがあるので、目視でのダブルチェックを習慣にしてください。
山田
賞与のときも同じ考え方でいいんですか?
木村先生
賞与は支払われた月の状況で判断します。例えば6月1日生まれの方は、誕生日の前日が5月31日なので5月分から停止ですよね。5月25日に賞与を支払うなら、その時点でもう停止対象なので介護保険料は控除しません。この判断を間違えると後で返金手続きが必要になって手間が増えます。
給与計算担当者のチェックポイント
- 毎月確認: 翌月以降に65歳を迎える従業員を事前リストアップ
- 1日生まれは要注意: 誕生日の前月分から停止になる
- 給与と賞与は別に判断: 賞与は支払日が属する月で判断する
- 二重徴収の返金: もし過剰徴収があったら翌月の給与で精算する
- システムへの反映: 停止月を給与計算システムに正確にセットし、人力でも確認する
山田
従業員への案内も必要ですよね?
木村先生
そうです。65歳に近づいた従業員には「来月から給与の介護保険料控除がなくなります。代わりに市区町村から納付書が届くか、年金から天引きになります」と事前に説明しておくと、従業員の不安も減ります。特に普通徴収(納付書払い)の場合、払い忘れが起きやすいので要注意です。
山田
普通徴収と特別徴収の違いを教えてください。
木村先生
年金から天引きされるのが「特別徴収」、納付書や口座振替で自分で払うのが「普通徴収」です。65歳直後はまだ年金の天引き手続きが間に合わないので、しばらくは普通徴収になることが多いです。その後、年金の受給額が一定以上(年18万円以上)になると特別徴収に切り替わります。給与計算の変更を確認したら、次は年金請求の手続きに進みましょう。
老齢年金の受給開始手続き — 65歳になったら動く

山田
年金の話に移ります。65歳になったら自動的に年金がもらえるようになるわけじゃないんですよね?
木村先生
はい、年金は請求しないともらえません。必ず「年金請求書」を提出する必要があります。ただし日本年金機構が事前に書類を送ってくれるので、それに従って手続きするだけです。
山田
いつ書類が来るんですか?
木村先生
65歳の誕生日の3ヶ月前に、日本年金機構から「年金請求書(事前送付用)」が自宅に届きます。氏名・生年月日・基礎年金番号・年金加入記録があらかじめ印字されているので、追加で記入する項目は少ないです。
山田
提出はどこにするんですか?
木村先生
年金事務所か、年金相談センターです。令和7年(2025年)1月以降に65歳を迎える方はe-Gov等を使った電子申請も選べます。提出できるのは65歳の誕生日の前日以降から、つまり誕生月に手続きするイメージです。
手順
- 3ヶ月前: 日本年金機構から年金請求書(事前送付用)が自宅に届く
- 必要書類を準備する: 戸籍謄本、預金通帳(コピー)、配偶者の年金手帳など
- 誕生日の前日以降に提出: 年金事務所・年金相談センターへ持参 or 電子申請
- 約1〜2ヶ月後: 年金証書が届く
- 証書受領から1〜2ヶ月後: 年金の受け取り開始
山田
必要書類は年金請求書1枚でいいんですか?
木村先生
請求書だけでは足りません。主な添付書類としては、戸籍謄本(加給年金を請求する場合は配偶者の戸籍謄本も)、預金通帳のコピー(振込先口座確認のため)、雇用保険被保険者証などが必要です。必要書類の詳細は事前送付される案内書に書いてありますし、年金事務所に事前確認するのが確実です。
山田
特別支給の老齢厚生年金をすでにもらっている人は?
木村先生
64歳以前から特別支給の老齢厚生年金を受給している方は、65歳時点で別途「年金請求書(はがき型)」を提出する必要があります。提出期限は65歳の誕生月末日(1日生まれは前月末日)です。これを出し忘れると年金の支払いが一時保留されますので気をつけてください。
山田
提出し忘れた場合はどうなりますか?
木村先生
遡って請求はできますが、受給権が発生してから5年を超えると時効で受け取れなくなります。気づいたらすぐに年金事務所に連絡することです。
⚠️ 繰下げ受給を希望する場合
65歳以降に年金受給を遅らせると(繰下げ受給)、1ヶ月あたり0.7%ずつ年金額が増加します。70歳まで繰り下げると42%増、75歳まで繰り下げると84%増になります。繰下げを希望する場合は、65歳時点での年金請求書の提出は不要です(請求書の該当欄で繰下げを選択)。ただし、繰下げ中は加給年金が支給されないなどのデメリットもあるため、家族の状況を踏まえて検討してください。
山田
繰下げをすると年金額が増えるんですね! でも老後資金が不足したらどうするんですか?
木村先生
繰下げを選んだ後でも、65歳時点に遡って一括受給するという選択肢があります。ただし、一括受給を選ぶと増額はもらえません。繰下げか一括かは年金事務所で試算してもらうのが一番です。受給方法の確認が終わったら、在職中の方には在職老齢年金についても知っておいてほしいことがあります。
在職老齢年金 — 働きながら年金をもらうときの注意点

山田
65歳以降も働き続ける人の場合、年金がカットされることがあると聞いたんですが……。
木村先生
「在職老齢年金」という制度です。厚生年金保険の被保険者として在職中に年金を受け取る場合、給与(標準報酬月額)と年金の合計が一定額を超えると年金が一部または全部停止されます。
山田
基準額はいくらなんですか?
木村先生
2026年4月以降は月65万円が基準額です。2024年3月までは50万円、2024年4月から2026年3月までは51万円でしたが、2026年4月から65万円に大きく引き上げられました。
| 期間 | 支給停止基準額(月額合計) |
|---|---|
| 2024年3月まで | 50万円 |
| 2024年4月〜2026年3月 | 51万円 |
| 2026年4月以降 | 65万円(現行) |
山田
65万円に上がったって、かなり大きな変化じゃないですか!
木村先生
そうなんですよ! 以前は月収40万円で年金10万円もらっていると合計50万円をすでに超えてしまって、年金が止まる方もいました。65万円になったことで、影響を受ける方は大幅に減りました。
山田
基準額を超えた場合の計算式も教えてください。
木村先生
計算に使う2つの数字を覚えてください。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 基本月額 | 加給年金を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額 |
| 総報酬月額相当額 | 標準報酬月額+(直近1年間の標準賞与額合計÷12) |
山田
足して65万円を超えたら?
木村先生
「(基本月額+総報酬月額相当額-65万円)÷2」が停止される金額です。例えば、年金(基本月額)が月15万円、給与(総報酬月額相当額)が月60万円の方なら合計75万円で基準額を10万円超えます。10万円÷2で月5万円分が停止、残り10万円が受け取れる計算です。
山田
なるほど、全額ゼロになるわけじゃないんですね。ざっくり「月収50万円の人は年金15万円まで満額もらえる」みたいな感覚でしょうか?
木村先生
まさにそのイメージです! ただし標準賞与が多い年は総報酬月額相当額が上がるので注意が必要です。在職老齢年金の詳しい仕組みは在職老齢年金(働きながら年金)のトピックも参考にしてください。
在職老齢年金のポイント(2026年4月以降)
- 基準額は月65万円(基本月額+総報酬月額相当額の合計)
- 基準額以下なら全額受取り可能
- 超えた場合は「超過額÷2」が停止される(全額ゼロにはなりにくい)
- 65歳未満と65歳以上で以前は計算式が異なったが、現在は65歳以上の基準が適用
- 定年再雇用・同日得喪と組み合わせると保険料を抑えられる
山田
70歳になると今度は厚生年金の被保険者資格が終わるんでしたっけ?
木村先生
そのとおりです。70歳になると原則として厚生年金の被保険者資格を喪失し、それ以降は標準報酬月額が在職老齢年金の計算から外れます。ただし在職老齢年金制度自体は70歳以降も続きます。70歳以降の手続きは70歳到達時の社会保険手続きでまとめています。
65歳到達時の手続きまとめ
山田
65歳到達時に企業がやることと従業員がやることを教えてもらえますか?
木村先生
企業側のやることから見てみましょう。
手順
- 65歳誕生日の前月まで: 対象従業員を特定し、給与計算システムの介護保険料控除を停止する月を確認
- 誕生日の前日が属する月: 給与からの介護保険料天引きを停止(1日生まれは前月)
- 従業員への案内: 「介護保険料の控除がなくなること」「市区町村から納付書が届く、または年金天引きになること」を事前説明
- 健康保険・厚生年金の継続確認: 65歳以降も在職していれば、70歳到達まで継続(原則として変更なし)
山田
従業員本人がやることは?
木村先生
従業員本人がやることはこちらです。
手順
- 65歳の3ヶ月前: 年金請求書(事前送付用)が自宅に届く
- 必要書類を準備: 戸籍謄本・預金通帳コピー・配偶者の年金手帳等
- 65歳の誕生日の前日以降: 年金事務所または電子申請で年金請求書を提出
- 受給方法の選択: すぐに受け取るか、繰下げにするかを決める
- 在職老齢年金の確認: 給与と年金の合計が65万円を超える場合は停止額を試算
山田
年金の受給開始手続きは基本的に従業員本人がやることなんですね。会社は関与しないんですか?
木村先生
年金の請求は本人が行うものなので会社が代行するわけではありません。ただ、従業員が手続き忘れにならないよう、65歳到達の3〜4ヶ月前に「年金請求書が届く時期です」とひと声かけるのが良い会社の対応です。特に繰下げを選ぶかどうかは大きな判断なので、年金事務所への相談を勧めてあげてください。
山田
会社として、65歳到達の際に健康保険や厚生年金で手続きすることはないんでしょうか?
木村先生
健康保険と厚生年金については、65歳になっても在職中の場合は特に手続きは不要です。介護保険料の控除停止だけやっておけばいい。これが70歳だと厚生年金の資格喪失届が必要になってくるので、65歳と70歳で求められることが違う点に気をつけてください。
⚠️ 65歳到達時に間違いやすい手続き
- 不要なもの: 社会保険(健康保険・厚生年金)の資格喪失届(65歳では不要。70歳で必要)
- 忘れやすいもの: 介護保険料の給与控除停止(自動ではないため要手動対応)
- 従業員任せになりがちなもの: 年金請求書の提出(会社から事前案内を出すことが望ましい)
65歳到達時の基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 介護保険の変更 | 第2号被保険者 → 第1号被保険者(誕生日の前日から自動切り替え) |
| 介護保険料の徴収停止 | 誕生日の前日が属する月から給与天引き停止(1日生まれは前月) |
| 介護保険料の新しい納付先 | 市区町村(年金天引きまたは納付書) |
| 年金請求書の事前送付 | 65歳の誕生日の3ヶ月前に日本年金機構から送付 |
| 年金請求書の提出先 | 年金事務所・年金相談センター・電子申請 |
| 特別支給受給者の提出期限 | 65歳の誕生月末日(1日生まれは前月末日) |
| 在職老齢年金の基準額 | 月65万円(2026年4月以降) |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 日本年金機構・市区町村 |
| 公式ページ | 日本年金機構 老齢年金の請求手続き |
関連する手続きとの違い
山田
70歳や60歳の定年とも関連する話ですが、違いがよくわからなくなってきました。
木村先生
高齢化に伴う3つの節目をまとめておきます。
| 年齢 | 主な変化 |
|---|---|
| 60歳(定年) | 定年再雇用で同日得喪を行い、標準報酬月額を下げる手続きが可能 → 詳細 |
| 65歳 | 介護保険が第1号に切り替え・老齢年金の受給開始手続き(本記事) |
| 70歳 | 厚生年金の被保険者資格を喪失。高齢任意加入制度も選択肢 → 詳細 |
山田
介護保険が第2号から第1号になるというのは、40歳から始まる制度の区切りということですよね?
木村先生
そうです。40歳になると介護保険第2号被保険者として介護保険料の徴収が始まり、65歳で第1号に移行する。この長いライフサイクルを会社が支えている、と考えると社会保険の体系が見えてきます。それぞれの手続きを年齢ごとに押さえておくと、高齢者雇用の実務がぐっとラクになります。
相談・手続き窓口
- 年金事務所・年金相談センター: 老齢年金の請求手続き・在職老齢年金の試算
- 日本年金機構 公式サイト: https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/seikyu/gaiyou.html
- お住まいの市区町村の介護保険担当窓口: 介護保険第1号被保険者への切り替えや保険料の確認
よくある質問
山田
先生、最後によくある疑問を教えてください。65歳を迎える従業員から「給与明細から介護保険料が消えたけど間違いじゃないですか?」と言われたんですが、なんと答えればいいですか?
木村先生
「正しい変更です。65歳になったので給与天引きが終わり、これからは市区町村から納付書が来るか、年金から天引きされます」と答えれば大丈夫です。正常な処理なので安心してもらって問題ありません。
山田
「年金をまだ請求していない」という人もたまにいますよね。
木村先生
年金は自動的に振り込まれるわけではなく、必ず請求が必要です。「請求書が届いてから手続きが面倒でそのままにしていた」という方もいます。受給権が発生してから5年以内なら遡って請求できるので、気づいたらすぐに年金事務所に相談するよう伝えてください。
山田
65歳になっても年金を受け取らず繰り下げにすると、在職老齢年金で停止される部分を後で取り戻せますか?
木村先生
これは重要な注意点です。在職老齢年金で支給停止された金額は、繰下げしても増額の対象になりません。停止された部分はあくまで「支給されなかった」ものとして扱われます。繰下げのメリットをフルに受けるには、在職老齢年金による停止がない状態での繰下げが理想的です。このあたりは年金事務所に試算を依頼してみてください。
山田
ほんとに? それは知らなかった。繰下げを選ぶ前に確認が必要ですね!
木村先生
そうです。在職老齢年金で止まっている部分を「繰下げで回収できる」と思っている方が多いので、ここは事前に丁寧に説明してあげてください。
山田
65歳から厚生年金をもらいながら働くと、保険料はどうなりますか? 年金を受け取りながら保険料も払い続けるんですか?
木村先生
70歳到達まで厚生年金保険料は引き続き給与から天引きされます。保険料を払い続けることで、毎年8月に「在職定時改定」が行われ、年金額が更新されます。ただし従来よりも毎年反映されるようになったので、働いた分が着実に年金に上乗せされる仕組みです。これも65歳以降の在職継続のメリットのひとつです。
山田
ありがとうございます。65歳到達時は介護保険の切り替えと年金請求が重なる、結構大事な節目なんですね。
木村先生
会社側は給与計算の変更(控除停止)と従業員への案内が主な役割で、年金の請求手続き自体は従業員本人がやることです。役割分担をしっかり押さえておけば、スムーズに対応できます。あとは毎月「今月65歳になる人はいないか」を確認する習慣をつければ、ほとんどのトラブルは防げます。