適用拡大
2026年10月|8.8万円要件撤廃で加入対象者を見分ける方法
2026年10月に何が変わるのか

山田
先週、うちの経理担当から「パートの山本さん、10月からどうなるんですか」と聞かれて、正直一瞬固まっちゃったんです。8.8万円の壁がなくなるっていうニュースは見てたんですが、実際に誰が新しく社会保険に入ることになるのか、恥ずかしながらちゃんと説明できなくて。木村先生、そもそも今回の改正で何がどう変わるのか、まず全体像を教えてもらえますか。うちは51人以上の会社なので、パートの社会保険加入自体はもう対応済みのつもりだったんですが。
木村先生
いいところに気づきましたね。今回変わるのは4つある加入要件のうち「賃金要件」だけです。企業規模の要件はそのままなので、御社が「特定適用事業所」として既に対象になっているなら、その部分は変わりません。
山田
なるほど、4つのうち1つだけがなくなるんですね。ちょっと安心しました(笑)。その4つって、あらためて何でしたっけ。
木村先生
現行の要件は「週の所定労働時間が20時間以上」「所定内賃金が月額8.8万円以上」「雇用期間が2ヶ月を超える見込み」「学生でないこと」の4つです。この中の月額8.8万円以上という賃金要件だけが2026年10月に撤廃される予定です。
山田
撤廃後は3つの要件で判定するってことですか。
木村先生
そのとおりです。厚生労働省の特設サイトにも「所定内賃金が月額8.8万円以上(2026年10月に賃金要件を撤廃予定)」と明記されています。撤廃後は週20時間以上・学生でない・2ヶ月超雇用見込みの3要件だけで判定することになります。
| 項目 | 撤廃前(〜2026年9月) | 撤廃後(2026年10月〜) |
|---|---|---|
| 週の所定労働時間 | 20時間以上 | 20時間以上(変更なし) |
| 賃金要件 | 月額8.8万円以上 | 要件なし(撤廃) |
| 雇用期間 | 2ヶ月を超える見込み | 2ヶ月を超える見込み(変更なし) |
| 学生かどうか | 学生でないこと | 学生でないこと(変更なし) |
| 企業規模 | 特定適用事業所(現在51人以上) | 変更なし(別スケジュールで段階的に縮小) |
山田
この表を見ると、賃金要件だけがぽっかり抜け落ちる感じですね。逆に言うと、今まで「週20時間は働いているけど月8.8万円に届かないから対象外」だった人が、丸ごと新しく対象になるってことですか。
木村先生
まさにそこがこの記事の本題です。次はなぜ賃金要件そのものがなくなるのか、その背景から見ていきましょう。
なぜ月8.8万円の要件がなくなるのか
山田
そもそも、なんでわざわざこの要件だけ廃止するんですか。年収の壁って言葉がニュースでよく出てくるので、なんとなく政治的な話なのかなとは思ってたんですが。
木村先生
一番大きな理由は最低賃金の上昇です。2025年度の地域別最低賃金改定で、全都道府県の時給が1,016円を超え、全国加重平均は1,118円になりました。
山田
へえ、それと8.8万円がどう関係するんですか。
木村先生
時給1,016円以上の地域で週20時間働くと、月額換算でだいたい8.8万円を超えてしまうんです。つまり「週20時間以上働く」という要件をクリアした時点で、ほとんどの人が自動的に賃金要件もクリアしてしまう状態になっていた。
山田
あ、そうか。要件として意味をなさなくなってたってことですね。
木村先生
そうなんです。厚生労働省も「賃金要件の実効性が失われた」という趣旨で説明しています。だったら要件自体を撤廃してシンプルにしよう、という流れですね。ちなみにこの改正のもとになった法律は、令和7年(2025年)5月16日に国会へ提出され、6月13日に成立した年金制度改正法です。
賃金要件撤廃の背景まとめ
- 法律の成立日: 2025年6月13日(第217回通常国会)
- 撤廃の条件: 法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となったことを見極めて判断
- 撤廃予定日: 2026年10月1日(厚生労働省特設サイトに明記)
山田
なるほど、条件付きで決まった話なんですね。じゃあ実際に「誰が新しく対象になるのか」を、うちの会社に当てはめて考えるとどうなるんでしょう。
木村先生
そこが今日いちばん伝えたいところです。具体的な見分け方に進みましょう。
誰が新たに加入対象になるのか

山田
木村先生、率直に聞きたいんですが、うちのパートさんの中で「新しく対象になる人」って、どうやって見つければいいんですか。
木村先生
ポイントは「今まで賃金要件だけで対象外になっていた人」を探すことです。裏を返せば、週20時間以上・学生でない・2ヶ月超雇用見込みの3つはクリアしているのに、月8.8万円に届いていなかった人ですね。
山田
具体的にどういう人が当てはまりますか。
木村先生
典型的には、最低賃金が全国平均より低い地域で働く方や、シフトの週数が少なく月によって収入がばらつく方、あるいは時給がまだ最低賃金付近の方などです。週20時間働いていても、月8.8万円ちょうどに届かないケースは意外とあります。
手順
- 自社のパート・アルバイトの就業実態(週の所定労働時間・月額賃金・雇用期間の見込み)を一覧にする
- 雇用契約上の週所定労働時間が20時間以上かどうかを確認する
- 学生かどうか(休学中・定時制・通信制などの例外も含めて)を確認する
- 雇用期間が2ヶ月を超える見込みかどうかを確認する
- 自社が特定適用事業所(企業規模要件)に該当しているかを確認する
- 上記1〜5を満たし、これまで月8.8万円未満のために対象外だった人を「新規対象者リスト」として抽出する
山田
この手順、うちの給与台帳と照らし合わせればできそうです。週20時間の判定って、契約書の数字を見ればいいんですか。
木村先生
基本はそうです。「週20時間以上」の判定は雇用契約上の所定労働時間で行います。残業などで一時的に20時間を超えても、それだけで即対象にはなりません。ただし、その状態が2ヶ月を超えて続くようなら対象になることがあるので、実態も見ておく必要はありますね。
山田
台帳の数字だけじゃなく、実際の働き方もセットで見るってことですね。整理の仕方はイメージできました。
見分け方の具体例(ケーススタディ)
山田
チェックリストの流れは分かったんですが、実際にどんな人が引っかかるのか、具体例があるとイメージしやすいです。
木村先生
いくつかパターンを挙げますね。まず1人目は、週20時間ちょうどの契約で、時給が地域の最低賃金に近い方です。最低賃金の水準が全国平均より低い地域だと、週20時間働いても月8.8万円にわずかに届かないことがあります。こういう方が典型的な新規対象者です。
山田
なるほど、時給の低さがそのまま影響するんですね。2人目はどんなパターンですか。
木村先生
2人目は、シフトの入る週が月によって変動する方です。契約上は週20時間以上なのに、繁忙期以外は出勤日数が少なく、月額の実収入が8.8万円を下回りがちなケースですね。契約上の所定労働時間で判定するので、こうした方も今回の改正で対象になり得ます。
山田
実際の給料が少なくても、契約の数字が20時間以上なら対象になるんですね。3人目もお願いします。
木村先生
3人目は、時給制ではなく日給制や出来高制に近い働き方をしている方です。月によって収入の波が大きく、これまでたまたま8.8万円を下回る月が続いていた場合、賃金要件が理由で対象外と判断されていたケースがあります。撤廃後はこうした働き方の方も、契約上の所定労働時間さえ満たせば対象です。
⚠️ 洗い出し漏れのリスク
- 賃金要件だけで「対象外」と判断していた従業員は、10月以降にリストから漏れやすいので要注意
- 加入手続きが遅れると、さかのぼって保険料を徴収されるリスクがある
- 契約書上の所定労働時間と実際のシフトが食い違っている場合は、実態も含めて確認しておく
山田
これまで「賃金要件があるから対象外」と判断してきた記録がそのまま残っていると、見落としそうですね。要注意です。
企業規模要件は変わらない点に注意
山田
さっき「企業規模要件は今回変わらない」っておっしゃってましたけど、これって今後もずっと変わらないんですか。
木村先生
いえ、企業規模要件も別のスケジュールで段階的に縮小・撤廃されます。ただし今回の2026年10月の改正とはタイミングが違うので、混同しないよう注意してください。
山田
別のスケジュールって、いつから変わるんですか。
木村先生
現在の特定適用事業所の基準は「従業員数51人以上」ですが、2027年10月以降は36〜50人、2029年10月以降は21〜35人、2032年10月以降は11〜20人、2035年10月以降は10人以下の企業まで対象が広がっていきます。この段階的な流れは、社会保険の段階的適用拡大(2027〜2035年)で詳しく解説しています。
⚠️ 2つの改正を混同しない
- 2026年10月: 賃金要件(月8.8万円)の撤廃(この記事のテーマ)
- 2027年10月〜2035年10月: 企業規模要件(51人以上)の段階的な縮小・撤廃(別スケジュール)
- 自社が現在51人未満で特定適用事業所に該当していない場合、賃金要件が撤廃されても新たな加入義務はまだ発生しません
山田
なるほど、うちの会社は51人以上だから、10月からすぐに影響が出るってことですね。従業員数がギリギリの会社さんは、この2つを分けて考えないとこんがらがりそうです。
木村先生
そのとおりです。もう1つ、企業規模に関係なく対象になる「4分の3基準」というものもあるので、それも触れておきましょう。
4分の3基準との関係も忘れずに
山田
4分の3基準って初めて聞きました。賃金要件とは別の話なんですか。
木村先生
はい、別枠のルールです。週の所定労働時間および月の所定労働日数が、正社員のおおむね4分の3以上であれば、企業規模に関わらず社会保険の加入対象になります。今回の賃金要件撤廃とは関係なく、以前から存在するルールです。
山田
じゃあ、うちの正社員が週40時間だとすると、週30時間くらい働いているパートさんは、もうこの基準で加入対象になっているかもしれないってことですか。
木村先生
そういうことです。まずは4分の3基準に該当する人がいないかを先にチェックして、そこから漏れた人の中で、今回の3要件(週20時間以上・学生でない・2ヶ月超)に当てはまる人を洗い出す、という順番で確認すると整理しやすいですよ。
山田
2段階でチェックするイメージですね。対象者が見えてきたら、次は実際にどう手続きすればいいのか気になります。
新たに加入対象になった場合の実務対応
山田
リストアップした従業員が実際に対象だとわかったら、会社は何をすればいいんですか。
木村先生
基本的な流れは、通常の社会保険加入手続きと同じです。対象者が確定したら、被保険者資格取得届を提出します。この届出の書き方や提出期限は、社会保険(健康保険・厚生年金)被保険者資格取得届にまとめてありますので、そちらも参考にしてください。
山田
提出のタイミングって、10月1日ぴったりに出さないとダメなんですか。
木村先生
資格取得日(この場合は2026年10月1日)から数えて期限内に届け出るのが原則です。対象者が多い会社ほど、事前にリストを固めておかないと直前に慌てることになるので、早めの準備をおすすめします。
山田
保険料の計算はどうなるんですか。急に会社の負担が増えそうで心配です。
木村先生
加入すると、月額賃金をもとに標準報酬月額が決まり、そこから労使折半で保険料が計算されます。標準報酬月額の仕組みは標準報酬月額の仕組みと保険料計算で詳しく解説していますので、事前にコストを試算しておくと安心です。
実務対応の順番
- 対象者の洗い出し: 上で紹介した5つのチェック項目で新規対象者リストを作る
- 本人への説明: 手取りの変化や将来の年金・傷病手当金のメリットを事前に説明する
- 資格取得届の提出: 資格取得日から期限内に届け出る
- 保険料の試算: 標準報酬月額をもとに会社負担分を事前に見積もっておく
山田
手続きは分かりましたが、保険料の負担が増える会社への支援みたいなものはないんですか。
木村先生
実は特例的な軽減措置が用意されています。次はそこを見ていきましょう。
保険料負担を軽減する特例措置
山田
木村先生、会社負担が増える分、何か国の支援があるって聞いたんですが本当ですか。
木村先生
はい、時限的な保険料調整の措置があります。対象は従業員数50人以下の企業などで働き、企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者で、標準報酬月額が12.6万円以下の人です。
山田
期間はどれくらいなんですか。
木村先生
3年間です。通常、社会保険料は労使折半ですが、この措置を利用すると、事業主の負担割合を増やして被保険者(従業員)の負担を軽くできます。事業主が追加で負担した分は、その全額が制度全体で支援される仕組みです。
山田
つまり会社が多めに払っても、その増えた分は国側の仕組みで補われるってことですか。
木村先生
そうです。従業員の手取りの目減りを抑えつつ、会社の実質負担も過度に増えないよう設計されています。対象範囲は「企業規模要件の見直しなどにより」となっているので、詳細な適用条件は自社が対象かどうか、顧問の社労士に確認しておくと確実ですね。
山田
これは知らないと損しそうな制度ですね。最後に、扶養に関わる130万円の壁との違いも整理しておきたいです。
130万円の壁とは別の話
山田
106万円の壁がなくなると聞くと、扶養の130万円の壁もどうなるのか気になります。これも一緒になくなるんですか。
木村先生
いいえ、106万円の壁(賃金要件)と130万円の壁(被扶養者認定基準)は別の制度です。今回撤廃されるのはあくまで社会保険加入の賃金要件で、130万円の壁はそのまま残ります。
山田
じゃあ、配偶者の扶養に入っているパートさんは、今回の改正でいきなり扶養から外れるわけではないんですね。
木村先生
加入要件を満たせば社会保険(厚生年金・健康保険)そのものに入ることになるので、その時点で扶養からは外れますが、それは106万円の壁の話です。130万円の壁は別枠で、2026年4月からは扶養認定の判定方法自体も新しくなっています。詳しくは健康保険の被扶養者認定 新ルール(2026年4月施行)で解説しているので、あわせて確認しておくと従業員への説明がしやすくなりますよ。
山田
判定方法が新しくなったというのは、具体的にどう変わったんですか。
木村先生
2026年4月からは、給与収入のみの方に限り、労働条件通知書に記載された時給・所定労働時間・勤務日数などから算出した年間収入見込みで判定する特例ルールが加わりました。以前は繁忙期の残業代が増えた月の収入だけを見て扶養から外れてしまうケースもあったんですが、契約内容が明確なら、一時的な残業代は原則含めずに判定できるようになっています。
山田
つまり契約書がしっかりしていれば、たまたま忙しかった月のせいで扶養から外れる心配が減るってことですね。今回の賃金要件撤廃とはまた別の改善というか。
木村先生
そうです。106万円の壁の話と130万円の壁の話、それぞれ別のタイミングで制度が動いているので、従業員に説明するときはこの2つを分けて伝えるのがコツですよ。
山田
壁がいくつもあってややこしいですが、今回は「加入するかどうか」の話で、扶養の判定基準そのものは別問題ってことですね。整理できました。
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 社会保険適用拡大(賃金要件撤廃) |
| 施行予定日 | 2026年10月1日 |
| 撤廃される要件 | 所定内賃金 月額8.8万円以上 |
| 撤廃後の加入要件 | 週20時間以上・学生でない・2ヶ月超雇用見込み・企業規模要件 |
| 管轄省庁 | 厚生労働省 |
| 実施機関 | 日本年金機構 |
| 公式ページ | https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jugyouin/taisho/ |
関連する社会保険トピック
山田
最後に、あわせて読んでおくといい記事があれば教えてください。
木村先生
今回のテーマと直結するものだと、2026年10月 社会保険の106万円の壁が廃止は同じ改正を扶養の視点からまとめた記事です。企業規模要件の今後については社会保険の段階的適用拡大(2027〜2035年)、実際の届出は社会保険(健康保険・厚生年金)被保険者資格取得届、保険料の計算は標準報酬月額の仕組みと保険料計算、扶養の判定は健康保険の被扶養者認定 新ルールがそれぞれ参考になりますよ。
よくある質問
山田
最後にいくつか、うちのスタッフから聞かれそうな質問をぶつけてもいいですか。
木村先生
どうぞ、どうぞ。
山田
まず、週20時間の判定に残業は含まれますか。
木村先生
原則含みません。ただし、常に残業が発生していて実態として週20時間を超える状態が続く場合は、算出に含まれることがあります。あくまで契約上の所定労働時間が基準です。
山田
学生は絶対に対象外なんですか。
木村先生
原則対象外ですが、一部の教育施設に在学する方や、休学中、定時制、通信制の方などは加入対象になる場合があります。学生証があるからといって一律に除外しないよう注意が必要です。
山田
施行日より前に契約更新したパートさんはどうなりますか。
木村先生
加入義務が発生するかどうかは施行日時点の状態で判定します。契約更新のタイミングにかかわらず、2026年10月1日時点で3要件と企業規模要件を満たしていれば対象になります。
山田
8.8万円要件がなくなったら、うちの会社のパート全員が加入対象になるんですか。
木村先生
いいえ、そんなことはありません。週20時間未満の方は引き続き対象外ですし、企業規模要件を満たさない会社であれば影響を受けない方もいます。あくまで「賃金要件だけ」がなくなる点を押さえておいてください。
山田
企業規模要件(51人以上)も同時になくなるんですか。
木村先生
いいえ、企業規模要件は別スケジュールです。2027年10月から段階的に縮小されるもので、2026年10月の改正とは別物として管理してください。
山田
保険料の負担を減らす特例措置は、どの会社でも使えますか。
木村先生
従業員数50人以下の企業などで、標準報酬月額12.6万円以下の新規加入者が対象という条件があります。自社が該当するかどうかは、条件を確認したうえで顧問の社労士に相談するのが確実ですよ。
山田
よく分かりました、木村先生。今日聞いたチェックリストで、まずはうちのパートさんの一覧を作り直してみます。
木村先生
それがいちばんの近道です。対象者が見えたら、早めに本人への説明も進めてくださいね。10月1日を過ぎてから慌てて洗い出すより、今のうちに一覧化しておくほうが、会社にとっても従業員にとっても安心できるはずです。
山田
ありがとうございます、木村先生。今日教えてもらったチェック項目をもとに、まずは総務内で共有してみます。