保険料・標準報酬
短時間労働者の資格取得時決定|初任給の標準報酬月額はどう決まる
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山田
先生、単刀直入に聞きたいんですけど、入社したばかりの人ってまだ1円も給料をもらってないですよね?なのにどうやって社会保険料の基準になる標準報酬月額を決めるんですか?
木村先生
いいところに気づきましたね。実はこれ、多くの総務担当者が最初につまずくポイントなんです。実績の賃金がまだ無い新入社員については「資格取得時決定」という特別なルールで報酬月額を見積もるんですよ。
山田
見積もる、ですか。なんだか曖昧な感じがしますね(笑)
木村先生
曖昧に見えて、実はちゃんと計算方法が決まっています。日本年金機構が公表しているルールに沿って、雇用契約の内容から報酬月額を割り出すんです。今日はその仕組みと、パート・アルバイトなど短時間労働者特有の注意点を整理していきましょう。
資格取得時決定とは何か
山田
そもそも「資格取得時決定」って、正式にはどういう制度なんですか?
木村先生
厚生労働大臣が標準報酬月額を決定するときの算定方法のひとつです。事業所が従業員を雇用した場合、その人にはまだ報酬を支払った実績がないため、就業規則や労働契約の内容に基づいて報酬月額を届け出るという仕組みになっています。
山田
つまり「これから毎月これくらい払う予定です」っていう見込み額で決めるってことですね!
木村先生
そのとおりです。この見込み額をもとに標準報酬月額が決まり、そこから健康保険・厚生年金保険の保険料が計算されます。ちなみに実際に標準報酬月額を決定するのは会社ではなく、届出を受けた保険者(日本年金機構や協会けんぽ)です。会社が書いた見込み額をそのまま保険者が算定に使う、という関係になっています。
山田
なるほど。じゃあ具体的に、その見込み額ってどうやって計算するんですか?月給の人と時給のパートさんとで、やり方が違いそうな気がします!
月給制・日給制・時給制で異なる算定方法

木村先生
よく気づきましたね。実は給与の支払形態によって、計算方法が4パターンに分かれているんです。日本年金機構が公表している資格取得時の決定ルールでは、次のように算定します。
| 支払形態 | 算定方法 |
|---|---|
| 月給制・週給制など一定期間で報酬が定められる場合 | 資格取得日現在の報酬額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額 |
| 日給制・時給制・出来高制・請負制の場合 | 資格取得月の前1か月間に、同じ事業所で同様の業務に従事し同様の報酬を受ける人が受けた報酬額の平均 |
| 上記の方法で算定が困難な場合 | 資格取得月の前1か月間に、その地方で同様の業務・同様の報酬を受ける人が受けた報酬額 |
| 複数の方法に該当する報酬を受ける場合 | それぞれの方法で算定した額を合算した額 |
山田
時給のパートさんだと「同じ職場の似たような人の平均額」を使うんですね。うちの職場、パートさんが初めてだったら基準になる人がいないですよね?
木村先生
その場合は3番目の「地方の同様の業務の相場」を使います。直近で同じ職種のパートを雇った実績がなくても、地域の相場観から見積もれるようになっているんです。
山田
よくできてますね(笑) じゃあ月給制の人の「総日数で割って30倍」って、具体的にどう計算するんですか?
木村先生
例えば月給20万円で契約した人なら、その期間(1か月=30日や31日など契約上の期間)の総日数で20万円を割って、その額の30倍にします。月単位の契約なら結果的にほぼ月給そのものが報酬月額になることが多いですね。通勤手当や時間外手当、精皆勤手当なども報酬月額に含める点は忘れずに。
山田
通勤手当も入るんですね!基本給だけかと思ってました。
木村先生
短時間労働者でもこのルールは同じです。臨時的に支払われる賃金(結婚祝金など)を除いて、毎月決まって支払われる手当は基本的に全部含めます。ここまでは一般の被保険者と共通の考え方ですが、次は短時間労働者ならではの注意点を見ていきましょう。
短時間労働者(パート・アルバイト)特有の注意点
山田
短時間労働者って、そもそもどういう人が社会保険の対象になるんでしたっけ?普通のパートさん全員じゃないですよね?
木村先生
そこは重要なポイントです。短時間労働者が健康保険・厚生年金保険の加入対象になるのは「特定適用事業所」または「任意特定適用事業所」に勤務している場合に限られます。特定適用事業所とは、1年のうち6か月以上、厚生年金保険の被保険者(短時間労働者を除く)の総数が51人以上になる見込みの企業のことです。
山田
51人以上ですか。うちの会社、ちょうどそのくらいの規模なので気になります。
木村先生
しかもこの企業規模要件は段階的に縮小される予定で、2027年10月からは被保険者数36人以上の企業で働く短時間労働者も加入対象になります。会社の規模がボーダーラインにある場合、特定適用事業所の該当・不該当届の手続きも合わせて確認しておくと安心です。
⚠️ 短時間労働者の3要件
特定適用事業所に勤務する人でも、以下の3つすべてに該当しないと短時間労働者としての加入対象にはなりません。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 学生でないこと
- 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
山田
この8.8万円の要件、なくなるって噂を聞いたんですけど本当ですか?
木村先生
よく調べていますね。2026年10月の改正で、この賃金要件は撤廃される予定です。詳しくは社会保険適用拡大2026年10月改正の記事で解説していますので、そちらも合わせて確認してください。今この記事を書いている時点では、資格取得時決定そのものの計算方法自体には影響がなく、対象になる人が広がる、という改正内容です。
山田
なるほど、対象範囲が変わるだけで計算のやり方は変わらないんですね。ちょっと安心しました。ちなみに、掛け持ちで複数のパート先を持っている人だとどうなるんですか?
木村先生
その場合は少し注意が必要です。複数の事業所でそれぞれ社会保険の加入要件を満たすと、両方の事業所で資格取得の手続きが必要になることがあります。この場合は資格取得時決定の算定自体は各事業所ごとの報酬額で行いますが、保険料の負担割合を決めるために二以上事業所勤務届という別の届出が必要になるので、採用時に他の勤務先の有無も確認しておくと安心です。
山田
そういうケースもあるんですね。うちのパートさんにも掛け持ちしている人がいるので、今度確認してみます。
具体的な計算例で理解する
山田
頭では分かった気がするんですけど、実際に数字を当てはめてみないと不安です。具体例で教えてもらえますか?
木村先生
いいですよ。まずは月給制のケースからいきましょう。
例1:月給制のパートを採用したケース
時短勤務で月給15万円(1か月=30日契約)のパートを採用した場合、資格取得日現在の報酬額15万円をその期間の総日数30日で除して1日あたり5,000円、これを30倍すると報酬月額は15万円になります。月単位の契約であれば、結果的にほぼ月給そのものが報酬月額になることが多いです。
山田
あ、月給制の場合はシンプルに月給=報酬月額になるイメージなんですね!
木村先生
そうです。次は時給制のケースを見てみましょう。
例2:時給制のパートを採用したケース
時給1,200円・週20時間勤務(1週5日×4時間)で契約したパートを採用した場合、まずは1か月あたりの見込み労働時間を算出します。週20時間×おおよそ4.33週(1か月平均)で約86.6時間、これに時給1,200円をかけると報酬月額はおよそ10万3,900円になります。同じ職場に同様の業務・同様の報酬を受ける人がすでにいる場合は、その人たちの平均額を使うのが原則です。
山田
なるほど、時給制は「所定労働時間×時給」で見込み額を作って、それを既存スタッフの実績と照らし合わせるイメージですね。
木村先生
そのとおりです。この2つのパターンを押さえておけば、ほとんどの新入社員のケースに対応できますよ。じゃあ、その報酬月額の見積もりって、会社が出せば必ずそのまま通るんですか?
保険者算定の仕組み

木村先生
いい質問です。標準報酬月額を最終的に決定するのは会社ではなく、厚生労働大臣(実務上は日本年金機構や協会けんぽ)です。会社は被保険者資格取得届に見込み額を書いて提出しますが、その内容を保険者が確認したうえで標準報酬月額を決定します。この「保険者が算定する」という建付けそのものが、資格取得時決定の仕組みの核心なんですよ。
山田
つまり会社が出した数字がそのまま自動的に確定するわけじゃなくて、保険者側でチェックが入るってことですね。
木村先生
そうです。通常の方法で報酬月額の算定が困難な場合や、著しく不当だと判断される場合は、保険者が別の方法で報酬月額を算定し直すことがあります。これを保険者決定と呼びます。定時決定や随時改定の場面でよく登場する仕組みですが、根っこの考え方は資格取得時決定と同じです。
見込み額と実態がズレたときの対応
資格取得時に見積もった報酬月額と、実際に支払われる給与が大きく異なることは珍しくありません。その場合、資格取得時決定そのものを遡って訂正するのではなく、固定的賃金の変動から3か月間の実績を見て2等級以上の差が生じたときに随時改定(月額変更届)で是正するのが実務の流れです。
山田
あ、そこで随時改定が出てくるんですね。資格取得時の見込みが多少ズレても、後から直せる仕組みがあるって分かって安心しました。じゃあ、実際に会社がやらなきゃいけない手続きの流れを教えてください。
手続きの流れ
木村先生
資格取得時決定に関する会社側の手続きは、実はシンプルです。順番に見ていきましょう。
手順
- 雇用契約の内容を確認する: 月給・週給・日給・時給のどの方式か、所定労働時間、通勤手当などの手当の有無を確認します。
- 報酬月額を見積もる: 上で紹介した4パターンのいずれかに当てはめて、資格取得時の報酬月額を算定します。
- 被保険者資格取得届を作成する: 見積もった報酬月額と短時間労働者の該当有無を記載します。
- 雇用した日から5日以内に提出する: 事務センターまたは管轄の年金事務所へ、電子申請・郵送・窓口のいずれかの方法で提出します。
- 保険者による決定を待つ: 日本年金機構が届出内容を確認し、標準報酬月額を正式に決定して通知します。
山田
「5日以内」って結構タイトですね!うっかり忘れそうで怖いです(笑) 被保険者資格取得届の手続き自体も、入社したらすぐ動かないといけないってことですよね。
木村先生
そうなんです。資格取得時決定は被保険者資格取得届と一体の手続きなので、届出が遅れるとそのまま保険料の適用開始も遅れてしまいます。採用が決まった段階で、報酬月額の見積もりまで前倒しで準備しておくのがおすすめです。
山田
提出の方法っていくつかあるんですか?窓口に行かないとダメなイメージがあります。
木村先生
いいえ、電子申請・電子媒体(CDやDVD)・郵送・窓口持参のどれでも大丈夫です。特に電子申請を使えば、事務センターの窓口が開いていない時間帯でも手続きを進められるので、5日という短い期限を守りやすくなります。紙で提出する場合は、余裕を持って早めに準備しておきましょう。
問い合わせ先
- 管轄機関: 日本年金機構(事務センター・年金事務所)/協会けんぽ
- 公式ページ: 資格取得時の決定(日本年金機構)
山田
決定した標準報酬月額って、いつまで使い続けるんですか?ずっとそのままなんですか?
標準報酬月額の適用期間
木村先生
ここも間違えやすいポイントです。資格取得時に決定された標準報酬月額は、資格を取得した月からその年の8月まで適用されます。ただし6月1日から12月31日の間に資格取得した場合は、翌年の8月まで適用が続きます。
| 資格取得のタイミング | 標準報酬月額の適用期間 |
|---|---|
| 1月〜5月に資格取得した場合 | 資格取得月からその年の8月まで |
| 6月〜12月に資格取得した場合 | 資格取得月から翌年の8月まで |
山田
つまり、入社した年の9月になったら見直しがあるってことですか?
木村先生
はい。毎年7月に行われる算定基礎届(定時決定)によって、9月からの標準報酬月額が改めて決まり直します。資格取得時決定はあくまで「入社直後の暫定的な基準」で、その後は定時決定や随時改定に引き継がれていくイメージですね。
山田
暫定的、というのは意外でした。てっきりずっと同じ数字が続くのかと思っていました。
実務上のポイントと注意点
木村先生
実務でよくある間違いや注意点をいくつか整理しておきましょう。
実務でよくある3つの注意点
- 手当の見落とし: 通勤手当や固定残業代のように毎月定額で支払う手当は、見込み額に含め忘れると後で随時改定の対象になりやすくなります。
- 短時間労働者の該当区分の記載漏れ: 特定適用事業所に勤務する短時間労働者かどうかで、後の定時決定の支払基礎日数の基準(17日か11日か)が変わります。
- 5日以内の期限管理: 入社日から起算するため、月をまたぐ入社や連休をはさむ採用では特に注意が必要です。
⚠️ 見込み額を低く申告するリスク
実態よりも低い報酬月額で届け出ると、標準報酬月額が実態より低くなり、将来受け取る年金額や傷病手当金・出産手当金などの給付額にも影響します。意図的な過少申告は保険者決定による是正や追徴の対象になるため、雇用契約の内容に沿った適正な見積もりを行いましょう。
山田
給付額にまで影響するとなると、ちゃんと正確に見積もらないといけませんね。じゃあ、似たような制度である算定基礎届や月額変更届とは、何が違うんでしたっけ?もう一度整理してほしいです。
算定基礎届(定時決定)・月額変更届(随時改定)との違い
木村先生
標準報酬月額を決める3つの場面を、まとめて比較してみましょう。
| 制度 | 決定するタイミング | 対象者 | 関連記事 |
|---|---|---|---|
| 資格取得時決定 | 入社(資格取得)のとき | 新たに被保険者になった全員 | 本記事 |
| 定時決定(算定基礎届) | 毎年7月、4〜6月の実績をもとに | 7月1日時点の全被保険者 | 算定基礎届の書き方と提出期限 |
| 随時改定(月額変更届) | 固定的賃金が変動したとき | 3か月連続で2等級以上の差が出た人 | 月額変更届の書き方と提出タイミング |
山田
なるほど、資格取得時決定は「最初の一歩」で、そのあとは定時決定と随時改定でメンテナンスしていくイメージなんですね。
木村先生
まさにそのとおりです。標準報酬月額の等級表や保険料の計算構造そのものについては、標準報酬月額の仕組みと保険料計算で1〜50等級まで詳しく整理していますので、あわせて読んでおくと理解が深まります。
山田
全体像が見えてきました!最後に、基本情報を表にまとめてもらえますか?
基本情報まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度名 | 資格取得時決定(標準報酬月額) |
| 根拠 | 健康保険法・厚生年金保険法に基づく報酬月額の算定ルール |
| 手続き期限 | 雇用した日から5日以内(被保険者資格取得届と同時提出) |
| 対象者 | 新たに被保険者資格を取得した全従業員(短時間労働者を含む) |
| 短時間労働者の加入要件 | 週の所定労働時間20時間以上・学生でない・所定内賃金月額8.8万円以上(特定適用事業所等に限る) |
| 適用期間 | 資格取得月からその年8月まで(6〜12月取得は翌年8月まで) |
| 管轄機関 | 日本年金機構(事務センター・年金事務所)/協会けんぽ |
| 公式ページ | https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20120330.html |
よくある質問
山田
最後にいくつか、細かい疑問をぶつけてもいいですか?
木村先生
もちろんです、どうぞ!
山田
中途採用で月の途中から入社した人でも、計算方法は同じですか?
木村先生
はい、同じです。月給制なら契約している期間の総日数で割って30倍にするので、月の途中入社でも考え方は変わりません。
山田
短時間労働者が途中でフルタイムに変わったら、資格取得時決定をやり直すんですか?
木村先生
その場合は資格取得時決定のやり直しではなく、被保険者区分変更届という別の手続きが必要になります。区分が変わるタイミングで報酬月額も改めて確認しましょう。
山田
見積もった報酬月額と最初の給与が少し違うだけでも、随時改定の対象になっちゃうんですか?
木村先生
いいえ、随時改定は固定的賃金の変動があってから3か月連続で2等級以上の差が出た場合に限られます。多少のズレだけで即座に是正されるわけではないので、そこは安心してください。
山田
特定適用事業所じゃない会社で働くパートさんは、資格取得時決定の対象にならないんですか?
木村先生
週の所定労働時間・日数が通常の従業員の4分の3以上であれば、特定適用事業所でなくても一般の被保険者として加入対象になり、資格取得時決定の対象になります。4分の3未満で、かつ特定適用事業所の短時間労働者要件も満たさない場合は、社会保険の加入対象外です。
山田
見込み額の計算を間違えて届け出てしまった場合、後から訂正はできますか?
木村先生
できます。届出内容に誤りがあった場合は、訂正の届出を管轄の年金事務所や事務センターに提出すれば修正できます。気づいた時点で早めに相談するのが一番です。
山田
今日で入社直後の標準報酬月額の決め方がすっきり分かりました!ありがとうございました。
木村先生
こちらこそ、いい質問をたくさんもらえて助かりました。パートさんを採用するときは、まず所定労働時間と時給・日給を確認して、今日紹介した4パターンのどれに当てはまるかをチェックしてみてください。そのひと手間が、後々の随時改定や年末の定時決定での手戻りを減らすことにもつながります。